本のフリマアプリ「ブクマ」を運営している id:mocchicc です。
昨日、メルカリ カウルが出ました。
実は今年1月の時点で、進太郎さんから直接「うちもデータベースを持つフリマ、とくに本をやることになりそう」と聞いていて、競合する可能性がありながらも紳士的に教えてくれていました。もっちくんを応援したいのだけど、なんかごめんね、とまで言ってもらえて懐の大きさに惚れました。
昨年夏のIVS Launch Padで初めて「ブクマ」の発表プレゼンを行った直後、ソウゾウの松本さんとメルカリの取締役の小泉さんに誘われて(立ち話, 程度の温度感ではありますが)メルカリへのジョインの話もありましたが、その話は流れて、いまに至っています。これから先のことについては、まだぜんぜん分からないですが。
ニュースを見た友人知人から「大丈夫?」とメッセージたくさんもらってますが(ありがとう)、大丈夫です。今のインターネット業界は、勝つ・負けるっていうような世界ではなくなってきていて、社内ではあくまでメタファーのような仮想敵を作ることで、気合いを入れるような温度感になっています。僕の手帳の中にも、Game8を作っていた時代から「競合ではなくユーザーを見よう」と書いてあるし、今回社内でショートミーティングしたときも「まず、今のユーザーを大事にしよう」と第一声、メンバーに声をかけました。
かぶる分野で戦うことになった時に、周りほど、本人たちは競合を気にしてなかったりしますよね。競合のサービスを研究してユーザーにとってよいものがないか徹底的に研究はしても、競合自体を気にしてもユーザーには関係ないすもんね。
— けんすう (@kensuu) 2017年5月8日
ブクマもメルカリもお互いほとんど気にしてないと思う笑
ポジショニングが違いますね。ブクマは書店体験をスマホの中でリプレイスすることを目指していて、カウルは世界的なマーケットプレイスを創ることを目指すメルカリ経済圏の中でのニーズの拾い上げで、設計思想から違うので、ユーザー層は異なっているように思えます。 https://t.co/16mPnQx116
— 鶴田浩之@本のフリマアプリ"ブクマ" (@mocchicc) 2017年5月9日
最近はLabitに河西智哉さんもジョインしてくれて、非常に良い開発チームが出来上がっているので、以前とは違って強い戦略をもって仕事ができることに嬉しく思います。
▼「ブクマ」の投資家向け説明資料から抜粋 (参考) / これ、カウルが同じ部分にかぶるかな。
本のフリマアプリは、売り手と買い手の相互転換率が非常に高く、また買った本を再出品するというエコノミクスでヘビーユーザーのLTVが相当高くなります。ユーザー獲得単価さえ安くユニットエコノミクス成立させて国民的インフラ的サービスまで育てば、非常に収益率の高い事業のアイデアです。
— 鶴田浩之@本のフリマアプリ"ブクマ" (@mocchicc) 2017年5月8日
カウルは、良くも悪くもメルカリ?
実際に何度か売り買いもして、一応いろいろ研究してみていましたが、これは結局「メルカリ」ではないか?という印象です。シームレスにID連携している機能的側面だけではなく、デザインや設計思想から滲み出てくる「色」がメルカリです。
もしサービスに「メルカリ」の冠がついてなければ、どんな見え方するのでしょうか。
現時点では「メルカリユーザー」をペルソナ像の範疇にとどまっていて、ニーズの取りこぼしを減らしたり、より便利にしよう、という考え方なのかなと思います。使いやすい出品アプリで、メルカリを毎日使っている人たちには嬉しいニュースの一つなんだと思います。それは当たり前っちゃ当たり前で、ソウゾウ社もメルカリが定めるミッションと3つのVALUEを踏襲して、共通の価値観で動いています(それに加えてソウゾウには「MOVE FAST」がある。)
「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」なので、やっぱメルカリは、あくまでマーケットプレイスなんだな、と。僕は、本屋さんや読書が好きだったので、「書店体験をスマホの中でリプレイスして、たくさんの人が生涯で読む本を増やすきっかけになりたい」という想いでブクマを作り、動いています。結果できることは同じだったり似ているかもしれないけど、もととなる設計思想が別です。
ブクマが目指している書店体験のスマホアプリ化
書店体験にはいくつか要素があると思っていて、ひまつぶしに立ち寄ったり、何か刺激ないかなとフラッと寄ったり、人との待ち合わせ場所にしたり。これまでの時代の街の象徴的な「メディア」と「コミュニティ」の機能を果たしてきたのが、本屋さんだと思っています。これは僕が実際に本屋さんを起業して(BOOK LAB TOKYO)、本屋とは何か、なぜ人は本を読むのか、1年ずっと考え続けた結果、自分の理解の深い部分に降りてきたものです。
フリマアプリは、その行為自体が「エンタメ」として機能しながら個人間取引を楽しむ人もたくさんいます。アプリの滞在時間は意外と長くて、ニュースと同様に、何気なく見ているだけの人も多い。
私達がふだん本屋にふらっと立ち寄ってみたくなるのと同じように、何気なく刺激や情報を求めて開いてもらうアプリになれるかどうか。これが僕たちにとって重要な事実です。
カウルは、どんな思想であるのか、トップが語るストーリーはまだ少ないので、メルカリの便利なものが出ました、という情報しかない。これからどうなっていくのか見ていたいです。
▼「ブクマ」の投資家向け説明資料から抜粋 (参考)
Labitは「世界観を提案する」ということを企業哲学として大事にしています。
メルカリは正しい戦略に沿っている
山田進太郎さんとはプライベートでもBBQに誘ってもらったり、メルカリ以前のウノウ・ジンガ頃から応援してもらっていて、2013年のメルカリ リリースの週も2人で食事に誘ってくれました。最近は、意見交換する中でマスタデータベースを持つ「カタログ型」フリマの構想の話や、メルカリ経済圏を強くしていくためのID連携のサードパーティを増やしていくことなど事業戦略の面に加えて、「エンジニア中心の組織で、多様な人たちをたくさん仲間に引き入れながら、Googleのような企業体を目指したい」と語っていた姿は、いまでも印象に残っています。
メルカリの強みは、親アプリとしてID連携、ポイントやレビューシステムの経済圏が出来上がっていることです。LINEや楽天と同じ戦略ですね。今後はペイメントも出ると思うし(merpay=メルペイがドメイン登録されている)、サードパーティアプリは増えてくると思います。
おそらく次のバージョンで安定した頃にでも、メルカリからの送客キャンペーンがあり、コストゼロで300万DLほどはカウルに送り込むと思います。それはやはり強みだと思うし王者の戦略で、羨ましいとは思いますが、逆に言うと完全に色がついてしまうので、失敗すると楽天のような感じになってしまう可能性もあります。ブクマのユーザーとは10倍くらい差がついて、大資本やユーザー基盤では負けますが、単純比較はせずに良いサービス作りに励みたいと思います。
実は出品数はそこまで重要ではない
本は年間7万タイトルも発刊されていて(1日200タイトル!)、過去10年間で50億冊くらいは実売があります(コミックスを含む)。本に限っていうと、50万出品を超えてくると、実はそれほど出品数が重要ではなかったりします。ロングテールが機能するようになれば、100万冊が200万冊になったところであまり変わらない。これから、ブクマとカウルの共通の課題になると思いますが、「どうしても売れない本」が存在することをどう対処するか。本と言うのは、版が古かったり、ベストセラーで供給が増えすぎると、物流コストに似合わない評価額になってしまうんですね。ブクマは送料込み300円がお得のライン、という目安にしています。ブックオフの買取が1〜5円だとして、それを20倍〜100倍の値段で売れる、少なくとも150円の手取りがあってほしい、という想いからです。新しい本をすぐに読んだあとリセールバリューが高いうちに、6〜8割の値段で買われるケースも非常に多い。でも300円や200円でも買い手がつかない本もあるのも事実で、ブックオフには魅力的な本が減って、そういう供給過多の不良在庫になりやすい本が集まってしまう未来も見えます。
─ 買い手訴求が重要
メルカリは初期の戦略で、出品訴求をかなりやっていたようですが、ブクマもカウルも、出品訴求はしなくてもたくさん集まってくるものだと思います。ブクマは実際に、出品者一人あたりの平均出品数が8〜11冊で、300冊以上出品している個人ユーザーも多数います。より買い手訴求をしていくのが重要だと思うので、フリマアプリは通常のECのような戦略を取っていくことが必然の流れになると思います。
ECとCtoCの融合
正直、カウルが新刊を扱うという話には驚きました。ブクマも、今夏から新刊の取り扱いを予定しています。初めてのCtoCとECの融合の事例を作るつもりでしたが、このモデルに関しては完全に「同じ」になってしまいます。僕がTwitterや雑誌のインタビューで、「ブクマのユーザーの行動ログを分析すると、3−4冊の古本を売った売上金を使って、新刊を買っている」という趣旨の発言もしているので、もしかすると、少しだけ参考になってしまったかもしれません。(本のフリマをやるってなったら、新刊やる流れになるのは必然ですが) 実際にブクマでは3月から新刊販売の実証実験をすでにスタートしています。カウルの場合、取次はトーハンでしょうか。
また出品者と購入者の相互転換率が非常に高く、半数以上のユーザーが出品・購入の両方を利用していることも、同サービスならではの特徴だ。ユーザーは『ブクマ!』を通して、家にある本を数冊売り、新しい本を1冊買うというサイクルになっている。単にお金を払って本を買うのとは違い、楽しくかつお得な購入体験ができる。(中略)
今夏以降には、約80万タイトルの新刊本も取り扱い考えだ。新刊本も取り扱うようになれば、中古と新品のどちらを買うか、購入者の選択肢が広がる。家にある本を売ったお金で新しい本を買うという循環を作ることで、結果的に一時流通の貢献にもつながる。
─『販促会議』2017年6月号 ブクマ インタビュー記事から抜粋
メルカリのボードメンバーの方々とは来週バーベキューで会いますが、よい棲み分けができて、両方のサービスがそれぞれ求められているニーズを満たして、成長していけたら良いなと思ってます。