朝、目が醒めて、身体の感覚を確かめる。肉体がある。疲労感がある。指先をタコのようにくにゃくにゃと動かす。くにゃくにゃ動く指を観て深海をイメージする。イソギンチャク、タコの捕食シーン、紺青、プルシアンブルー、白と濃紺のグラデーション。
布団から起き上がり、伸びをする。息を吸い込む。肺が膨らむ。全身に血がめぐる。今日も私が私である事に絶望して中腰で尻を振りながらフラダンスを踊る。記憶喪失になれば毎日が新しい輝きを取り戻すだろうか。
遮光カーテンを開ける。朝日が射し込む。太陽が万物を照らす。ビルを照らす。山を照らす。ゴミを照らす。アホを照らす。野良猫を照らす。苔を照らす。川面がキラキラと揺れる。
光の反対側には影ができる。日陰に小さなオオイヌノフグリが咲いている。漢字で書くと大犬の陰嚢。大犬の陰嚢が微風に揺れている。日陰に咲く大犬の陰嚢は花が小さく葉が大きい。とはいえ、そもそもが取るに足らない小さな花だ。だけど私はこの花が好きだ。
私は今日も昇る朝日を讃えてコサックダンスを踊る。膝に激痛が走る。膝を痛めた。寝起きのコサックダンスはやめといた方がいい。
水道水をコップに注ぐ。今日の喉の渇き具合からするとこれくらいかと微調整。コップに七分ほど入れた水を飲む。多かったので少し流す。流した水を弔うための盆踊りを踊る。日々はこういった弔いの繰り返しだ。人生は遺品整理だ。私はもう充分生きた。
食欲が無いので朝食は食べない。昼には腹が減るように般若心経を聴きながら太極拳とベリーダンスとパラパラを組み合わせたような踊りを踊る。腰をくねらせると腸が少し活発になる感じがする。大きな屁をこく。
大きな屁をこいた事を忘れて締め切った室内でタバコに火をつける。屁の成分メタンと水素に引火し爆発。私は宇宙まで飛んでいく。宇宙でタコ踊りをしていたら宇宙船に乗った異星人に連行される。
近未来的な宇宙船内は、締め切った新車の軽自動車の中で力士4人がドリアンを食べているような臭いが立ち込めている。
吐気を催した私はそこにいた異星人にトイレは何処かと尋ねる。異星人は私にメロンパンを差し出す。
もう一度私は異星人にトイレは何処かと尋ねる。異星人は私にクロワッサンを差し出す。
駄目だ、言葉が通じない。学生時代にもっと勉強しておけばよかった。