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70歳を越えても肉体労働か、ホームレスか、刑務所行きか|「超高齢化社会」で歳を取るということ

From La Vanguardia Magazine (Spain) バングァルディア・マガジン(スペイン)
Text by Eve Gandossi Photographs by Pascal Meunier

夫を亡くしたサトウレイコ(78)は独りで高齢化率全国トップの夕張市に住む

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加速化する日本の少子高齢化。年金は当てにならず、70歳を過ぎても深夜労働を余儀なくされる。生活難から自ら命を経ち孤独死する道を選ぶ人もいれば、わざと軽犯罪を犯して刑務所に入ろうとする人も──。日本の高齢化社会に未来はあるのか、スペインから記者が取材を重ねた。

リタイアできるのは恵まれた少数派


健康状態は決して良くないにもかかわらず、サトウレイコはつかつかと北海道夕張市の閑散とした道路を横切って出勤する。冬の冷気が骨にまで染みる。

彼女に選択肢はない。サトウの夫はすでに亡くなっており、月730ユーロ(約8万5000円)ほどのわずかな収入で生活をやりくりしている。たとえ80歳を目前に控えていても、生き延びるためには仕事を続ける必要がある。

夕張市は人口9000人ほどの小さな都市だ。かつては「石炭の首都」として栄えていた。ところが、いまでは日本国内で「最も年寄りの多い街」へと変貌した。2人に1人が65歳以上で、1人の出生届が出されるたびに8人が亡くなっている。そして、1990年に最後の炭鉱が閉山されて以来、日本列島で最も負債を抱えた都市となった。

閑散とした夕張市内


廃墟となったまま手のつけられていない病院


だが一方で、同市は高齢化が進む日本のモデル都市になろうと試みてもいる。

夕張市のカリスマ市長、鈴木直道(日本で最も若い市長で、2011年に初当選した)は、まず、自身の月給をわずか2000ユーロに設定した。これは日本の市長のなかで最も低い金額だ。

彼の最優先課題は、この町の高齢者が最期を迎える日まで、尊厳を持って生きられるようにサポートすることだ。夕張市は劇的な変化がない限り、25年後に人口の3分の2を失うことになる。

日本で一番若い市長の鈴木直道(右)


同市はまさに、日本社会の縮図ともいえる。1975年、日本の65歳以上の割合は8%ほどで、OECD(経済協力開発機構)加盟国のなかで、最も若い世代が多い国だった。しかし、現在では65歳以上の人口が27%まで増え、このまま高齢化が進めば2050年には41%になると予想されている。

「ユニ・チャーム」では同社の歴史上初めて、高齢者用のおむつの販売数が幼児用のものよりも上回ったと発表した。

日本女性1人の出生率が1.43では、新たな世代で社会が生まれ変わることも保証できない。だが、寿命は延び続ける一方だ。

政策研究大学院大学の島崎謙治教授はこう警鐘を鳴らす。

「いまのところ、退職した高齢者を支えるのに2〜3人の働き手がいますが、2050年にはそれがたった1.3人になるという、危機的な状況です」

高齢者は“使える”存在でなくてはいけない


東京では高齢者が制服に袖を通し、夜間も道路を交差する人たちのために交通整備をおこなっている。京都では、手袋と同じくらい白い頭のタクシー運転手で溢れている。名古屋では、白内障の手術が必要な警備員が、たるんだ筋肉を見せて働いている。

深夜に地下鉄の整備をおこなう高齢者


人手不足を補うために、弱視や動きの鈍さには目をつぶらなければいけないのだ。65歳以上の高齢者のうち4分の1が、肉体労働を強いられている。

日本は世界のなかでも外国人の受け入れ体制が厳しい数少ない国で、住んでいる外国人は日本全体の1.4%にしか過ぎない。それゆえ、高齢者が働き続けたり、再就職したりすることを余儀なくされている。

高齢者による労働力を活かしても、現在の日本社会を維持する以上のものではないものの、60歳以上の80%が何らかの形で労働している。

2014年から大手ファーストフード・チェーンの「モスバーガー」は「モスジーバー」と呼ばれる高齢者を雇いはじめた。緑色の制服に身を包み、帽子から白髪をのぞかせる10人の特別店員は、交代制で夜間に働いている。モスジーバーの仕事に対する態度、丁寧さ、そして笑顔は客を安心させる。

彼らの多くは将来に不安を感じて、仕事を続けることを余儀なくされている。パリ・ディドゥロ大学で日本の少子高齢化を研究しているジュリアン・マーティンはこう説明する。

「1つの大企業でずっと働き続ける人は少数派です。そんな人たちだけが、巨額の年金を受け取ることができるのです。大半の高齢者には関係ありません」

さらに、彼女はこう付け加える。

「仕事を続ける目的は、かつて『歳を取っても技術を磨きたいから』というものでした。それが多くの高齢者にとって、『労働の必要に迫られたから』へと変化しています」

問題を深刻化させているもう1つの原因は、同じ屋根の下で暮らす子供や孫に面倒をみてもらえなくなった、という変化である。世界で第3位の経済大国が、儒教の教えである「親孝行」という考えを捨て、個人主義の社会へと変わりつつあるのだ。

2008年には、当時の総理大臣だった麻生太郎が保険費用の高騰に対する懸念を示して「どうして、食べたり飲んだりする以外に指1本も動かさない人を養わなければならないのか?」と文句を言った。前出のマーティンはこう語る。

「『家族』に代わり『社会』が高齢者を支える状況に陥っています。だから、年を重ねても高齢者は“使える”存在でいなければいけないという、暗黙の圧力がかかっているのです」

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