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 朴槿恵(パククネ)・前韓国大統領の罷免(ひめん)に伴う異例の大統領選で、野党の文在寅(ムンジェイン)候補が当選確実となった。政権は2期続いた保守から9年ぶりに革新側に移る。

 韓国を取りまく状況は内政外交ともに困難を極める。文氏は冷静な判断で国政の正常化を急ぎ、着実に未来を切り開く指導力を発揮してほしい。

 元人権派弁護士で、身内への不正金銭疑惑が浮上して自死した故盧武鉉(ノムヒョン)・元大統領の盟友。

 公私混同で国家運営を進めた疑いがもたれる朴氏の責任追及を力説し、多くの支持を得た。

 選挙戦で、文氏の陣営からは「(政権奪取後)極右保守勢力を完全に壊滅する」といった発言もあった。しかし、国民は、政争の激化や社会の分断を望んでいないのは明らかだ。

 新大統領を支える与党は国会で過半数に及ばない。法案や人事案を通すためには、他党との協力が不可欠となる。

 人柄の良さは保守陣営からも認められるほどと言われる文氏だが、どれだけ国内融和を図れるのか手腕が問われる。

 核・ミサイル開発を続ける北朝鮮について文氏は、対話を重ねて解決を図る太陽(包容)政策の精神を受け継ぐという。

 国連制裁など国際社会の取り決めを守りつつ、南北交流の象徴である開城工業団地の事業再開を将来的に目指す考えだ。

 中国が反発する在韓米軍への新型迎撃ミサイルシステムの配備をめぐっては、あいまいな発言に終始した。だが就任後は優柔不断な姿勢は許されない。

 朝鮮半島の当事者である南北が本格的な対話を進めることは望ましい。一方で北朝鮮は常に日米韓の結束を乱すことで圧力から逃れようとしてきた。文政権は、対話を急ぐあまり、日米との歩調に変調をもたらすような性急な行動は慎むべきだ。

 日本との二国間関係でも文氏には、大局観にもとづく理性的な判断が求められる。

 懸念されるのは、一昨年暮れに日韓両政府が交わした慰安婦合意について、再交渉を求めると主張してきたことだ。

 日韓がともに外交の知恵を生かし、譲歩し合って築いた合意である。これを認め、尊重することなしに話は始まらない。

 一方で日本政府も当面、静かに見守る姿勢が必要だ。文政権が全閣僚をそろえ、本格的な政策を決めるまでには相当の時間がかかるとみられる。

 北朝鮮による挑発と、韓国の政権交代が重なる微妙な時期である。日本政府は北東アジアの情勢を慎重に見極め、隣国との関係再建の道筋を探るべきだ。

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