今回のテーマはシンガポールです。この地を訪れた目的は現地で運行している三菱重工業の新交通システムの視察で、記事にもなりましたのでご興味がある方はご覧ください。ここでは記事でも触れた、シンガポール独自の大胆な交通政策について紹介していきます。

東洋経済オンラインの記事=http://toyokeizai.net/articles/-/169570
シンガポールで自動車を買う際には、まずCOEと呼ばれる新車購入権を公開入札で取得する必要があります。さらに乗用車はすべて輸入ということもあり100%の税金がかかります。COEは専門業者に依頼する形となるので手数料も発生します。その結果、日本では約150万円で買えるトヨタ・カローラは1000万円、250万円のプリウスはおよそ1500万円にもなります。
シンガポールでは環境対策や渋滞防止などの観点から、国を挙げて自動車の台数を制限しているのです。その結果、国民ひとりあたりの自動車保有率は15%ほどに抑えられています。日本の都道府県でもっとも自動車保有率の低い東京都(33%)の半分以下です。COEの入札費用は状況に合わせてひんぱんに変更されており、環境負荷が小さい2輪車は小型乗用車の約1/8に抑えられています。

その代わりシンガポールでは公共交通の整備を積極的に進めています。MRT(マス・ラピッド・トランジット)と呼ばれる鉄道の総延長距離は約170km。シンガポールの面積は東京23区と同等でありながら、東京メトロの195kmに近い長さを持っており、今も3本の新路線建設や既存路線の延伸工事が続いています。一方新交通システムのLRT(ライト・ラピッド・トランジットの略で通常のLRTとは位置付けが異なります)は、沿線のニュータウンとセットで建設されました。運賃も東京の鉄道より安価です。

この政策のおかげで、シンガポールは世界第2位の人口過密国家でありながら、渋滞はほとんどありません。また公共交通を運行する側にとってみれば、安定した運賃収入を確保することが可能になります。
シンガポールは貧富の差が大きいことも有名ですが、私の目から見る限り、格差が原因の問題はあまり表面化していませんでした。英語・中国語・マレー語・タミール語の4つを公用語とするなど多民族国家としての姿勢を明確にしていることもありますが、万人に等しく移動の機能を与えていることも効果を上げているのではないでしょうか。

自動車産業が社会に及ぼす影響が大きい日本やドイツなどでは、シンガポールの手法は受け入れられないでしょう。しかしこういう国もあることは記憶に留めておいて損はないと思います。