先日「読むだけで●●●のスキルが上達する記事16選!」みたいなブログを見かけたんですけど、ウソつくなよと言いたい。
スキルは知識と技能で成り立つもの。読んで身につくのは知識だけで、技能は修練なしには身につきません。要は読めば「知っている」にはなれるけど「できる」にはなれません。
実際、世間は「知っている」けど「できない」人で溢れています。読むだけでスキルが上達しないなによりの証拠です。
にしても最近「〜するだけ」系の超お手軽スキル獲得で一瞬でデキる人になれちゃうよ記事が後を絶ちません。
本にしろブログにしろニュースにしろコラムにしろ、手を変え品を変え、注目を集めては消えていきます。
なぜでしょうか?
・・・というわけで今回は「スキル」の話です。
目次
なぜ「〜するだけ」系が注目され、売れ続けるのか
そもそも「〜するだけ」系のモノが売れ続けるのは、人は放っておくと楽な方に流れていくからです。
成果を出したい、スキルをつけたい、稼ぎたい、痩せたい・・・
頭では意識高めにそう思っている人の多くは、心のなかでは「コスパのいい楽な方法でね」という暗黙の条件をつけています。
売る側はそういう弱さにつけこんで「実はこんな画期的な方法があるんです!!!!」と煽って注目を集めにかかります。
すると「マジでそれ超ラクじゃんやべー」的な人がおめおめ甘い汁につられてやってきて、お金をつっこんでいきます。
しかしそういう人に限って地道な修練ができない。遠からず、その画期的な手法とやらを「やっぱダメじゃん」と手放す。
そしてふたたび意識だけが高くなるタイミングでまた別の画期的な手法に飛びつく。
・・・この無限ループが「〜するだけ」系が売れる理由です。
冒頭に言及したスキルアップ記事は売り物ではないですが、注目を集める理由という点では同じ構造ですね。
「読むだけでスキルアップ!」は「指に巻くだけで痩せる!」と同類
つまり「読むだけでスキルアップ!」は「指に巻くだけで痩せる!」的なダイエット商法と同じ構図ということです。
こういうのに飛びつく人はえてして「楽に成果が出る方法があるはずだ」とノウハウを探し続ける一方、泥臭い修練や鍛錬を詰もうとしません。
つまり、「勉強になります!」「参考になります!」と熱心にコメントを入れるだけの意識高い系ノウハウコレクター諸氏は、新種のお手軽ダイエットに飛びついては失敗する残念サイクルを続ける人々と同類だってことです。
ゴーレムの倒し方をかき集めたところで、レベル1のままではゴーレムを倒せません。
「読むだけスキルアップ」はまやかしだ
スキルは知識と技能の両輪がそろってはじめて機能します。特に実践を通じた技能の修練が物を言います。
「知っている」と「できる」は違う、という話がありますが、スキルはまさにそのど真ん中。知識はあってもそれを使える技能がなければスキルではありません。
たとえばコンサルタントがよく使う「ロジカルシンキング」「フレームワーク」「分析手法」。コンサルタントの書く仕事術系の本が山ほどあふれている昨今、それら知識は1000円くらいで手に入りますし、ものによってはググれば出てきますよね。
しかし実際にそれらを実務レベルで使える人はどのくらいいるでしょうか。ロジックツリー、So WhatとWhyの階層、SWOT、4C、3P、その他もろもろ、知っているだけで使えない人がほどんどだと思います。
これ、「TOEICの点数が一瞬で倍になる英語学習法」「誰もが知るべきデザインの基礎知識」「作業を倍速にするエクセルのショートカットキー」なんてのも全く同じです。
とっても参考になった例の英語勉強法、実践しました?TOEICの点数どうです?
デザインの基礎知識を読んだんですよね。それに則ったプレゼン資料、作ったことあります?
エクセルのショートカットキー一覧、殊勝なコメントつきでブックマークしてましたけど、実務での作業スピード変わりました?
「読むだけスキルアップ」系の話は全部まやかしです。
もちろんそういうモノで知識を学ぶのはいいことですが、それで終わりにしちゃいけません。
せっかく知識を手に入れたんだから、実践や修練を通じて技能をプラスして、スキルに昇華しないともったいないでしょう。
「読むだけスキルアップ」は使えない評論家を生む
スキル修得には知識だけでなく実践や修練=行動が必要だ、という話をしましたが、「読むだけスキルアップ」系のシロモノの場合、特に注意すべき理由があります。
読んだ人が使えない評論家になりかねない点です。
足を引っ張る「使えない評論家」
たとえば「エクセルのショートカットキー」。
エクセル画面をプロジェクターに投影しながら議論の結果をリアルタイムで反映しているとしましょう。
そこでショートカットキーを知っている(だけ)の人がこんなコメントしてきたら?
「エクセルの操作待ちで議論の進みが遅れてるからもっと早く反映して」
「ショートカットキー使えばもっと早く操作できるよ」
じゃお前がやれと。でもその人、できないんです。つまり言うだけ無駄。
たとえば「デザインの基礎知識」。
同僚と協力しながらワードで議事録を作っているとして、上司にレビューをもらう前にクロスレビューするとしますよね。
デザインの基礎をかじった同僚がこんなコメントしてきたらどう思いますか?
「色相的にこの配色イケてない」
「見出しのジャンプ率、甘くね?」
議事録で言うなと。クロスレビューで検証するのは書かれている内容であってデザインではない。
このように、無駄に知識だけはある評論家は、知識の使いかたや使いどころを誤った的外れ指摘でまわりの足を引っ張ります。
「読むだけスキルアップ」は間違えた行動を煽る
でははぜ「読むだけスキルアップ」が的外れ指摘を連発する使えない評論家を生むのか?
理由は「読むだけスキルアップ」系の本や記事の書きっぷりにあります。読んだだけでできる気分、やれる気分にさせてくれるんです。
そういうシロモノは多くの場合、知識の本来の使いかたや使いどころを厳密に書くより先に、まずもって「こういうときはこう言え!」「ああいうときはこうしろ!」とバッサリ言い切っています。
これ良心的に捉えれば、読者に行動を起こしてほしい一心でシンプルに言い切っていると理解することもできます。キッパリ言い切っているさまを見ると、素直な人は本当にその通り行動しますからね。
しかし中には、注目を集めるために雑かつ極端に詳細を切り落としたトンデモ言い切りがあるのも事実。「常に余白の美学を意識しろ!」「あらゆるものはMECEに分類しろ!」のようなやつですね。
こういった粗雑な行動提案をされては困りますし、真に受けられたらもっと困りますし、使いどころを考えずそのまま行動に移されても非常に困ります。
もちろん、技能の修得過程で知識をの間違った使いかたをして失敗から学ぶことは大事です。しかしそれは行動自体が正しい型に基づくという前提があってこそ。
「読むだけスキルアップ」のトンデモ行動提案を真に受けてただ行動ばかりしても、技能は身につかないし、害をまわりにまき散らすし、いいことがありません。
スキル修得は泥臭いものだ
スキルの修得は常に泥臭いものです。一足飛びに身につけようとしても結局まわりまわって正道に戻るだけ。
使いどころや使いかたをわきまえずに知識だけ頭に入れたり、極端で粗雑な行動提案を真に受けて実践を繰り返すのは、その時点では進んでいるように見えますが、中長期的には遠回り。
道なき道を探りながら遠い近道を試みるより、正道をすばやく進む方法を身につけるほうがはるかに効率的ですよ。
参考 スキルをすばやく身につけるスキル「キャッチアップ力」について
まとめ:「読むだけスキルアップ」は読む前に立ち止まって考えよう
以上「読むだけでスキル上達!」的な記事をみて「うーん」と思ったので書いてみました。
ウェブサイトにしろブログにしろ、世の中に出ている「記事」にマーケティングの色が濃く出てきている昨今。耳目を集めることが目的化して肝心のコンテンツがスカスカだったり間違っていることが増えてきているようにも思います。
「本当にこの情報は信頼できるのか?」「甘い言葉で釣っているだけではないか?」という視点から検証するスタンスを身につけたいですね。
気をつけよう 甘い言葉と 暗い道