私はポケモンを捕まえた事は無いが、万引きで捕まっている爺さんを観た事はある。
爺さんは警備員にポケットの中のものを出せと言われ、爺さんのポケットの中からは百円のガムが5個くらい出てきた。
「この紙に住所と電話番号を書きなはれ」
「やだやだ、金払うから許してくれ、家族には言わんといてくれ、ヒヒーン」
みたいなやり取りがあった。私はそれを見ながら、唐揚げ弁当を食べていた。学生時代、私がバイトをしていたスーパーの従業員用の休憩室での事である。
あの頃私がレジの仕事をしているとき、お客さんとして現れて、メールアドレスを書いた紙を渡してくれたあの人は、六月に私の知らない誰かと結婚するらしい。
私たちのアイデンティティは、家族、会社、同好会、ファンクラブ、組合、クラス、町内会とか、そんなところに帰属する事で保たれているのだろう。
それを失う事は、そんなに恐ろしいことだろうか。
失って初めて、本当の自分と向き合えるのかもしれない。
夢から覚めても、また新しい夢が始まるだけだ。
君を世界と関連付ける凡ゆる決まり事から引き剥がしたい。
世界の果てで静かに狂いたい。
りんごが好きとか、
ロックンロールが好きとか、
アイドルが好きとか、
ゆでたまごが好きとか、
お城が好きとか、
カルボナーラが好きとか、
電車が好きとか、
サッカー選手のふくらはぎが好きとか、
浜辺で焼きとうもろこしを食べるのが好きとか、
そんな事を全部忘れた君と
夜の浜辺を歩きたい
波打ち際で
黙りたい
そんな詩を書いていた。
コーヒーを飲みながら。
ラスクを食べながら。
屁をこきながら。