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チャレンジしてもそれほど報われないのに、リスクだけは大きい「社内ベンチャー」制度を、どう変えたら良いか?
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2017年2月14日(火)更新
「社内ベンチャー」は、企業が新しい製品や事業を創り出すための独立した組織の事を言います。今回は、この社内ベンチャーについてご紹介します。
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社内ベンチャーとは、どのような意味なのでしょうか。
まず「ベンチャー企業」の定義を、今一度振り返ってみましょう。ベンチャー(venture)とは、「冒険・冒険的な企て(デジタル大辞泉より)」という意味の英語です。その名の通り、ベンチャー企業は冒険的でクリエイティブな独自の製品や事業を創り出し、新規にビジネスを展開する中小企業の事を指します。明確な定義はありませんが、一般的には「設立から年数が経って居ない若い会社」や「IT関連などの新しいサービスを展開している」などの特徴も併せ持っています。
「社内ベンチャー」は、企業が新しい製品や事業を創り出すための独立した組織の事を言います。この社内ベンチャーの運営担当者は、「社内起業家」とも呼ばれます。 社内ベンチャーの多くは、事業規模の大きな大手企業の新規事業開発の目的で行われます。組織の中で起業家精神を持った社員が、企業の資金や人材などの経営資源を活用して、運営を行います。
社内ベンチャーは、トップダウンもしくはボトムアップで立ち上がります。それぞれのケースを詳しく見てみましょう。
社内ベンチャーなどの新規事業を立ち上げる際には、経営者自身もしくは経営者から命じられた「事業開発部」「新規事業部門」などの組織が主導するケースが多く見られます。テーマはトップから与えられ、組織のメンバーはそのテーマに沿ったビジネスモデルの構築を行います。 ただし、トップがテーマを設定する場合には、現場や市場のニーズとかけ離れたものにならない事が重要です。そのためには、事業を運営する組織や現場のスタッフとのコミュニケーションが必要不可欠です。
事業のテーマを社内公募したり、最近では「社内ベンチャー制度」などを立ち上げ、ボトムアップでの社内ベンチャー立ち上げに力を入れる企業も増えてきました。集まったプランの中から、企業にとって有益になりそうなもの、将来性が見込めるものを選定し事業化します。このような制度を導入する事で、企業は新規事業の可能性を広げられるだけではなく、社内人材の育成や、企業文化をより良いものにする事ができます。
【参考】三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ベンチャー企業におけるビジネスモデル構築と社内ベンチャーへの適用」
それでは、企業はどのような目的で社内ベンチャーを立ち上げるのでしょうか。主な目的は、以下のような点が挙げられます。
これらの目的は、企業側にとっての社内ベンチャー立ち上げのメリットとも言い換えられます。詳細については、「5.社内ベンチャーのメリット」でご紹介します。
近年頻繁に使われるようになった「スタートアップ」という言葉。これと社内ベンチャーとは、どのような違いがあるのでしょうか。
「スタートアップ」とは、既存にとらわれない新しいビジネスモデルを創出し、短期間で急速に成長して上場などを目指す企業を指します。 一部では、「ベンチャー企業」の事を、近年米国から入って来た「スタートアップ」という言葉に言い換えたもの、と解釈されているケースも見受けられます。しかし、「ベンチャー企業」と「スタートアップ」は、「全く新しいビジネスモデルなのか」「急速に成長しているのか」という点に違いがあると言えます。
それでは、スタートアップと社内ベンチャーのそれぞれの特徴を見てみましょう。
それではここで、様々な企業が取り入れている「社内ベンチャー制度」をご紹介します。
サイバーエージェントでは、「NABRA」という全社選抜メンバー(約10名)から成る、新規事業創出のために作られたグループがあります。この中で出されたアイデアの中で優良なものは、役員会をスキップして投資委員会にかけられ、決議次第ではすぐに事業化となります。 サイバーエージェント内には数十社を数える社内ベンチャーがあり、登録者数1400万人突破の「グランブルーファンタジー」などで知られるCygames(オンラインゲーム)もその一つです。 同時に、事業の昇格や降格、撤退の基準を明確とした「CAJJプログラム」も運営されています。
リクルートホールディングスは、新規事業提案制度を1983年より導入しています。既に「ゼクシイ」「HOT PEPPER」などが新規事業として事業化され、今ではリクルートを支える大きな柱となっています。 この制度では、まずグループ各社の課題と照らし合わせたテーマに沿って、アイデアが募集されます。応募者は社内外や部署問わずメンバーを集めてチームを作り、アイデアを提出。提出されたレポートは書類審査や面接を経て、入賞の可否が決定します。入賞したアイデアは、役員からのアドバイスも含めつつブラッシュアップされ、グランプリ・準グランプリのチームには、賞金と事業化へのチャンスが与えられます。そして、実際に事業化すれば多くのメンバーは現在の職を離れて新規事業へ専任となります。
2010年、大手広告代理店の博報堂DYホールディングスが社内ベンチャー制度「AD+BENTURE」を立ち上げました。審査やテストマーケティング(費用面もサポート)を経て、成功した案件のみ事業会社へ移管。そののち、本事業化されます。経営・法務・経理・広報などの社内スタッフや外部ブレーンなど、様々な専門スタッフの支援も受けられます。
社内ベンチャーを立ち上げる事で、どのようなメリットがあるのでしょうか。企業側・運営側、両方の視点から見てみましょう。
まずは、企業側から見たメリットです。
新規事業を生み出す土壌ができる事で、企業の新たな収益源を得る可能性が増えます。事業拡大の手段とも言えます。社内ベンチャーで生み出す新規事業は、既存事業・本業の延長戦にある分野のもの、もしくは本業とは全く関係のない新しい分野の、二通りがあります。
公に社内ベンチャー制度を掲げたり、社内ベンチャーをバックアップする事により、ポジティブな企業文化を醸成する事ができます。また、社内ベンチャーに参画していない他の社員への刺激になり、本業にもポジティブな影響があります。起業精神を持った優秀な人材の発掘や、本業では見えなかった隠れた才能を発掘する事もできます。
社内ベンチャーを運営する上で一番のメリットは、優秀な人材を育てる事ができる点にあると言えます。社内ベンチャーで本業を離れた人材は、本業では得られない貴重な経験を積む事ができます。その人材が戻ってきた時に、企業は新たな恩恵を受ける事ができるのです。 近年では、多様性、つまりダイバーシティも叫ばれています。ビジネスシーンも急速に変化し、多様性の求められるこの時代に、最適な人材を育てる事ができます。
実際に社内ベンチャーを運用する側には、どのようなメリットがあるのでしょうか。
これは社内ベンチャーを運営するにあたり賛否両論ある問題ではありますが、本業のブランド力を使って運営できるため、信用を得るところから始める必要がありません。スタートアップ企業などと比べて、有利に経営する事ができます。
本業の企業から資金援助を受けながら運営できるので、自身の資産を投資するなどの必要がありません。また、スタッフも給与を貰いながら事業を進められるので、生活のリスクが伴う事もありません。
それでは、デメリットにはどのような点があるのでしょうか。こちらも、企業側・運営側、双方の視点で見てみましょう。
まずは、企業側から見たデメリットです。
一般的に社内ベンチャーは難航し、成功率が低いとされています。詳細については「8.社内ベンチャーが難航する理由」で詳しくご紹介します。
社内ベンチャーは、資金的にも人材的にもそれなりの投資が必要です。しかし、先ほども触れたように成功率は低く、失敗した際にはそれが損失となります。
運営側のデメリットは、以下のような点が挙げられます。
社内ベンチャーは、企業側から短期間での成果を求められがちです。様々なスタートアップ企業が立ち上がり、急成長を遂げてゆく中で、社内とは言えベンチャー企業がゆっくりと成長していては競合他者に追い抜かれてしまいます。企業側は資金や人材などを支援しているので、それに見合ったスピードの成果を求められます。
メリットでも触れましたが、運営側のスタッフは基本的に給与をもらいながら運営を行っています。また、元の企業に籍が残っており、プロジェクトが終われば戻るという約束になっている場合も多いでしょう。つまり失敗しても「逃げ道」「戻る場所」があるという事です。しかし、スタートアップのように自身の資金を投資し、生活リスクも抱えた組織と比較すると、成功への熱量が不足しがちなのは否めません。
それでは、実際に社内ベンチャーを推進する上で、どのような点に気をつければ良いのかを見てみましょう。
全く新しいビジネスを始める時には、仮説と検証、トライ&エラーを繰り返して方向性を見つけていきます。その際、その全てを一緒に経験する「チーム」が重要です。プロジェクト毎にチームを分け、検証で失敗すると解散…という状況では、学びが蓄積しません。
社内ベンチャーを成功させるには、経理や総務を含めた「会社」としての機能を一通りもっておく事が重要です。この部分を本社側に頼ってしまうと、本社側のルールに則って処理されるため、毎回イレギュラー対応を依頼するなど、逆に業務が煩雑になってしまいます。
基本的に、ベンチャー企業に管理部門はありません。法務関連や、アルバイトの人事管理、支払いなど、様々な「管理」も運営側のスタッフが担う事になります。初めて行う業務も多々あると思いますが、これは会社の信用を保つために非常に重要な業務です。
スタッフの評価や採用などの人事権は、社内ベンチャーの責任者に委ねる方が良いと言われています。本社側の既存の人事制度が合わないという事もありますが、独立した組織という認識を強くする事ができるというメリットもあります。
社内ベンチャーは企業側から早急な成果を求められがちですが、新しいビジネスであるため、そんなにうまく結果が出るとは限りません。そんな時にメンバーの心のよりどころとなるのが「ビジョン」「ミッション」です。このチームで絶対に成し遂げたいビジョンやミッションを明確にし、それをメンバー全員で共有しておく事が重要です。
先ほどメリットでも触れたように、社内ベンチャーは人材や資金面などで企業側に頼る事ができます。また、メンバーも給与を貰いながら運営するなど、リスクがないため熱量が不足しがちです。社内ベンチャーであっても事業者としての自覚を持ち、「スタートアップ」のように「何が何でも成し遂げる」「失敗すれば会社を去る」という覚悟を持って臨む事が重要です。それが、精神面での支えになる事もあります。
全て自分でやろうとせず、社内外の人を上手く使う事が重要です。社内ベンチャーの強みは、企業から資金・人材などのサポートを受けられる事。人付き合いを大切にし、協調性を保ちながら、周りに「味方」を増やしていきましょう。
【参考】Social Change「社内ベンチャーの経験から学んだ新規事業の失敗を防ぐための5つのポイント」
一般的に社内ベンチャーは成功率が低いと言われています。その理由について探ってみましょう。
先ほど「メリット」で触れたように、社内ベンチャーは企業側の名前を使って信用を得る事ができます。しかし、これが成長を阻む要因にもなります。企業の恩恵を受けリスクを負わない事で、同じように新規事業を始めたスタートアップ企業と比較して、事業に対する熱量や推進力の不足が懸念されます。可能ならば、社内ベンチャーのメンバーは企業から籍を抜き、覚悟を持って取り組む事も必要です。
これは、人材の数のみならず、その人材の事業にかける情熱も足りていないという事です。成功するかどうか分からない新規事業に、十分な数の人材を送りだす事ができる企業ばかりではない事。そして、社内ベンチャーへの参画を任命された人材は、それほど事業に対する情熱がない場合もあります。先ほども触れたように、競合となるスタートアップ企業は自身の生活をかけて急速に成長します。社会ベンチャーとは言え、運営するスタッフ全員に、同じような情熱が必要なのです。
社内ベンチャーは、あくまでも「社内」であるため、組織に属しています。そのため、最終的な意思決定は企業側の承認が必要な場合も多いでしょう。また、企業側の本業に影響のある動きができないなど、何らかのしがらみや制約も出てきます。これらが、社内ベンチャーの成長を阻害する要因にも成り得ます。
社内ベンチャーの事業を進める上で、本業の手助けが必要な部分も出てきます。その部分については、企業側に協力依頼をしますが、社内ベンチャーに参画していないスタッフがその業務を手伝うメリットが少なく、本業も忙しいため後回しにされる事も多いでしょう。事前に、企業内での根回しや、企業側に協力要請する際のルール作り、外部への依頼の可能性なども探っておく必要があります。
それでは、過去に社内ベンチャーで成功を収め、日本でも広く名前の知られている企業についてご紹介します。
まずは、スープ専門店「スープストックトーキョー」のご紹介です。
スープストックは「食べるスープ」をコンセプトにした、スープ専門店。1999年に一号店をオープンし、2015年には全国70店舗を超えました。当初は「株式会社スマイルズ」が運営していましたが、2016年に分社化され、現在は「株式会社スープストックトーキョー」となりました。オンラインショップの運営や、2017年3月からはJAL国際線でのスープの提供も行っています。 現在は、スープストックのみならず、リサイクルショップ・ネクタイ専門店・ファミリーレストランなど様々な業態の事業を展開しています。
このスープストックは、三菱商事初の社内ベンチャーとして遠山正道氏(株式会社スープストックトーキョー代表取締役会長)が立ち上げたものです。遠山氏は当初、三菱商事の外食サービス事業ユニットに所属していました。関連会社の日本ケンタッキーフライドチキンに出向した際、ある実在する女性の生活に「スープ」がある事を題材にした「1998年、スープのある一日」という物語形式の企画書を作成。その後も、その女性の食の好みや運動の嗜好など「ペルソナマーケティング」を続け、事業計画を練ってゆきました。そして当時の日本KFCの社長などの評価を受け、社内ベンチャーが始動。1999年に、お台場ヴィーナスフォートに1号店がオープンし成功を収めました。
【」参考】HARBOR BUSINESS Online「Soup Stock Tokyoを運営するスマイルズ。純利益半減も事業展開は野心的
次に、スポースクラブ「ルネサンス」のご紹介です。
スポーツクラブルネサンスは、1979年に創業したスポーツクラブで、現在は小型施設やリハビリ施設などを含めて134施設(2016年6月)を運営。会員数は39万人を超え、連結売上高は434億円以上に上ります。国内でのフィットネス業界では、売上高3位。2003年にジャスダック上場・2004年に東証二部上場・2006年に東証一部銘柄に指定替えを行いました。
ルネサンスは、大日本インキ化学工業(現DIC)株式会社の社内ベンチャーとして設立されました。発端は社内のテニスサークルで、その後メンバーの斎藤敏一氏(株式会社ルネサンス代表取締役会長)の提案で事業と認められ、会社を設立。1979年に「ルネサンス テニススクール幕張」をオープンしました。その後、1981年にスポーツクラブとして複合化する事となります。 斉藤会長の信念は「事業は小さく生んで大きく育てろ」。そもそも社内ベンチャー立ち上げの際、会社を大きくしたい・設けたいなどの欲が無かったと語ります。この信念は、小さく出る事でリスクを最小限に抑え、様々な事業に対してスピーディーに実験的な運営ができるというメリットがあります。また、DICは新しい事を面白がる企業風土があり、それがルネサンスが成功を収めた要因にもなったとも語っています。
【参考】zakzak by 夕刊フジ「ルネサンス・斉藤敏一会長 私欲なき起業が大きく育つ」
最後に、社内ベンチャーの失敗例を簡単にご紹介します。
失敗要因:高額なコストと、技術開発が追いつかなかった点
失敗要因:社員の意識を革新できなかった事、売り上げ好調から激減に至り在庫を多数抱えた点
失敗要因:身の丈以上の大規模な販売戦略をとってしまった点
【参考】起業.tv「社内ベンチャーのメリット・デメリットとは?」
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