ジャパンディスプレイ(JDI)が10日発表した2017年3月期の連結最終損益は316億円の赤字(前の期は318億円の赤字)と3期連続の最終赤字だった。官民ファンドの産業革新機構が主導して日立製作所と東芝、ソニーの液晶パネル事業を統合し設立して5年。同社は一度もフリーキャッシュフロー(FCF、純現金収支)を黒字化できていない。設立当初から「日本の最先端技術を守れ」との経済産業省の常とう句がついて回ったJDI。ただ「稼げぬ技術」は国を挙げて守るべきものなのだろうか。
「黒字化がかなわなかったことは経営者として非常に責任を感じている」。10日午後に東証で開いた決算発表記者会見で、有賀修二社長は最終赤字についてたんたんと語った。これまで四半期ごとに登壇していた本間充会長は欠席した。本間会長は前回2月8日の決算説明会で「今期(17年3月期)は最終黒字化を必ずやり遂げる」と強調していた。上場以来、業績予想の下方修正を繰り返してきた同社はまた「公約」を守れなかった格好だ。
JDIの17年3月期を振り返ると苦難の連続だった。前の期の16年3月期に売上高の54%を占めた米アップル向けが「iPhone6s」を大幅に減産した影響で工場稼働率は低迷。5月には資金繰り問題が表面化し、毎月のように経営陣は「金策」に奔走した。12月には筆頭株主の革新機構が750億円の金融支援を決定し、資金繰り問題はいったん決着したかに見えた。
しかし工場稼働率を下支えしてくれていた中国スマートフォン(スマホ)メーカーが有機ELパネルを求めてサムスンへの発注を増やし、JDIの受注量は減少した。17年3月末の現預金額は822億円と、革新機構の750億円が入金される前の16年9月末の727億円と大差ない水準に目減りしている。このまま季節要因としてiPhone向けのパネル出荷が低調な4~6月期を迎えることで資金繰り問題が再燃しかねない。
そもそも16年12月の革新機構の資金支援にも疑問符が付く。革新機構常務執行役員でJDI社外取締役を務める谷山浩一郎氏は記者会見で「JDIの技術は世界の最先端を走って業界をリードしてきた。思い切って開発資金を投資して先頭を走る」と支援の意義を強調していた。実態は違う。スマホ向け有機ELパネルで年間5億台規模の生産能力を持つサムスンに大幅なリードを許し、「資金力を考えると、もはや挽回は不可能」(国内証券アナリスト)といわれるほどに差が開いているのだ。
その谷山氏は4月末で革新機構を静かに退職した。2年間トップを務めた本間会長も6月下旬でJDIを去ることが決まっている。さらに750億円の資金支援のためにひねり出した「成長戦略」の柱だったはずの有機ELパネル開発のJOLED(ジェイオーレッド)子会社化も先延ばしになっているのが現状。JDIの混迷は昨年末よりさらに深まっている。
日立、東芝、ソニーの事業統合によって生まれたJDIは、経産省主導の官民ファンド、革新機構が手掛けた総合電機の事業再編の第1弾だった。ただ設立以降、FCFを一度も黒字化できずに混乱続きのJDIに、顧客が求める「本当の技術力」があると言い切れるのだろうか。同社設立から5年。経産省、革新機構が、この疑問に真っ正面から向き合うべき時にきている。
(細川幸太郎)