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【社説】

先生の過重労働 しわ寄せは子どもに

 先生が疲れ切っていては、子どもたちへの目配りがおろそかになる。学校の“ブラック企業化”を食い止め、先生の心身のゆとりを取り戻さなくてはならない。教育者であり、労働者でもある。

 公立小中学校の先生がいかに過酷な勤務を強いられているか。文部科学省の二〇一六年度の調査は、その実態を浮き彫りにした。

 一週間あたりの教諭の平均労働時間は、小学校で五十七時間二十五分、中学校では六十三時間十八分に達している。

 「過労死ライン」とされる月八十時間超の残業を余儀なくされている教諭は、小学校で三割、中学校で六割に及ぶすさまじさだ。

 国を挙げて働き方改革が進められる中、公立校の先生は蚊帳の外に置かれている。残業の上限を規制し、健全な労働環境を守る法的枠組みを整えるべきだ。

 最大の問題は、一九七一年制定の「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」だろう。残業代の請求訴訟が相次いだことを契機に、先生の給与や勤務のあり方を定めたのだ。

 先生の仕事は自発性や創造性が期待され、働いた時間の長短で評価できない特殊なものとされ、時間外手当は出ない。代わりに、八時間分の勤務に相当する本給の4%が毎月一律に支給される。

 つまり、残業そのものを原則として想定していない。一日七時間四十五分の所定の勤務時間をやりくりし、仕事を片づける建前になっている。たとえ授業の準備や部活動の指導、家庭訪問が長引いても、ボランティア扱いなのだ。

 残業代を支払う必要がないので、学校は際限なく仕事を増やすことができる。しかも、先生の勤務時間を把握する意味合いは薄れるから、長時間労働が常態化しやすい。労働の無法地帯に等しい。

 連合総研の調査では、タイムカードなどで出退勤時刻を記録する小中学校は一割程度にすぎない。

 この法制度の欠陥はかねて指摘されてきた。なのに、国は人件費を抑制したいからか抜本見直しに踏み込まず、仕事の量と質のハードルを上げるばかりだ。

 グローバル人材育成を目指すとして授業時間を増やす。いじめや不登校、発達障害には丁寧な対応を求め、地域や家庭との連携を促す。精神疾患で休職する先生は、高校を含め年間五千人に上る。

 もはや先生の熱意や責任感に頼る精神主義では、教育現場の崩壊を招きかねない。そのしわ寄せを被るのは子どもたちなのだ。

 

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