今回はテンション構造の原理を説明します。
簡単なモデルからテンション構造を考えていきます。
まずは回転自由な以下のヒンジがあるとします。
このヒンジを壁からワイヤーで引っ掛けて重りを支えようとします。
次に上記モデルの比較としてヒンジを壁からワイヤー2本で100kgfのテンションをかけた場合を考えます。
ではこの2つのモデルどちらが剛性が高いでしょうか?
答えは簡単、ワイヤー2本で支えた方が剛性が2倍高くなります。
次にこのテンションモデルのテンション変化について考えていきます。
上下のワイヤーテンションはヒンジの釣り合いを取るため両方とも100kgfのテンションでしたが、重りMが乗ると力の釣り合いを取るため、上側のワイヤーテンションは増え150kgfに、下側のワイヤーテンションは緩み50kgfになります。
さらにここで重りを2倍にしてみます。
上側のワイヤーテンションが200kgf、下側ワイヤーテンションが0kgfになりました。
下側ワイヤーはぷらぷらになり構造として機能しなくなります。
この時の剛性はワイヤー1本で支えているのと同じで剛性が半分になります。
これはホイールも同様で、ホイールに負荷がかかりスポークテンションがゼロになるとホイール剛性はガタ落ちすることになります。これがスポークテンションが低いと剛性が低くなる現象の正体です。
ではここでホイールに横荷重を与えた時にスポークテンションがどのように変化するかみていきましょう。
前回と同じモデルを使い、横荷重20kgfを与えます。
さっそく結果を見てみます。
真正面から見た図です。車輪下側が特に変形しているのが分かります。
拡大図です。前回の結果と同様、今回も車輪下側スポークに負荷が集中しました。
接地点に近いスポークが最も影響を受け、右側スポークはテンションが増加し、左側スポークはテンションが低下しました。
つまり車輪下側のスポークテンションは負荷に対して低下しやすく、最もスポークテンションがゼロになりやすいのです。スポークテンションがゼロになると上記の通り剛性がガタ落ちするということになります。
以下のような剛性のイメージになります。正常なスポークテンションであれば、荷重に対して変位(剛性)は直線的になります。
スポークテンションが足りない場合、ある程度まで同じ剛性を維持しますが、荷重がある位置を超えるとスポークテンションがゼロになるため剛性が下がります。
スポークテンションは正しく設定しましょう。
ご自宅でもこの現象を実験することは可能です。スポークテンションを低くしてホイールを組み、横荷重を与えてみて下さい。剛性が下がるポイントを体感頂けます。
ところでお気づきかもしれないのですが、昔からある「結線」をしてもホイール剛性は上がりません。テンション構造はあくまでテンションの出し入れで力の釣り合いを取る構造なので「結線」しても剛性は上がりません。
※出典The art of Wheel bulding
実際に大手メーカーは全て「結線」をしていませんし、やっているメーカーはスポーク同士が接触するためトルクがかかったときにわずかに動くスポーク同士の傷防止か傷隠しのためか、スポークが切れた時にスポークを巻き込まないようにするために行っているのが実情です。