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<記者の目>原則軽視の高浜原発運転延長=高橋一隆(福井支局小浜通信部)

「高浜原発運転延長反対」の看板やのぼりを立てる住民ら=福井県高浜町音海で2017年2月24日、高橋一隆撮影

立地住民の不信、頂点

 福井県高浜町の関西電力高浜原発をめぐり、原発のすぐ隣に住む同町音海(おとみ)地区の住民が関電への不信感を募らせている。直接のきっかけは運転開始から40年を超える1、2号機の再稼働方針への反発だ。地区の総意として反対を表明した。関電は今月から来月にかけて3、4号機を順次再稼働しようと準備を進めているが、地元の信頼と理解を重視するのであれば、1、2号機の再稼働断念を含めた抜本的な対応をとるべきだ。

     音海地区は若狭湾に面した内浦半島の中ほどにある約60世帯の集落で、半島の根元に高浜原発がある。

     昨年12月、私は地区総会で1、2号機の運転延長に反対する意見書を関電などに提出する動議が出されるとの話を耳にした。原発は長年、交付金や税収、雇用を町にもたらした。表立った批判の声のなかった地区で動議は可決されるのか、疑問を抱きつつ取材を始めた。しかし、約50人が集まった総会で緊急動議が出されると、約1時間の議論で出たのは提出に賛同する声ばかり。「高浜原発の運転延長に強く反対する」との意見書がすんなり採択された。

     毎日新聞が翌日朝刊で報じると、関係者に衝撃が走った。早朝から関電幹部が住民宅を訪ねて「説明する場を設けたい」と対応に追われた。住民によると、県警や海上保安庁の担当者も経緯を尋ねに来たという。野瀬豊町長は意見書を出した住民と直接面談。「交付金25億円で町道を整備する」などと提案して理解を求めたが、住民は「関電や行政の対応に不満があった。もう我慢ならない」と怒りをあらわにし、直後に「運転延長反対」の看板を設置した。

    「フクシマ」後、声を上げねば

     背景には2011年3月の東京電力福島第1原発事故がある。事故が起きれば、音海地区住民が避難できる陸路は原発脇を通る県道だけ。不安が広がっていた中で昨年6月、運転開始40年を迎える1、2号機の運転延長が原子力規制委員会の認可を受けた。福島での事故後の法改正で運転期間は原則40年と明記された。1回限り延長は可能だが、関電社員が地区に説明に来ることがないまま、県道には安全対策工事のトラックが行き交うようになり、不安は不信へと変わった。

     住民にとって批判するには関電はあまりに大きい存在だったが、「声を上げなければ」との思いが強まった。動議に加わった貝取繁男さん(69)は東京の食品会社を定年退職し、8年前に帰郷した。「若い頃は家族で原発が話題になったことはなかったが、世代は代わった。福島の事故も起きた。なのに、おとなしくしていることに疑問を持った」と明かす。

     吉岡斉・九州大教授(科学史)は地区の決断を「先見性を感じる」と評した上で、「原発を取り巻く環境は大きく変わった。地元といえども脱原発は避けられないことを見て取ったのではないか」と分析する。

    「軽すぎる言葉」感情を逆なで

     関電も対策を講じた。1月8日、地区の新年集会に高浜原発の副所長ら社員6人が初めて顔を出し、運転延長への理解を求めた。だが、「運転期間が原則40年の米国では60年への延長が認められ、現在は80年までの議論が進められている」と書かれた配布資料に住民は敏感に反応した。「言葉が軽すぎる」。厳しい声が相次いだ。集会後、住民の一人が打ち明けた。「なし崩し的に何度も延長されないか恐れているのに」。安心させるための説明が住民感情を逆なでした。

     1月20日には2号機で工事用大型クレーンが倒壊する事故が発生。2週間以上たっても説明がない関電に業を煮やした住民は質問状を送り、説明会開催を要求。事故の約1カ月後にようやく開かれた。

     関電の岩根茂樹社長は1月末、本店(大阪市)での記者会見で音海地区の動きについて「もう少し丁寧に説明していく必要がある」と述べた。

     関電はその後、高浜原発で地域対応に当たる副所長を新たに置き、町出身者を抜てき。担当課長を3人増やす異例の対応を取った。4月には副所長2人が地区の花見会を訪問し、野瀬町長も改めて住民と懇談したが、どれも根本的な解決につながっていない。地区で旅館を営む児玉巧さん(69)は「原発を一番恐れないといけない私たちが声を上げてこなかった。反省している」と語る。

     最初に意見書決定を報じた後、「関電や町から有利な条件を引き出すためではないか」とやゆする声も耳にした。しかし、取材を通して分かったのは、原発と共存してきた住民が悩み、考え抜いた末の行動だということだ。

     40年超の運転延長は「例外中の例外」とされたが、同じ関電の美浜原発3号機(同県美浜町)を含め3基が認められた。再稼働間近の高浜原発3、4号機はあと8年ほどで40年を迎える。仮に高浜1、2号機が再稼働すれば、関電は3、4号機でも運転延長を求めるだろう。そうなれば原発事故を機にできたルールはますます骨抜きになる。

     原則を曲げる決定が住民を不安に陥れ、不信を抱かせたことを関電や行政は認識すべきだ。いま一度立ち止まり、住民の声にしっかりと耳を傾けてほしい。

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