あなたは普段からお口のケアでフロス(糸ようじ)や歯間ブラシを使っていますか?
「フロスとか歯間ブラシって、年配の人や歯周病の人が使うやつなんじゃないの?」と思っている方も多いのですが、そんなことはありません。
実は、”歯ブラシと一緒にこれらの道具を使うことで、磨き残しを抑えることができる”というデータがあります。
歯間ブラシの歯間部のプラーク除去効果(日歯保存誌、48、272(2005年))
歯磨きの目的は、歯の表面のプラーク(細菌の塊)を取り除くことです。プラークを普段の歯磨きでしっかりと取り除くことが出来るようになれば、歯周病のリスクは大幅に減りますし、虫歯予防に対しても少なからず効果があります。
また、歯ブラシ1本で時間をかけて「磨き残しゼロ」を目指すよりも、フロスや歯間ブラシも一緒に使って効率よく磨いてあげる方が短時間でケアを終えることが出来ます。
つまり、一生自分の歯で過ごしたいと思うすべての人に使って頂きたいのが「フロス」と「歯間ブラシ」なんです。今回はそんな2つの道具の正しい使い方、使い分けの基準や注意点までかなり詳しくお話していきます。
是非、しっかり身につけて効率のいいお口のケアを始めていきましょう!では、早速スタートです。
目次
なぜフロスや歯間ブラシも使った方がいいのか?
「歯磨き=歯ブラシを使ったお口のケア」というイメージですが、フロスと歯間ブラシも一緒に使った方がとても効果的なケアが可能になります。
冒頭でもこの2つの道具を使う価値についてお話しましたが、もう少し掘り下げて説明したいと思います。
歯磨きの最大の目的は、「歯周病予防」です。この歯周病という病気がお口のどこから始まるか、あなたは知っていますか?
実は、この病気はほとんどの場合、歯と歯の間から進行し始めます。
歯と歯の間の空間は歯ブラシや唇、頬っぺたなどが擦(こす)れる機会が少ないため、プラーク(細菌の塊)が溜まりやすい環境になっているからです。
もちろん歯ブラシの毛先を歯と歯の間に突っ込んだりすれば、ある程度プラークを落とすことも出来ますが、フロスと歯間ブラシを使った方が遥かに短時間で、効率よく掃除をすることが出来るのです。
つまり、歯ブラシよりもフロスや歯間ブラシに力を入れた方が、「歯周病のリスクを減らす」という意味では価値が高いのです。
デンタルフロスの正しい使い方
ではここからフロスと歯間ブラシの具体的な使い方について説明していきたいと思います。先ずはフロスからです。
オススメのフロスはコレ!
使用するのは下記のような商品です。
弓の弦のように予めプラスチックに張られたフロスも販売されていますが、使い勝手がよくないので自分で好きな長さを切って使うものがオススメです。
フロスの表面をワックスでコーティングしたもの、コーティングなしのもの、味付きのものなど様々な種類がありますが、商品で迷ってしまうよりも「先ずはどれでもいいから使ってみる」という姿勢が大切です。
基本的には上記の商品を参考にしてみて下さい。
使用するフロスの長さと持ち方
使用する長さは、
この写真のように指先から肘くらいまでの長さです。少し長いように感じるかも知れませんが、ケチって短い長さにしてしまうと効率よくフロスを使えないので注意して下さい。
切り出したフロスは、
こちらの写真のように中指に巻きつけて使います。指で挟んで持つだけでは、フロスが滑ってしまって上手く使えないからです。
この状態で人差し指と親指を使って歯と歯の間に入れていきます。
フロスの挿入方法
実際に歯と歯の間に入れる際には、
こちらの写真のように左右に引きながらゆっくりと歯と歯の間に入れていきます。力任せに「パチン」と入れてしまうと歯茎を傷つけることになるので、注意して下さい。
上の歯の場合は、
こんな使い方になります。左右の親指で入れるのが難しい場合は、人差し指と親指を組み合わせても大丈夫です。
歯の間に入れた後の使い方
フロスは歯と歯の間に入れただけでは、そこまでプラーク(細菌の塊)を取り除く効果はありません。なぜならフロスが擦(こす)れたところしかキレイにならないからです。
歯と歯が接している箇所(上記の緑色の丸で囲まれた箇所)はフロスが通過しただけで擦(こす)れるので、プラークは取り除けます。
しかし、歯と歯の接触点の下にはフロスの直径よりも遥かに大きな空間が空いています。ここのプラークも一緒に取り除かなければいけません。
上記の写真のように歯に擦(こす)り付けるように手を左右に引きながら、上下に動かしていきます。左右の歯の隣り合う面をそれぞれ磨き終われば、次の歯と歯の間に移ります。
フロスの抜き方
フロスを歯と歯の間から抜くときは、入れた時と逆の方向にゆっくりと力をかけていきます。ほとんどの場合は、これで抜けるはずです。
歯の接触が強くてなかなか抜けない場合は、片方の中指に巻かれたフロスを解いて横方向に抜き取って下さい。
次の歯と歯の間に入れる前に
次の歯と歯の間にフロスを入れる前に、使用する位置を少し変えます。左右の中指に巻かれた長さを調整して、先ほど使った箇所とは別の箇所を使って下さい。
何度も同じ箇所で歯と歯の間に通しているとフロスがボロボロになってしまい、プチンと切れてしまうこともあるのでこまめに使う箇所を変えていきましょう。
デンタルフロスのQ&A
ではここからは、患者さんから頂いたフロスに関しての質問にお答えしたいと思います。
Q1:フロスはいつ使ったらいいのか?
フロスを使うオススメのタイミングは、「歯ブラシの前」です。
ほとんどの方は歯ブラシを使った歯磨きの後にフロスを使うと思いますが、その順番では期間が経つうちにやらなくなってしまうからです。
「歯ブラシを使った歯磨き」は物心ついた頃から行なっている習慣なので、誰でも意識せずに行います。しかし、フロスや歯間ブラシといった補助器具は、大人になってから本格的に使い始める方がほとんどなので、習慣になるまでかなりの時間が必要になります。
完全に習慣になってしまうまでは、「フロスが終わらないと歯磨きしない」というルールを設定して実践することがオススメです。
頻度は1日1回で十分です。回数よりも1回の質を大切にしながら実践してみて下さい。
Q2:フロスを通すとすぐにボロボロになる箇所があるのですが大丈夫ですか?
フロスを通すたびに引っかかってしまい、すぐにボロボロになってしまう箇所があった場合、そこは虫歯になっているか被せ物や詰め物が合っていない可能性があります。
一度歯医者でレントゲンを撮ってもらうなど、詳しい検査を受けた方がいいと思います。治療を受けて原因が解決すれば、スムーズにフロスが通せるようになるはずです。
Q3:フロスを通すとよく出血する箇所はどうなっていますか?
フロスを通すとよく出血する箇所がある場合は、普段からプラーク(細菌の塊)が溜まっていて炎症が起こっていることが考えられます。
先ずは2週間、毎日1回、丁寧にフロスを通してみて下さい。炎症が収まるにつれて出血はなくなるはずです。
2週間経っても出血が減らない場合は歯茎が傷ついて出血している可能性があるので、歯医者で一度チェックを受けることをオススメします。
基本的には「フロスを通した時に痛みがなければ、そのまま続けて使用する」、「痛みがあれば歯茎が傷ついている可能性がある」と覚えておいて下さい。
Q4:フロスを通して食べかすが取れたら次の歯に移ってもいいですか?
フロスは一般的に「糸ようじ」とも呼ばれていたりするので、食べかすさえ取れれば目的を達成したと考える方が多いのですが、食べかすを取ることとプラーク(細菌の塊)を落とすことは全くの別物です。
プラークは基本的に歯と同じ白色をしているので、食べかすのようにゴロッと取れるものではないんです。
食べかすが取れたかどうかではなく、「全ての歯と歯の間をキレイに擦(こす)れたかどうか」を基準にして掃除を終えて下さい。
食べかすが取れてもプラークが残ってしまっていては、フロスを通している意味がほとんどないので注意して下さい。
プラークがしっかり取れているか心配な場合は、歯医者でチェックしてもらうのがオススメです。
歯間ブラシの正しい使い方
では、ここからは正しい歯間ブラシの使い方について詳しくお話していきたいと思います。
オススメの歯間ブラシはコレ!
インターネットでの購入を考えるのであれば、こちらの歯間ブラシがオススメです。歯周病治療を専門にする歯科医院でも販売されているものです。
ストレートタイプですが、ワイヤー部分を自分で曲げてL字にすることが出来ます。
薬局でも扱っているものであれば、
こちらを基準に選んでもらえればと思います。
逆に選んではいけないのが、ゴム製の歯間ブラシです。
ゴム製のものは通し心地がいいので薬局でもよく売れている商品ですが、プラーク(細菌の塊)を取り除く能力がとても低いんです。
食べかすを取るための爪楊枝として購入するのであれば構いませんが、お口のケア用品として使うのはやめましょう。
歯間ブラシのサイズは何を基準に決めればいいのか?
歯間ブラシは、SSS〜Lサイズまであります。
どのサイズがいいのか迷ってしまうところですが、一番確実なのは歯医者であなたに合ったサイズを提案してもらうことです。
もし、歯医者に行かずに自分だけでサイズを決める場合は、「歯と歯の間にズブッと抵抗を感じながら入れられるサイズ」を基準に選んでみて下さい。
初めて使う場合はSSS(一番小さい)サイズから始めてみて下さい。「スカスカだな・・・」と感じるのであれば、歯間ブラシが細すぎるのでサイズを上げましょう。
歯と歯の間のスペースは場所によって大きさが異なるので、たくさんのサイズを使い分けなければいけないと思ってしまいますが、太いものと細いものの2サイズくらいに抑えて、通し方を工夫していけば大丈夫です。
何種類も歯間ブラシを使ってしまうと、徐々に面倒臭くなってしまってやらなくなることが多いので注意が必要です。
歯茎を傷つけない、歯間ブラシの挿入角度
歯間ブラシを通す際、歯の軸に対して垂直に入れてしまう方が多いのですが、この角度では歯茎を傷つけてしまうので注意が必要です。
歯茎は歯と歯の間で山なりになっているので、斜面に沿うように斜めに入れてあげるのがポイントです。
下の歯であれば、
上記の写真のように歯の軸に対して、やや斜め下から入れて下さい。
上の歯であれば、
こちらの写真のように斜め上から入れて下さい。
この挿入角度に注意するだけで歯茎が傷つくリスクが大幅に減るので、快適に歯間ブラシを使ってもらえます。
歯間ブラシの正しい通し方
「歯間ブラシはただ単に歯と歯の間に通せばいい」と思っている方も多いのですが、そうではありません。
歯間ブラシを使う上で最も大切なことは、「歯と歯の間のそれぞれの面を擦(こす)ってあげる」ということ。これを意識して行えるかどうかで、効果が全く違ってきます。
写真を見ながらチェックしていきましょう!
先ずは歯間ブラシを先ほどの挿入角度を意識しながら歯と歯の間に入れます。
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このまま前後に動かすだけで終わるのではなく、左右の歯を拭(ぬぐ)うように擦っていきます。
具体的には、
上記の2枚の写真のように、手前の歯と奥の歯に対して歯間ブラシに圧をかけながら動かします。手首を返しながら行うのがポイントです。
手前の面、奥の面と大体2往復ずつ擦ってあげれば十分です。
+αのポイント
基本的な通し方はここまでの内容で大丈夫ですが、最後に歯間ブラシの効果をさらに高めるためのポイントもお話したいと思います。
歯と歯の間を正面から見てみると、
緑の線で示しているように、隣り合う歯と歯の形態は”ハの字”になっています。
この”ハの字”に沿わせて歯間ブラシを動かしてあげると、歯ブラシで磨き残していた歯と歯茎の境目のプラークまでしっかり取り除くことが出来ます。左右の歯に圧をかけて通す際に、この形も頭に入れながら実践してみて下さい。
歯間ブラシのQ&A
ではここからは、患者さんからよく聞かれる歯間ブラシに関しての質問にお答えしたいと思います。
Q1:歯間ブラシはいつ使ったらいいですか?
歯間ブラシもフロスと同じように、「歯ブラシの前」に使うことをオススメします。
“歯磨きをした後で仕上げに歯間ブラシを通す”という順番だと、少しずつ歯間ブラシを通すのが面倒になってしまうからです。
歯周病のリスクが高い、”歯と歯の間”を必ずケアする習慣を身につけることが大切です。
通す頻度としては、1日1回で十分です。寝る前の歯磨きの際に、手鏡を見ながら丁寧に通してあげて下さい。
Q2:歯間ブラシを通すと血が出るのですが、大丈夫ですか?
特に歯間ブラシを初めて使う場合は、かなりの確率で出血するはずです。
いきなり血が出るとびっくりすると思いますが、痛みがなければ積極的に通して下さい。
歯と歯の間には普段からプラーク(細菌の塊)が溜まっていて炎症が起きています。その腫れた歯茎を歯間ブラシが刺激したことで出血しているだけなので問題ありません。
むしろ歯間ブラシを通さないとプラークが溜まりっぱなしになり、炎症がいつまで経っても改善しないので歯周病が進行してしまいます。
2週間ほど毎日1回、丁寧に通していれば自然に出血は収まりますので、安心して下さい。
もし痛みを伴って出血する場合は、歯間ブラシのワイヤーで歯茎が傷ついてしまっている可能性があるので、サイズを小さいものに替えるか、しばらく歯間ブラシを通さないようにして下さい。
基本的に、「痛みがなくて出血する場合は、積極的に歯間ブラシを通す」、「痛みがあって出血する場合は、歯間ブラシのサイズを下げるか、歯医者で診てもらう」と覚えておいてもらえればOKです。
Q3:奥歯に上手く入れる方法はありますか?
奥歯の方は暗くて見えづらいので、慣れないと歯間ブラシを入れづらいと思います。
上手く入れるコツは、お口を閉じ気味にして、歯間ブラシの背で頬っぺたを内側からまくるようにして視野を確保することです。
鏡で見ようとお口を大きく開けると、筋肉が張ることで頬っぺたが硬くなります。すると頬っぺたと歯の間の空間が狭くなってしまい、歯間ブラシを上手く動かすことが出来なくなってしまいます。
一度お口を閉じ気味にして、よく鏡を見ながらトライしてみて下さい。
Q4:歯間ブラシは使い捨てですか?
歯間ブラシは基本的に歯ブラシと一緒です。使用後は水で洗って乾かしてもらえれば、何度でも使えます。
使い捨てにしてしまうと、すぐに歯間ブラシを買い足さなくてはいけなくなってしまうので、1本1本大事に使って下さい。
Q5:歯間ブラシを交換する目安はありますか?
開封したての歯間ブラシは、毛がピンと立っていますが、使用しているうちに少しずつ毛羽立ってきたり、毛が寝てきます。
「毛が痛んできたな」と思ったタイミングで交換してあげて下さい。あなた自身の感覚で大丈夫です。
もし不安であれば、歯医者を受診する際に歯間ブラシを持って行って聞いてみるのもいいと思います。
Q6:歯と歯の間で歯間ブラシが折れてしまったのですが、どうしたらいいですか?
歯間ブラシを頑張って通していると、ワイヤー部分が金属疲労を起こして折れてしまうことがあります。
歯と歯の間で折れてしまって、指で引き抜くことが出来ない場合は、新しい歯間ブラシを折れた歯間ブラシが入っている歯と歯の間に押し込んで下さい。破片が反対側から押し出されて出てくるはずです。
また、歯間ブラシが折れた時のためにピンセットを買っておくのもオススメです。
ピンセットがあれば、簡単に折れた歯間ブラシでも引き抜くことが出来ますし、部屋の掃除などでも使えるので便利です。
フロスと歯間ブラシはどう使い分ければいいのか
最後にフロスと歯間ブラシの使い分けについてお話したいと思います。
基本的に僕は歯間ブラシが入る箇所は全て、歯間ブラシだけのケアで十分だと考えています。なぜならフロスよりも歯間ブラシの方が左右の歯を擦(こす)るのが簡単で、短時間でプラーク(細菌の塊)を落とせるからです。
フロスで左右の歯を擦りながらキレイにするのは手間がかかるので、徐々に面倒臭くなってしまいがちです。「1週間に1回だけフロスを通す」くらいの頻度であれば、やっていないのと同じになってしまいます。
より簡単に歯と歯の間がケアできる歯間ブラシを毎日の習慣になるまでやり込むのがオススメです。
ただし、歯と歯の間の空間が狭い箇所に無理やり歯間ブラシを通していると、歯茎が刺激を受けて下に下がってしまいまうので(歯茎の退縮)、注意が必要です。
特に前歯であれば、歯茎が下がると歯と歯の間に空間ができて、歯がすいているような見た目になってしまいます。矯正などを行って歯並びが整っている場合は、フロスの方が退縮のリスクは少なくなると思います。
簡単にフロスと歯間ブラシの使い分けをまとめておくと、
- 奥歯は基本的に歯間ブラシを通す
- 矯正で歯並びを整えた前歯(糸切り歯〜糸切り歯まで)はフロスを使う
- 厳密な使い分けを知りたい場合は歯医者でお口をチェックしてもらってからアドバイスを受ける
といったところです。
もし、歯間ブラシの使い方が間違っていて歯茎が下に下がってきたとしても、しばらく歯間ブラシを通さないようにすれば自然に歯茎は元の位置に戻ってくるので安心して下さい。
正しい使い方ができていれば、歯間ブラシでも歯茎が下がるリスクは抑えられますので、心配な方はプロに使い方をチェックしてもらうのをオススメします。
まとめ
今回はフロスと歯間ブラシの正しい使い方からQ&A、使い分けの話までかなり詳しくお話しましたが、いかがでしたでしょうか?
初めて使う場合は不安なことも多いと思いますが、記事を何度も読み返しながら少しずつトライしてみて下さい。歯と歯の間のプラーク(細菌の塊)がケアできれば、歯周病のリスクは大幅に減ります。
是非、あなたの大切な歯を一生使っていくために今日から「歯と歯の間のケア」を始めてみて下さい。
記事の内容はすべて、僕が実際の診療の際に患者さんにお話しているものなので、安心して実践してもらえればと思います。
歯と歯の間のケア以外に、全体の歯磨きについて詳しく知りたい場合は、
歯医者も出来ない!?本当に正しい歯磨きの仕方をイラストと写真で徹底解説!
こちらの記事を参考にしてみて下さい。
では今回は以上です。