五輪負担先送り 都に要望相次ぐ
東京オリンピック・パラリンピックの費用負担の結論が先送りされる中、9日開かれた関東9つの自治体の会合で、競技会場のある神奈川県の黒岩知事などから「大会の成功に危機感を持っている」などとして、早期に負担の結論を出すよう東京都の小池知事に求める声が相次ぎました。
小池知事は、5月中に結論を出したいという考えを示し、理解を求めました。
3年後の東京大会に向けた競技会場の仮設施設の整備費用について、東京都は、ことし3月末までに負担の大枠を示すとしていましたが、結論は先送りされています。
これについて、9日東京・品川区で開かれた、関東9つの自治体の会合で、競技会場のある自治体からは、小池知事に対する批判や要望が相次ぎました。
このうち、セーリング競技などが行われる神奈川県の黒岩知事は「せっぱ詰まった思いだ」とした上で、「実際の準備作業に入れないのが非常に大きな問題となっている。小池知事は3月末まで結論を待ってほしいとしていたが、残念ながら答えをもらえず、なぜ時間がかかっているのかの説明もない。
成功に大変危機感を持っている」と批判し、早期に負担の結論を出すよう求めました。
また、埼玉県の上田知事は「仮設施設の整備費用は組織委員会が負担することなど、原理原則をしっかり守っていくとさえ言ってもらえれば、われわれは動ける。東京大会の成功のために決断してもらいたい」と求め、千葉県の森田知事も「東京都には、約束したことをきちっとやってもらいたい」と要望しました。
これに対し小池知事は「お話の内容はよく分かっている。プレ大会などを準備していることも重々承知している。ご心配をかけていると思うが、スケジュール感をしっかり持ち、責任感を持って前に進めていくのでご協力願いたい」と述べ、費用負担について今月中に結論を出したいという考えを示し、理解を求めました。
東京都の小池知事は記者団に対し、「費用負担については3者協議で行っているほか、関係自治体との幹事会で連携して精査している。
6月には工事が始まる段階を迎えているところも多々あるということなので、急がねばならない。若干時間がかかっているが、しっかり精査し、ルール作りをした上で、今月中に具体的にその答えを出していきたい。会議のあと、黒岩知事には『大丈夫よ』とひと言申し上げておいた」と話していました。
3年後の東京大会の仮設施設の整備費用について自治体が負担の受け入れに反発するのは、当初の計画では費用は全額、組織委員会が負担するとしていたためです。
大会の招致段階では、大会後に撤去する仮設の施設や設備、大会運営にかかる経費はすべて組織委員会が負担することになっていました。
ところが、去年12月、組織委員会がこれらの経費を試算したところ、およそ9500億円分の財源が不足することが明らかになりました。
組織委員会は「東京都の計画がずさんだった」として、都や政府、それに競技会場のある自治体が負担する新たな案を示し、協議を呼びかけました。
これに対し、神奈川県や埼玉県などの自治体側が「約束が違う」などとして強く反発し、計画通り、組織委員会が全額、負担するよう求めました。
さらに東京都の対応にも批判が高まります。
費用負担の問題は、舛添前知事の時代から、都と組織委員会、政府の3者で協議が進められ、当初は去年9月頃までに大枠の結論を出す予定でしたが、その後、就任した小池知事が突然、競技会場の見直しを提案。
会場が定まらない中で議論はできず、結論は先送りされました。
自治体側としては、結論が出ない中では準備を本格化させることもできない上、仮設施設の整備費などについて負担を求められたことで、開催都市としての責任を果たすよう小池知事への批判を強めます。
これに対し、小池知事は去年12月26日、「年度内に大枠を示す」と発言。
さらにことし2月には一定の負担を受け入れる考えを表明しました。
しかし、協議は期限としたことし3月を過ぎてもまとまらず、結論は再び先送りされています。
藤沢市の江の島で行われるセーリング競技は、本番を前にしたテストイベントがほかの競技よりも1年早い、来年に開催される予定です。
テストイベントに向けて神奈川県は1日も早く準備に取りかかりたいとしていますが、費用負担のあり方がはっきりしないままでは、運営費などの予算の計上ができないというのです。
また、セーリングならではの事情もあります。
会場となる藤沢市の江の島は現在、一般の人たちがレジャーで使うヨット、およそ1000艇が係留されています。
神奈川県は、オリンピックやテストイベントの開催に向けて10キロ近く離れたところにある葉山町に整備するヨットハーバーに移動させる計画を立てています。
所有者1人1人と交渉しなければなりませんが、移動させる費用をどこが負担するのかが決まらないままでは、具体的な話し合いができないということです。
さらに競技が行われる海域では、アジやイワシなどの漁が行われていて、テストイベントも含めた大会の開催中は、自粛してもらわなければなりませんが、その間の補償交渉も始められない状態が続いています。
こうしたことから、黒岩知事は、1日も早い決着を求めているのです。
神奈川県の黒岩知事は「セーリング競技は、来年テストイベントを控えているなど、特に時間がなく、せっぱ詰まっている。当初の原理原則を確認してもらえれば、すぐに準備に取りかかれるのに、なぜ時間がかかっているのか、きょうの小池知事の説明ではよくわからなかった。3月末という期限を守れなかったのに、5月中に決めると言われても信じられる根拠がない。不安はまったく解消されなかった」と述べました。
埼玉県の上田知事は記者団に対し「もっと早くてもいいんじゃないか。仮設施設は組織委員会が負担するなどの原理原則があり『ルールにのっとってやります』と言えば済む話だ。試合を開始してから途中でルールを変えられては困る」と述べ、関係する自治体に負担を求めるべきでないという考えを重ねて示しました。
千葉県の森田健作知事は会合のあと記者団に対し、「協力県は、あくまで立候補ファイルにのっとって誘致したので、初心に戻って約束を守って欲しい。仮設の費用については負担しないという方程式は変わらない」と述べ、仮設施設の費用について負担しない考えを改めて強調しました。
また、大会の組織委委員会から会場となる幕張メッセの使用期間が6か月間と示されていることについて、「少し長いと感じている。
収益にも大きく関わるのでこれから縮めてもらうよう組織委員会に要望したい」と述べました。