【ソウル=鈴木壮太郎】朴槿恵(パク・クネ)大統領の罷免に伴う韓国大統領選は9日に投開票され、最大野党「共に民主党」の文在寅(ムン・ジェイン)候補の当選が確実になった。2代続いた保守政権から9年ぶりに革新政権が誕生する。政経癒着の疑惑で朴氏を弾劾に追い込んだ民意は、「旧弊の清算」を訴えた文氏を韓国大統領に選んだ。北朝鮮に融和姿勢を示す新政権の登場は、日本を含む北東アジア情勢に影響しそうだ。
10日午前0時45分時点の開票率は53.11%。文氏の得票率は39.59%、保守系の旧与党「自由韓国党」の洪準杓(ホン・ジュンピョ)氏が26.20%、中道系野党「国民の党」の安哲秀(アン・チョルス)氏は21.32%。KBS、MBCなど現地の主要テレビ局は一斉に文氏の当選確実と報じた。
当選が確実になったことを受け、文氏は9日深夜、ソウル中心部の光化門広場に集まった支持者らの前で「明日から国民全てのための大統領になる」と勝利宣言した。
文氏は「正義と原則が守られる新しい国をつくる」と抱負を述べる一方、「私を支持しなかった方々にも仕える」と強調。大統領選で戦った「他の候補とも連携して未来のために進む」と語り、革新と保守による国の分裂を防ぎ、国民統合を目指す考えを示した。
10日早朝に開票作業が終了して投票結果が確定し次第、正式に文氏が大統領に就任する見通し。通常、約2カ月間の政権移行期間があるが、今回は朴前大統領の罷免に伴う選挙のため、即日に新政権が発足する。
対立候補だった洪氏は党本部で9日夜に会見し、「結果を受け入れる」と表明。安氏も「国民の選択を謙虚に受け止める」と述べ、事実上の敗北宣言を行った。
文氏は一貫して40%前後の支持率を維持し、選挙戦を優位に進めてきた。保守政党は朴氏のスキャンダルで国民の信頼を失って分裂。行き場を失った保守層の多くが中道の安氏の支持に回り、「革新VS中道」という異例の構図となった。
だが、国民の関心が高いテレビ討論会で安氏が精彩を欠いたこともあって失速。米朝対立による朝鮮半島情勢の緊迫で、対北朝鮮で強硬論を唱える洪氏の支持が終盤に急伸したものの、保守系候補の一本化ができず、文氏の独走を許した。
中央選挙管理委員会集計によると、今回の選挙の投票率(暫定値)は77.2%で、前回(2012年)の75.8%を上回った。それだけ韓国国民の関心の高さがうかがわれる。
文氏は弁護士出身で、盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権で秘書室長を務めた。かねて北朝鮮には融和姿勢を示しており、対北朝鮮政策は朴政権の強硬路線から「対話」へとカジを切るとみられる。米軍による地上配備型ミサイル迎撃システム(THAAD)韓国配備にも慎重な立場だ。
核実験やミサイル発射など挑発を繰り返す北朝鮮への圧力を強める米国や日本とは温度差があり、中国を含めた関係国とどう連携するかが外交課題となる。
従軍慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」をうたう15年の日韓合意についても再交渉が必要だとの立場だ。日本の公館前に設置された慰安婦を象徴する少女像の移転など、合意の着実な履行を韓国政府に求める日本政府の主張とは相いれない。文氏の出方次第では、日韓関係がぎくしゃくする懸念もある。
国内では分配重視の経済政策を進める。公共部門中心に81万人の雇用創出を公約に掲げるなど、まずは国民が求める格差是正と雇用創出を最優先の課題として取り組む方針だ。