多くの風邪に抗菌薬(抗生物質)は効かない。原因が細菌ではなくウイルスだからだ。しかし、実際の診療の現場では抗菌薬が処方されることが多いとされる。
池上総合病院(東京都大田区)の小児科科長、辻祐一郎(55)は数年前、ウイルス性の風邪とみられる症状で訪れた子供の母親に抗菌薬の処方を断った。すると母親はこう訴えた。
「この子には効くんです。いつも効きますから」
母親の思い込みかもしれないが、身近で看病する保護者の“経験”をむげにするわけにもいかない。
「多くの小児科医は風邪に抗菌薬が効かないと知っていて、出さないようにと考えている。しかし、保護者に納得してもらえないことがよくある」と辻は打ち明ける。丁寧に説明して理解を求めることにしているが、「あの先生は出してくれたのに」「薬を出してくれないなら別の病院に行く」と言われた経験を、多くの医師が持つ。
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