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小黒一正教授の「半歩先を読む経済教室」

日銀、隠れた巨額損失膨張に懸念広まる…異次元緩和の代償、自民党が首相官邸に警告

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日銀の黒田総裁(ロイター/アフロ)

 4月18日、政府が国会に提示した日本銀行の審議委員に関する人事案について、一部の有識者や市場参加者の間で衝撃が走った。人事案の2名のうち1名が金融緩和の強化を唱える「リフレ派」のエコノミストであったためであり、今国会において人事案は衆参両院で承認される可能性が高い。

 この人事案は、2016年9月下旬、日銀は異次元緩和(量的・質的金融緩和)の軌道修正を行ったものの、その先行きに一定の影響を及ぼす可能性がある。

 そもそも、筆者を含む一部の有識者が心配しているのは、現在の日銀に蓄積している損失やリスクである。この関係では、以前のコラムにおいて、16年8月31日時点で日銀は保有する長期国債で約8.8兆円の損失を抱えており、それは日銀の自己資本(=引当金勘定+資本金+準備金)約7.6兆円をすでに上回っていることを指摘した。16年12月31日時点では、この8.8兆円の損失は約9.9兆円に拡大している。

 また、デフレを脱却し、2%の物価目標が達成されたとき、期待インフレ率も跳ね上がるのが自然であり、フィッシャー方程式の「名目金利=実質金利+期待インフレ率」の関係から、実質金利が0%だとしても、現在は概ね0%の長期金利は2%以上に急上昇する可能性がある。このとき、日銀が保有する長期国債が約300兆円で、その平均償還年限が8年であったとするならば、2%の金利上昇でも、約48兆円(=300兆円×8年×2%)の評価損が発生する可能性が出てくる。

 このような損失やリスクに直面している日銀の問題に首相官邸を含む政治が今後どう向き合っていくのか、政治の姿勢が問われている。

 このような状況のなか、河野太郎議員が本部長を務める自民党の行政改革推進本部では、5回にわたる有識者ヒアリング(筆者もその1名)を行い、先般、以下の「日銀の金融政策についての論考」と題する提言書(下線は筆者)を官邸の菅義偉官房長官に手交している。

 この動きについて、マスコミの報道は一切ないが、この提言は極めて重要なものである。現時点で金融政策の出口戦略を議論することは時期尚早との見方もあるが、現在の日銀が抱えている損失やリスクは非常に大きなものであり、日銀や関係府省庁を含め、いまから議論を開始する必要があると思われる。
(文=小黒一正/法政大学経済学部教授)

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