のむラボ日記

自転車工房「のむラボ」のブログです

ソルダリング エグザミナ  

サクラ(SACRA)のホームページにて、
「結線ハンダ付けに意味は無い」という記事が上がっていますが
それについてどう思いますか?という質問を
コメントまたは来店された方から かなりの数 されています。
実は、私はまだ その内容を見ていません。
あらましは聞きましたが。

どうせ大したことは書いていないと思いますが
この記事を上げる直前か 上げたあとに見てみます。

しかし、意味が無いとは大きく出ましたね。
吐いたツバ飲むんじゃねえぞ。

結線が無意味などと書いた動機については、以前私が書いた
サクラのホイールについての忌憚無き意見(→こちら)に対する
しょーもない意趣返しといったところでしょうが、
そうであろうとなかろうと どうでもいいことです。
いい機会なので、結線ハンダ付けについて
私の考えなど詳しく書いていこうと思います。

DSC05452msn.jpg
確か 日本自転車振興会(NJS)でも試験をしていたと思いますが、
ホイールに静加重をかけた際の変形量が
結線の有無で変わることは無かったと記憶しています。
ものすごくミクロまで見れば(例えば原子1個レベルということになれば)
そんなことも無いでしょうが、
とにかく有意な差は見受けられないということですね。

DSC05445msn.jpg
それはともかく 実験その1。
これは以前にどこかで書いた覚えがありますが、
お客さんが 後輪を踏み込んだときに異音がするというので、
後輪単体の状態でロックリング回しを取り付けて
原因箇所を調べてみたことがあります。

上の画像は その再現ですが、工具の柄を持って下に力をかけると
ギチッ、ギチッと異音がしました。
どうも、黒スポークの 編んである最終交差が 変形で擦れて
音が鳴っているようです。

ここで重要なのは、手の力ごときで鳴ることと
再現性が100%(鳴らそうと思えば必ず鳴らせる)だということです。

で、最終交差に注油して音が鳴らなくなるかどうか調べようと思ったのですが、
左右同時に それをしてしまうと どちらか片方が原因だった場合
どっちだったのか分からなくなるので

DSC05446msn.jpg
まず、スポークテンションが低く より鳴りやすいだろうと思われる
反フリー側の最終交差だけに注油することにしました(上の画像)。
そうすると、必ず鳴らせたあの異音が 全く鳴らなくなりました。
鳴らそうとして、最初に鳴らしたときよりも 工具にかける力を大きくしましたが
それでも鳴りません。
ここで知ったのは、フリーボディの前方向への ねじれが
反フリー側の最終交差を それなりにたわませていたという事実です。
もちろん、工具の柄を持って手で締める力より
ペダリングの方が 力の大きさは上です。

念のため書いておきますが、上の画像2つは
そのときの状態を再現したものであって、
この後輪(先日 組み換えたFiRのスピードライトの 組み換え前)が
鳴るというわけではありません。
黒スポーク左右タンジェント組み最終交差編みありなので
使わせてもらいました。

DSC05443msn.jpg
クランクを踏み込むと、
チェーンが引っ張られ、
フリーボディが前に向かって回転し、
(おもにヤマアラシさん方向の)スポークがそれを受け止めることで、
タイヤが地面を蹴る、
という一連の動きの中で、最初のペダリングの力が
機械的損失や 材質の変形によって いくらか減ぜられるうち
上の図4のスポークの変形が 結線によって いくらか抑えられるのが
体感できる大きさの要素であったなら
結線によって「かかりが良くなった」と言えると思うのですが、
私含め 結線をした後輪を使った人の多くが
そういう感想を述べるので、結線は まやかしの類いではありません。
といっても当店では多くの場合、最初から結線をしているので
結線の有無の差だけを比べた人は多くはありません。
フリー側の最終交差を結線しないのは、これも体感の話になりますが
反フリー側ほど劇的に乗り味が変わらないからです。
苦労に見合うほど化けないので 私はやりません。
もちろん、オチョコが無いホイールの場合は別です。

DSC05402msn.jpg
DSC05403msn.jpg
↑結線6ヵ所による重量増

DSC05620msn.jpg
DSC05621msn.jpg
↑結線18ヵ所による重量増
いずれも、最近組んだホイールです。
最終交差の角度によって鋼線の巻き数が変わるので、
結線1つあたりの重量は一定では無いですが、
効果に対して微々たるものです。

また、結線によるハブやリムへのダメージについてはどうですかという
コメントをいただいていますが、リム穴にクラックが発生するのは
反フリー側のみ結線している後輪でも ほぼフリー側に限られますので、
クラックの発生に関しては経験上
スポークテンションそのものの方が大要素だと考えられます。

DSC04489amx6.jpg
つづいて実験その2。前後方向からのスポークにぎにぎです。
結線をしていない反フリー側の最終交差2本のスポークを
最終交差の外周側で握りこむと、最終交差の位置が外周に移動します。

DSC04490amx6.jpg
反フリー側の最終交差スポーク2本の中間、
フリー側のリム穴に目印のテープを貼っています。
このホイールを振れ取り台にかけて

DSC04491amx6.jpg
これでもかというくらいに交差を握ると
リムが反フリー側に向かって動きます。
最も外側に変形しきったところで 振れ取り台のゲージを当てました。

DSC04492amx6.jpg
手を離すとこうなります(ノーにぎにぎ状態)。
スポークにぎにぎによって、
上の画像2枚の状態を 往復するということになります。

DSC04495amx6.jpg
ハンダ付け無しの、鋼線の結束のみ やりました。
これは「結びの結線」なので、ハンダ付け無しであっても
スポークにぎにぎによる 最終交差の移動は起きなくなります。
仮に ただ鋼線を巻いただけの「巻きの結線」であったなら
スポークにぎにぎで 交差がギチギチと動きます。
ところが、巻きの結線であっても ハンダ付けをすれば一応は
最終交差の動きを殺すことができます。
ただ それは鋼線の結束が主体となっている固定ではありません。
結線にハンダ付けをしたあとで 余った鋼線を切るのですが、
ハンダに期待しているのは「結束のほどけ止めの仕事」だけです。
私の結線は ある競輪のフレームビルダーから伝授されたのが最初で
それがバージョン1ですが、その時点から結びの結線です。

DSC04493amx6.jpg
再び振れ取り台にかけました。
誓いますが、先ほどの ノーにぎにぎ状態と
リムとゲージの間隔は同じです。
狂わないように かなりの注意を払っています。

DSC04494amx6.jpg
そこから、思いっきりスポークを握りこみました。
公平を期しすぎるためにも、結線前で握った以上の力で握っています。
リムをゲージに当てることができません。
このホイールは結線以外は済んでいる状態なので 横振れは無いですが、
結線をしていない最終交差 残り5ヵ所は 握るとゲージに当たります。

これによって「最終交差のたわみが減るとシュータッチが起きにくくなる」と
したいところなのですが、
かなり前に「走行中のホイールの最終交差に
思いっきりにぎにぎ相等の応力はかかってませんよね?」というような
コメントをいただいたことがあります。確かに その通りです。
しかし、シュータッチする後輪を
ホイールの組み換えによって起きなくするという案件を
数え切れないほどやってきた経験からも、
結線の有無によって シュータッチが起きにくくなっているということは
まず間違いないと思います。
もちろん、そういう後輪の組み換え前の状態は
たいてい全CX-RAYのヨンヨン組みかヨンゼロ組みなので、
それを半コンペヨンロク組みにしたことのほうが大要素なのは確かです。

結線に意味が無いのであれば、
半コンペヨンロク組み結線無しと
半コンペヨンロク組み結線ありが
同じホイールということになりますが、どう考えても ありえません。


つづいて 競輪の結線について。
私の結線ハンダ付けは NJSビルダーに教わったわけですが、
当店のお客さんの元競輪選手の方にお願いして
現役の競輪選手にも色々訊いてもらったところ、
競輪の世界では今 皆がみな結線をする・・・というわけでもないそうです。
というのも、競輪ホイールの組み手の間でも 失伝しつつある技術らしく、
あと 競輪場で落車があった場合 ホイールの修理は
競輪場の検査員の方がするそうですが、
結線できる検査員が減ってきているということでした。
ただ、効果が無い 意味が無いと言っている選手は まず いないそうです。
競輪のホイールは、NJS認定を受けた機材で
36HハチハチJIS組みと組み方も決まっていますが、
結線してはいけないという決まりはありません。
リムは実質アラヤの16Bゴールドのみなので、
ホイールの性能差は 組み立て精度、わずかな差のスポークテンション、
結線の有無くらいしかないことと、
機材に関して すさまじくセンシティブな人が多い(一部例外あり)ので
結線の有無の差が分からない人も ほぼいないのでしょう。
(あとで書きますが、結線の有無の差は
すさまじくセンシティブな人でなくとも分かるくらい大きなものです)

勉強になったのは、結線の効果が確実に分かるのは前輪だということでした。
モガいたときのたわみが違うとのことです。
これとは違う話になりますが、クリスキングのピンクのハブ32Hと
オープンプロのリムでラジアル組みの前輪を組んだ お客さんがいるのですが、
後日 趣きを求めてか タンジェント組みに組み直してほしいと言われて
やったことがありました(→こちら)。
それについて さらに後日、組み方の違いで 何か差はあるのか訊いたところ
間違いなく、確実に、絶対に気のせいではなく
「フロントブレーキが利くようになった」とのことでした。
スポークの変形自体が目に見えなくとも
体感レベルの差で現れることがあるという意味で、
私の中でこの2つの話は非常に大きな収穫です。

あと、この時点でもまだ サクラの記事は見ていませんが
「メーカーがやらないのも 意味がない証拠」と
いうようなことが書いてあるらしいです。
伝聞なので 書いてなかったらすみません。
メーカーがしない理由ですが、結線をする手間がかかることと
ショップの方で修理ができる体制を整えることが まず不可能だから、
というのが 1つめです。

2つめに、構造上タンジェント組みでも
完組みホイールによくあるストレートスポークの多くは
最終交差を編んでいないということがあります。
編んでいない交差は結線できません。
編まない理由は、スポーク(とくに黒スポーク)の接触が
異音の原因になるからです。
キシリウムエリートは完組みホイールとしては珍しく
最終交差を編んでいた時期がありますが、
そのときは 超扁平形状の銀スポークでした。
あと(結線は反フリー側のみでいいというのは 私なりの答えですが)
そもそも反フリー側をラジアル組みしているホイールは
結線のやりようがありません。

これらについて、2つほど例外的なホイールの画像を載せたいのですが
いま手持ちに無いので 後日載せます。
「イーストンの画像」
「ライトウェイトの画像」

・・・いまサクラのホームページを見てきました。
確かに、結線をしても剛性は上がりませんと書いていますね。
それはサクラの中の人の知の及ぶ範囲ではそうなだけであって、
これは明らかに誤りです。
結線をしたところで ハブからリムに至るまでの
スポークのテンションに変化はありませんが、
ある方向からの応力に対する変形は確実に減っています。
それは先ほどの実験の通りです。

確かに ホイールをテンション構造だけで静的に見れば、
結線の有無に意味は無いかもしれません。
ホイールが直立した状態で、上下からプレス機に はさんで潰すとするならば
結線したホイールのほうが壊れにくい、ということはないでしょう。

実験その1で、反フリー側の最終交差に注油することで
音鳴りが無くなったと書きましたが、
もちろん 交差の摺動が無くなったわけではありません。
もし 実験その1で 注油無し結線ありという条件を付加したとすると
最終交差のたわみが殺されますから(でもスポークテンションは同じ)
音鳴りは起きなくなります。
この変化が実走時に「体感できる差」なのかどうかが問題ですが、
もし手ずから(←これめっちゃ重要)それなりの数のホイールを組んだことがあり
結びの結線の有無を乗り比べて その差が分からないというのであれば、
相当に目端が利かないとしか言いようがありません。残念ながら。
結線の効果については、あれこれ説明しなくても(あれこれ説明してきましたが)
乗って分からないはずが無いのです。
これが先ほど書いた「すさまじくセンシティブな人でなくとも分かるくらい大きい」
ということです。
のむラボホイールのほとんどは 反フリー側を結線していますが、
それらのホイールの使用者全てが「結線信者」というわけではないにしても
いくらかの効果を認めてくれる人が大半だと思います。
それらの人たちに私、あと競輪選手の多くを加えた人たちの目が
ことごとく曇っていて「結線などという意味の無いまやかし」を
信じているアホだという可能性と、サクラの中の人の主張が正しい可能性、
どちらに分があるかは読者の方がご判断ください。

それとは別の話で 笑えるのが、
応力解析できるお絵かきソフトをお持ちのようですが
それを駆使して考えた結果(サクラホイール)が、
ヨンゼロ組みやヨンヨン組みだということです。
スポークの番手について触れてすらいません。
これはのむラボホイール1号でいうと
XR300リムで前後総重量が何g!程度の情報量です。
全CX-RAYと半コンペと半チャンピ、
ヨンゼロ組みとヨンヨン組みとヨンロク組み、結線の有無、
ハブの選定(とくにリヤハブ)、これらでホイールの性能はいくらでも変わります。
それらについて何も触れず リムの空気抵抗と剛性を
大要素として過大評価しすぎ(まるでそれでホイールの性能が決まるかのよう)、
ハブとリムの間の理屈を軽視しているのか浅学なのか
凡百のホイールから抜きでた構造に仕上げていないホイールの
自己評価がなぜ かくも高いのか、私には分かりません。

初めのほうで 吐いたツバ飲むなよ、と書いていますが
これには意味があります。
伝聞なので私が直に見たわけではありませんが、
サクラのホームページに
「世界初のアルミ用ブレーキシュー使用可能なカーボンリム」という
文言があり、いやXentis(ゼンティス)が すでに
昔からあるやろとツッコまれてその表現を取り下げたらしいのですが
(ホイール屋でゼンティス知らんのもやばいですが)、
この記事を読んだ結果「結線は無意味」とした表現を
どうか削除しないでほしいのです(消したら負けやぞ)。
そんな簡単に変節を重ねては 筋の通ったものづくりはできません。
どうか自説を枉げず、貫き通してください。

冒頭のリンク先の記事、
読んで気を悪くした方がいるとか商売の妨げになるとかで
削除を希望している(つまり結線についての記述を消すなと言っている私と逆)
らしいですが、
私が一生懸命(サクラ的には人生の時間の無駄使い)結んだ結線を
意味がないと断じたことによって 読んで気を悪くした方がいるとか
私の商売の妨げになるという可能性があることについては
思い至らないダブスタっぷりに驚きです。
とはいえ、私の結線した後輪を使っている人たちの大半は
「結線が無意味とか んなわけねーだろ」とツッコミを入れたと思いますが(笑)。
そのくらいの自信なら あります。
お渡し後のリサーチも 来店可能なお客さんの範囲では一応していますので。

あと、叩いているとかいうわけではないですよ。誤解のなきよう。
私自身の知識と経験に基づくホイール観に照らし合わせたときに
そういう感想が出てきただけであって、叩かれたと感じたのであれば
所詮その程度のものだというだけのことです。
サクラさんも自身の知識と経験に基づくホイール観に照らし合わせたときに
結線に意味がないという感想が出てきているようですが、
私はそれについて全く気を悪くしていません。いや本当に。

むしろこのような長文の記事を書く機会を与えていただきありがたい限りです。

category: ホイールの話

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