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カラスに人工愛の巣 中電、駆逐作戦から一転

鉄塔の中央に備え付けた人工巣に住み着いたカラス=浜松市東区で(中部電力提供)

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カラスの営巣活動を監視する中部電力の社員=浜松市東区で

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 送電の鉄塔に巣を作って停電を引き起こすカラスの被害に対応しようと、中部電力(名古屋市)が電線から離れた場所に人工の巣を置く風変わりな対策を進めている。なかなか効果が出なかった旧来の駆逐作戦から一転、カラスのつがいに効率的に「愛の巣」を提供することで電気の安定供給に効果をもたらしている。

 「ひなは無事に巣立ったみたい」。浜松電力センター(浜松市東区)の送電担当杉浦丘都(たかひろ)さん(23)が鉄塔に目を凝らす。双眼鏡でとらえたのは電線から離れた鉄塔中央部の樹脂製かご(直径約四十センチ)だ。センター管内にある約千百二十基の鉄塔のうち、巣が作られやすい平地の三百二十七基に取り付けられている。

 カラスの巣作りが多いのは二〜五月。巣の材料になるハンガーや木の枝は風や雨で落下し、電線に引っ掛かってショートを起こす。中電管内の送電設備の故障のうち、カラスによるものは年約百件に上り、数百件規模の落雷の次に多い。営巣シーズンには鉄塔に登って巣を取り除く作業にてんてこ舞いだ。

 電力各社は営巣を防ごうと、鉄塔に針山を置いたり、金属線を張り巡らしたり。それでもカラスは賢く、妨害物を巧妙に避けて巣を作る。巣の被害が特に多い浜松電力センターは「いっそ電線から離れた所に営巣するよう誘導してみよう」と考え、二〇〇四年に人工巣の設置を開始した。

 すると多くのカラスのつがいが住み着き、子育てを始めた。人工巣の利用が増える分だけ自然巣の除去の回数が減り、停電防止と作業の負担軽減につながった。こうした効果から、中電管内の愛知、岐阜、三重、静岡、長野県では現在二千個以上が設置されている。

 センターは一六年、人工巣の利用率を上げる新たな工夫も始めた。利用の少ない人工巣九十二個を取り外し、最近、自然巣を取り除いたばかりの鉄塔の問題のない場所に移した。「カラスが好む場所」と判断したためだ。

電柱に作られた、ハンガーなどを利用したカラスの巣。電線に引っ掛かりショートする恐れがある

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 その結果、センターが管理する人工巣の利用率は前年と比べて4ポイント増の67%に上昇。自然巣が減り、除去作業も五十五件から二十七件へ半減した。人工巣の新設費用は購入費も含め一個当たり一万五千円だが、移設費なら五千円で済む。

 センターの分析によるとカラスは地上三十〜五十メートルに営巣するケースが九割で、鉄塔の上部を好む傾向がある。送電課副長の斎藤博さん(52)は「人工巣の効率的な運用はホテル経営と同様、稼働率の向上に懸かっている。どこに営巣するか『カラスの勝手でしょ』と思い込まず、最適な巣の位置を検討して停電防止に努めたい」と話している。

 (小柳悠志)

 ◇ 

 中部電力は「カラスによる送配電設備の被害を防ぐには市民の協力が不可欠」として、電柱などにカラスの巣があるのを見かけたときは、最寄りの営業所に通報するよう呼び掛けている。

 

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