指定管理から直営復活 視察相次ぐ 小郡市立図書館試行錯誤の30年 読書活動推進策にも力 [福岡県]
今年11月、開館30周年を迎える小郡市立図書館(新木秀典館長)に視察が相次いでいる。いったんは指定管理者制度を導入したが、3年で市の直営に戻した珍しい公共図書館だからだ。近年では、学校給食との連携など、独自の子どもの読書活動推進策も注目されている。さまざまな試行錯誤を重ねながら、あるべき公共図書館像を目指す姿を追った。
「絵本に出てきたタケノコだ!」。4月下旬、市内の市立全8小学校と5中学校の給食に「ものがたりレシピ」が登場した。メニューは、給食前の授業で読み聞かせがあった絵本「ふしぎなたけのこ」にちなんだ、たけのこご飯。東野小1年の秋山結愛さん(6)は「絵本のタケノコがおいしそうで、ちょうど食べたくなっていた。おかわりしたい」と声を弾ませた。
ものがたりレシピは、「子どもたちに読書を身近に感じてほしい」と2011年度に始まった年1回のイベント。市立図書館が中心となって教務課や学校給食課と協力し、約3カ月かけて本の選定やメニューづくりなどを進めてきた。
企画を担当した同図書館司書の田実亜依子さん(35)は「他の課との連携なしにはできない取り組みで、直営だからやりとりがスムーズにできた」と、「直営」である利点を語る。
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市立図書館は1987年11月に市の直営で開館した。2006年4月、行財政改革の一環として指定管理者制度を導入し市が出資する公社に運営を委ねたが、3年後、「迅速な意思決定ができない」などとして再び市の直営に戻された。
指定管理者時代の08年に館長となり、直営に戻った後も16年3月まで館長を務めた永利和則・福岡女子短大特任教授は「民間と直営両方の経験から、直営だからこそできる権限の大きさを実感した」と語る。
例えば直営の場合、館長は市の課長として他の課と対等な立場で協議できるが、指定管理者の場合は担当課に提言し、市が動くのを待つしかないという。永利さんは「市の政策立案に直接関われる権限の差は大きい」と話す。
小郡市立図書館には今、視察が相次ぐ。佐賀県武雄市が市立図書館の指定管理者にレンタルソフト店最大手「TSUTAYA」(当時)の運営会社を決定した12年度には年40件に上り、その後も北海道や四国など各地から10~20件程度の視察が続いているという。
武雄市を第1号に全国に広がった「ツタヤ図書館」はカフェ併設などで人気を集める一方で、不適切な選書などが指摘された。「あらためて文化行政の中心としての公共図書館の運営に、多くの自治体が関心を持っている証拠。小郡の試行錯誤を参考にしたいということではないか」と関係者は推測する。
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人口約6万人だが、書店が2店しかない小郡市。活字難民を生みかねない現状を打破しようと、先頭に立ってきたのが図書館だった。
開館と同年に始まった移動図書館は、当初の12カ所から病院や公園など24カ所に拡大。03年度には障害などで来館が困難な人への宅配サービスを始めた。小中学校や高校、専門学校の蔵書を市立図書館のコンピューターで一元管理することで1枚の利用カードがあればどこでも本を借りられるシステムは全国的にも珍しいという。
10カ月児の健診の際に保護者に絵本を渡して読み聞かせのアドバイスをする「ブックスタート」では、大学と連携してその後の追跡調査を行い、母子支援の研究につなげている。
一方で、直営に戻して以降も経費を抑えるため、市職員は館長ら3人のみで、司書13人は嘱託職員が担っている。「若い人の利用が少ないので、もっと専門書を充実させて」(利用者の男性)など、図書館への注文が尽きることはない。
図書館でも、貧困家庭を中心にした学習支援を模索している。「市民のニーズを丹念に拾って、本の貸し出しにとどまらない役割を担っていきたい」と、新たな意欲を見せている。
=2017/05/09付 西日本新聞朝刊=