野外でヒトの死体がどのように腐敗していくのかを研究していた法医学者が意外な光景に出くわした。人骨をかじるオジロジカ(Odocoileus virginianu)だ。(参考記事:「動物大図鑑 オジロジカ」)
腐敗の過程を研究する施設は「死体農場」と呼ばれ、どんな動物が死体に群がってくるのかも研究対象になっている。(参考記事:「真犯人を追う 科学捜査」)
よく見かけるのは、キツネ、ヒメコンドル、アライグマなど。米テキサス州サンマルコスにある法医人類学研究所では、他にも死体を食べにやってくる動物がいるかどうかを観察するため、カメラを仕掛けた。すると、予期していた通り興味深い発見があった。(参考記事:「【動画】アナグマが子ウシを埋葬? 行動を初めて記録」)
草食動物の有蹄類でも、目の前にあればヒトの死体を食べることがわかったのだ。この研究結果は、5月2日付で科学誌「Journal of Forensic Sciences」誌に発表された。
生きた鳥や魚も食べる
オジロジカは、普段はどこにでも生えている小枝や木の実、草の芽、そしてキノコなどの植物を食べる。
けれども、時には肉食に転じることがある。人骨を食べる姿が観察されたのは今回が初めてだが、魚や死んだウサギ、生きている鳥まで食べるという報告は以前から存在した。(参考記事:「【動画】シカ3頭がコンビニに乱入でドタバタ劇」)
特に植物が少なくなる冬などに、リン、塩、カルシウムなどのミネラルが不足すると、シカは骨を欲するのではないかと考えられる。
この研究結果によって、シカの行動の意外な一面が明らかとなったわけだが、法医学者らは、死体の腐敗が進んでしまった事例での応用に期待を寄せている。シカの歯型の特徴がわかれば、新たな事件の解決に役立つかもしれない。何より、人骨に歯型をつけるのはこれまで肉食動物だけと考えられていたため、考古学や人類学における人骨についた歯型の研究について、新たな手がかりを与えてくれると期待されている。(参考記事:「初期人類はライオン狩りをしていた?」)