研究テーマ一覧
進路指導の社会学Socioligy of Guidance Counseling
- 2009年〜現在に至る 多様な大学入試制度が高校の進路指導に与えてきた影響について研究をしています。近年では、AO入試に対する進路指導が常態化し、従前あった学力重視の進路指導が学力上位校で、新規の多様な能力観に基づく進路指導が学力下位校に広まっていることを全国調査で明らかにしてきました。この状況は、進路指導の二極化を表すもの(「ガイダンス・トラッキング」と呼んでいます)であり、木村は「「ガイダンス・ディバイド(進路指導によって生じる学力格差)」と呼んでいます。AO入試の位置づけ、社会的イメージが変わらない限り、この現象はますます拡大していくと思われます。 また、JCIRPの調査データを用いたところ、高校時代の探求学習体験が必ずしも大学入学後の充実と関係していないことも分かってきました。「やらされる」探求学習にどれだけ意味があるのか、制度としてもそれを評価する入試方法に対しても大いに疑問を持っています。高校、大学とそれぞれに教育目的・目標があるはずなので、制度的に無理矢理に「接続」「先取り」させることには大いに反対です(ただし、個人的に生徒がやる分には大いに賛成です)。更に、AO入試における情報格差は歴然としてあり、それ故に都市部と僻地の高校ではAO入試にの在り方・捉え方に大差があることにも疑問を持つようになりました。特に、都市部の高校に指定されることの多いSSHやSPPはその取り組み自体には異論はないにせよ、それを根拠に受験することには大いに異論が生じます。 総括としては、『教育制度学研究』の特集への寄稿論文をご笑覧ください。
AO入試の研究Admissions Office Examination
- 2008年〜現在に至る 主として、アドミッションセンターに着任し、入試業務に携わるようになってから、業務を通じて自身で感じた違和感を表現するために研究を始めました。まず、取り組んだのが、「面接試験・小論文試験の信頼性」です。これは、一般化可能性理論というテスト理論の中の道具を用いて研究しましたが、信頼性の高い面接という意味ではなかなか結果は厳しく、現場の事情も多々あったのですが、そもそも、そうした事後検証を可能にする面接官配置になっていないことにも気付かされました。そこで、面接官配置のマニュアルも作りました。その他、10年あまりのAO入試に対するイメージの変化や、AO入試の位置づけに対する地域差なども明らかにしています。 一方、こうした研究を進めて行く中で、テスト理論の「暗黙の前提」にも少し懐疑的になったりもしました。例えば、信頼性指標ですが、最も信頼性が高い(誤差の少ない)質問は、代えようのない事実を問う質問(Yes/Noがはっきりしている)です。例えば、「あなたは男性ですか、女性ですか」などです。信頼性指標の値が高いことが必ずしもテストの性能の良さを保障しない、ということでしょうか。一般的に、価値観がぶつかるような質問項目は信頼性指標の値が低く、代えようのない事実を問う質問、基本的な質問事項などは、信頼性指標の値が高くなります。ただ、信頼性が低い、ということは、理論的にも(テストデータを計算しているだけなので)質問の意味内容が含意されているにわけではなく、単に採点者の「評点」が一致したかによっているだけなのです。数値だけでテスト項目を判断することはダメで、やはり改めて「テスト学」は現場の学問だと感じる良い経験となりました。一方で、信頼性も内容面でも文句のない、大学入試の面接場面で効果のある質問も見えてきました。詳しくは論文をご覧下さい。
大学入試の計量社会史Sociometrics of Examinaiton
- 2006年〜現在に至る 戦後日本の大規模大学入試制度は、米国からの入試制度の輸入によって始まります。所謂、「進学適性検査」です。その後、「能研テスト」、「共通第1次学力試験」「大学入試センター試験」と変遷して行きます。当初、大学入試の原則は、予測的妥当性に従って設計されていました。それが、私が「エドミストンの三原則」と名付けているものであり、過去に力を発揮した人、現在力を発揮できる人、将来に力を発揮できる人、この3つを等しく足したものが、大学入学に最も相応しいという考え方です。これを正当化するために、追跡調査研究が行われました。その結果、実は、学力検査は必要なく、面接や小論文の方が入学後の成績と相関が高いという研究結果が生じてしまいます。ですが、実は、これは選抜効果や切断効果と呼ばれる統計的な陥穽なのです。また、当時の重回帰分析では、調整済み重相関係数ではなく、単なる重相関係数でのみ計算が行われていました。これは、変数が増加するたびに単調増加する性質が知られており、変数選択に際してはあまり意味をなしません。そうした数々の誤りののち、学力検査以外の入試を、或いは、いろんな選抜資料によって多面的に評価する入試という言説が<科学的に>正当化されて行ったのです。私は、このことを「統計の誤謬と世間の不幸な結婚」と呼んでいます。こうしたことを、過去のテストデータを分析することによって明らかにしています。共通第1次試験の導入の際にも様々な議論があり、ここでは、東大を中心とする「テストの専門家」が大活躍します。そのことについては、拙論をご笑覧ください。
テストの専門家育成Professionals of testing
- 2006年〜現在に至る 「テストの専門家」というのは私の造語です。それがどれだけ定義が曖昧であったのかを歴史的にあきらかにする研究、現在の「テストの専門家」に対する調査研究を行ってきました。現在では、「テストの専門家」という言葉も浸透してきたのではないかと思っています。一般に、英語のテストを作る人は、英語の教科の先生というように、基本的には、内容的な専門性を担保する人と捉えられています。ですが、欧米などでは、テスト学に基づく「テストの専門家」が職業としてあり、日本でも少数ですが、人材養成が行われ、専門家として活躍してきました。それが一般に認知されないのは、テスト業務が秘匿的に行われる仕事だからではないでしょうか。教育の質保障、大学入試改革、司法試験、医師国家試験など、テストを管理する専門家は至る所で必要とされていますが、残念ながら専門家養成コースがあまり存在しないため、人材不足なのが現状です。 ただ、現在では、「日本テスト学会」が設立され、「テストスタンダード」も制定されています。少しでもテストに興味をもってもらおうと、教養教育段階で、「テスト学への招待」という講義を続けています。興味があったら聴講してみて下さい。
過去の研究テーマBefore Stuies
- 入学前教育の研究(2010年〜2012年) 長崎大学入学前教育の立ち上げを行いました。Brended Leariningを基本設計コンセプトとし、事前合宿と事後のe-Learningの組み合わせで行いました。効果測定については、介入研究として、入学前教育事前事後の効果検証を行いました。その結果、1.不安軽減に非常に効果があったことと、2.基礎学力の伸張が急激なものがいたことが分かりました。