Reference:
国民は、見た目で政治家を選ぶ。
これはある程度は疑いのない事実のようだ。
世界中の研究により、有権者は「有能そうに見える」という単純な基準で政治家を選んでいるということがわかっている。
しかし、すべての有権者が「有能そう」な顔だけを選んでいるわけではないようだ。有権者の政治思想(リベラルか保守か)が、好む政治家の顔を変化させることが最近明らかになった。
伝統や文化を重んじる右派的な思想の有権者は、支配的・男性的な顔(雑な言い方をすれば“強そうな”顔)を好み、一方の個人の権利を重んじる左派的な思想の有権者は、逆に“優しそうな”顔を好むことが分かっている。
つまり、有権者の持っている政治的な考えが、政治家として好ましいと思う顔を変化させるということだ。では、国民全体の政治的な考えが変化するような状況、つまり
「戦争時」には、有権者の好みは変化するだろうか。
戦争は、好ましい顔を変化させるか?
英国スターリング大学の研究者らは、様々な程度に加工した候補者の顔写真を用意し、被験者に対して「どちらの候補者に投票しますか」と質問するシンプルな実験を行った。その結果、単純に「どちらの候補者に投票しますか」とだけ質問した場合には、特定の顔が好まれやすい傾向はなかった。
しかしながら、この結果は、被験者が戦争を想定するたった数ワードを聞くだけで大きく変化した。「“平和な時には、”どちらの候補者に投票しますか」と質問された被験者は女性的に加工された顔に投票しやすかった一方で、「“戦争の時には、”どちらの候補者に投票しますか」と質問された被験者は男性的に加工された顔に投票しやすかったのだ。
戦争を想定すると、支配的・男性的な顔が有利になる
戦争を想定すると支配的・男性的な顔の政治家が投票されやすくなり、平和な時を想定すると被支配的で女性的な顔を持つ政治家を好む。
この傾向は、他の研究グループによっても確かめられており、人間が持っている一般的な性質なようだ。確かに、われわれの太古の生き方を考えてみても、他の集団と争いがある状況では、肉体的に強く支配的なリーダーが必要になっただろう。
一方で、平和な時には、むしろ支配的というよりも協調的なリーダーのほうが集団に利益をもたらしただろう。このような、進化の流れの中で獲得した性質が、現代の選挙にも影響しているのかもしれない。
Reference: File:A-Zulu-regiment-attacking-at-iSandlwana.jpg - Wikimedia Commons
右派も左派も、戦時には男性的な顔を好む
もともと男性的・支配的な顔を好む右派が、戦時に、男性的な顔の政治家をより好むようになるのは納得できる。では、平時は女性的な顔を好む左派の有権者は、戦時を想定した時、男性的な顔を好むようになるのだろうか。
先ほどとは別の研究チームは、まず被験者にアンケートを行い、各個人の政治的な態度(右派左派の程度)を計測した。その後、被験者らに、二種類の架空の話 −ひとつは、隣の部族と闘争の危機にさらされている部族の話、もう一つは洪水の危機にさらされていてダムを協力して作る必要にさらされている部族の話− を読ませた。
最後に、男性的・女性的に加工された顔を提示され、どの顔がこの部族のリーダーにふさわしいかという質問に答えた。
この実験の結果は明確だった。被験者の政治思想が左派的であっても右派的であっても、闘争を想定した架空の話を聞いた被験者は、男性的な顔を強く好んだのだ。
政治家への教訓
まずは自分の顔の特徴を知ることが大事だろう。支配的・男性的な顔なのか、被支配的・女性的な顔なのか。自分の顔の特徴とターゲットの有権者が好むであろう顔が一致していることが、当選への近道だ。
さらに、社会状況にも敏感になる必要がある。国民が戦争や治安悪化の不安を感じる状況では、有権者はより男性的・支配的な顔の男性候補者を好む。これらを念頭に置いたうえで、選挙ポスターやリーフレットのための顔写真を選ぶことが重要だろう。
主要参考資料:Winning Faces Vary by Ideology: How Nonverbal Source Cues Influence Election and Communication Success in Politics