フランス大統領選挙 きょう決選投票

フランス大統領選挙 きょう決選投票
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フランス大統領選挙は7日、決選投票が行われ、EU=ヨーロッパ連合との関係強化を訴える無所属のマクロン候補と、EUに反対する極右政党のルペン候補の2人によって争われます。アメリカのトランプ政権の誕生やイギリスのEU離脱など各国で内向きな傾向が強まる中、フランスで有権者がどのような判断を示すのかに世界の視線が集まっています。
フランス大統領選挙は、先月の1回目の投票を受けて7日、中道で無所属のマクロン候補と、極右政党の国民戦線のルペン候補の上位2人による決選投票が行われます。フランスでは投票日に向けて警備を強化していて、首都パリの観光名所ルーブル美術館の前でも6日、観光客に混じって銃を手にした兵士たちが警戒を続けていました。

選挙戦では、自国の利益最優先の原則を掲げるルペン氏が、EUとの関係を見直し、離脱の是非を問う国民投票を実施すると主張したのに対して、マクロン氏は、EUとの関係を強化し、ドイツとともにヨーロッパの連帯を主導するなどと主張し、立場の違いを鮮明にしました。

最新の世論調査の支持率では、投票に行くと答えた人のうちマクロン氏が63%、ルペン氏が37%とマクロン氏が優勢を保っています。一方で今回はどちらにも投票したくないと答える人も多く、投票率が下がれば、より固い支持基盤を持つルペン氏に有利になり、接戦になる可能性も指摘されています。

選挙の結果は、今後のEUの行方に加え、アメリカのトランプ政権の誕生やイギリスのEU離脱などによって内向きな傾向が強まっている国際情勢にも影響を及ぼしかねないだけに、有権者の判断が注目されます。投票は日本時間の7日午後3時に始まり、即日開票されて、8日未明には大勢が判明する見通しです。

主要政党不在の異例の決選投票

今回のフランス大統領選挙は、これまでにない異例づくしの展開となっています。現職のオランド大統領は支持率が10%台と、過去最低の水準で低迷し2期目を目指す立候補を断念したほか、与党の社会党や最大野党の共和党の統一候補を決める予備選挙で、最有力の候補が相次いで敗れる波乱が起きました。

この予備選挙で決まった社会党と共和党のそれぞれの統一候補も1回目の投票で得票を伸ばせず敗れ去り、長い間、政権を交代で担ってきた左派と右派の伝統的な2大政党が、いずれも決選投票にすら進めないという事態となりました。

二大政党の候補者がいずれも決選投票に進めなかったのは、現在の制度での大統領選挙が始まった1965年以来初めてです。既存の政党に対する根強い不満が表面化した形で、決選投票では「右でも左でもない」と訴える中道で無所属のマクロン候補と「右も左も結集しよう」として急進左派の支持者にまで支持を呼びかける極右政党・国民戦線のルペン候補の2人が大統領の座を争いました。

マクロン氏が当選すれば、戦後最も若い大統領になります。一方、ルペン氏が当選すれば、史上初めての女性大統領ということに加えて、初めて極右政党の大統領がフランスに誕生することになります。

無所属マクロン候補とは

中道の無所属、エマニュエル・マクロン氏はフランス北部の町、アミアン出身の39歳。多くの大統領を輩出し政治家や官僚などの養成のための高等教育機関であるフランス国立行政学院を卒業したあと、政府機関の職員をへて投資銀行に転身し、経済界でも幅広い人脈があるとされています。

前回2012年の大統領選挙で、オランド大統領の陣営に加わり、オランド政権では大統領府の幹部として働いたあと2014年に経済相に就任しました。経済相として景気の低迷が長引くフランス経済の活性化のため、「マクロン法」とも呼ばれる大規模な構造改革を進める法律を可決させ、商業施設の日曜や夜間営業の拡大や長距離バス路線の自由化などを実現しました。

しかし、政権の支持率が低迷するなか、去年4月、左派でも右派でもない政治を目指すとして、「前進」という名前の独自の政治運動を立ち上げたあと8月に経済相を辞任し、大統領選挙への立候補を表明しました。

選挙戦では、これまで政権を担ってきた社会党や共和党の候補者が失速する中、先月行われた1回目の投票では24%余りの票を獲得して1位となり、決選投票への進出を決めました。ただ、その夜に陣営の関係者とパリ市内の有名レストランで晩さん会を開いたことについて、ルペン氏側だけでなく支持者からも「早くも祝勝会を開いた」などと批判を受けました。その後、マクロン氏は「選挙に勝ったと考えたことはない。私の戦いはルペン氏を倒すことだ」と発言するなど火消しに追われ、若さや政治経験の浅さを露呈したと指摘されています。

一方で第2次世界大戦中、ナチスドイツによる住民の大量虐殺が行われた中部の村を訪問したほか、モロッコ系の移民の男性が国民戦線の支持者によって突き落とされ死亡したパリのセーヌ川なども訪れて犠牲者を追悼し、排外主義的な政策を掲げるルペン氏を暗に批判する動きと受け止められています。

また、みずからの地元である北部の町では、来年、工場が閉鎖され、EUの別の国に拠点を移す予定の家電メーカーを訪問し、ストライキを続ける労働者に支援策を説明しました。こうした動きは地域の雇用を守る姿勢を強調することで、幅広い支持を取りつけようとしたものと受け止められています。

一方、私生活では、みずからの高校の教師で所属していた演劇部の顧問でもあった25歳年上のブリジットさんと10年前に結婚。若さと甘いマスクに加え、その華麗な経歴から、史上最年少のフランス大統領となるのか、注目されています。

<公約>
マクロン氏は、大統領選挙に向けた公約で、「閉塞感をなくし弱者を守る社会を目指す」としています。そして、国や地方の公務員を最大で12万人、議員定数を最大で3分の1それぞれ削減して歳出を抑える一方で、経済成長を促すための企業への優遇策として法人税を減税したり、年金などの社会保障費の企業負担を減額したりすることなどを訴えています。

一方で、社会格差の是正のために、失業手当の給付基準を緩和し、自営業者が職を失った場合や自己都合で退職した場合などにも支払われるようにすることを訴えています。さらに、失業率や犯罪率が高い大都市の郊外などを対象に、小学校の少人数学級を実現し、教師の数を増やすことや、この地域出身の若者を雇用した企業に、3年間で170万円余りの補助金を支払うなどとしています。

また、マクロン氏は「ヨーロッパが私の公約の中心だ」と述べ、EU=ヨーロッパ連合の枠組みを堅持することを前面に打ち出しています。具体的には、単一通貨のユーロを維持し、ドイツと連携してEUのけん引役を果たすとともに、新たにエネルギーやデジタル分野での単一市場の創設を目指すなど、EUのさらなる統合を進めることも目指すとしています。

また、焦点となっている中東やアフリカなどからの難民の受け入れについてはEUの方針に従って受け入れるとする一方で、合法的な手続きをへた移民についても受け入れを進めるとしています。

また、EUなどの各国間を国境審査なしで移動できる「シェンゲン協定」は守りながら、域外との境界の警備は強化し、不法な移民は取り締まるとしています。

国民戦線ルペン候補とは

国民戦線のマリーヌ・ルペン候補はパリ近郊の町ヌイイシュルセーヌ出身の48歳。先月23日に行われた1回目の投票での得票率は21、3%、およそ770万票を獲得し、国民戦線の候補としてはこれまでで最も多くの支持を得て決選投票に進出しました。

党の創設者でおよそ40年にわたって党首を務めた父親のジャンマリー・ルペン氏から6年前の2011年に、党首を引き継いだルペン氏。先月24日、一時的に党首の座を離れることを表明しました。「党利を越えて国益に尽くす決意を示すため」と説明していますが、「極右色」を薄めてより幅広い支持を集める狙いがあると見られています。

ルペン氏はまた、1回目の投票で4.7%を得票した右派政党の候補の支持を取り付け、国民戦線との連携がタブーとされてきたフランス政界で、異例の動きとして注目されました。決選投票に向けルペン氏は「フランス優先の選択」をスローガンに掲げ、「マクロン氏が経済のグローバル化やEU統合を進める候補であるのに対し、自分こそが国内の産業を保護し移民の受け入れを制限する国益を守る候補者だ」と訴えてきました。

私生活においては3人の子どもの母親で、現在のパートナーは党の副党首のルイ・アリオ氏。趣味は乗馬やセーリングだということです。

<公約>
ルペン氏はフランスの「自由」「安全」「繁栄」などをテーマに据えた公約を掲げ、憲法に自国民の利益を優先すると明記する憲法改正も行うと主張しています。

「フランスの自由」のためとして真っ先に掲げているのが、EU=ヨーロッパ連合との関係の見直しです。通貨・立法・国境管理・経済の4つの分野について、「国の主権」を取り戻すようEU側と交渉を行った上で、EUにとどまるかどうかを問う国民投票を行うとしています。

テロが相次ぐ中、「フランスの安全」のためとして打ち出しているのが、警察官を1万5000人、兵士を5万人、それぞれ大幅に増員し、刑務所の収容能力も4万人分増やして、治安当局の監視対象となった外国籍の人間は国外に追放する措置です。

また、EUの中で廃止された自国の国境管理を復活させ、移民や難民の受け入れを制限するとともに、国内の移民についても不法入国者は理由を問わず、国外に退去させると主張。さらに、両親の国籍を問わず国内で生まれた子どもに自動的に国籍を与えてきた従来の制度を廃止し、これまでより厳しい条件を満たさなければ国籍を取得できないようにするとしています。

そして、「フランスの繁栄」のために前面に打ち出しているのが保護主義的な政策です。フランスの企業や労働者を守るため、国内の規格を満たさない外国製品は、輸入や販売を禁止。公共事業を受注できるのは原則としてフランス企業に限り、企業が外国人を雇用した場合は税金を課すとしています。さらに外国からの輸入品に3%の関税を課し、それを財源に低所得者や年金生活者の購買力を引き上げるための手当てを導入するとしています。

最近のフランス大統領選挙の結果

フランスの大統領選挙は2000年以降、合わせて3回行われています。

〈2002年〉
2002年の大統領選挙では、1回目の投票で、再選を目指す右派のシラク氏に続いて極右政党・国民戦線のジャンマリー・ルペン氏が事前の世論調査を覆して2位につけ、衝撃を与えました。本命の1人と言われていた、当時の首相の社会党のジョスパン氏は、EU=ヨーロッパ連合の統合推進を訴えるなど右派のシラク陣営と政策面で違いを打ち出せず、左派の支持をまとめられなかったとされています。

この際ルペン氏は「フランス第一主義」を唱え、EUからの離脱などを訴えて支持を伸ばしましたが、極端な移民排斥や人種差別的な発言に警戒感が広がり、決選投票では右派と左派がともにシラク大統領を支持し、ルペン氏の勝利を阻みました。ただ、フランスで戦後初めて極右政党の候補者が決選投票まで勝ち進んだ衝撃は大きく、その後も「ルペンショック」として人々の記憶にとどまっています。

〈2007年〉
2007年に行われた大統領選挙では、2期12年にわたって国を率いたシラク大統領に代わる新人候補どうしの争いとなりました。

1回目の投票の結果、右派の与党から立候補したサルコジ氏とフランス初の女性大統領を目指す左派の野党、社会党のロワイヤル氏による決選投票となり、前回の選挙で躍進した国民戦線のジャンマリー・ルペン党首は4位にとどまりました。サルコジ氏は内相時代に犯罪を減らした実績を強調し、当時、国民の間で懸念が広がっていた移民の受け入れについても規制の強化を打ち出すなど、強い指導者像を印象づけました。

一方でロワイヤル氏は分裂した左派を統合し、初の女性大統領の誕生の期待を集めましたが、経験や指導力の不足が露呈し、サルコジ氏との差を縮められないまま、決選投票で敗退しました。

〈2012年〉
前回2012年は、ヨーロッパの信用不安の影響で、イタリアやスペインなど各国の政権が退陣に追い込まれる中での選挙戦となりました。

1回目の投票の結果、野党、社会党のオランド氏が1位となり、再選を目指すサルコジ氏が2位につけ、父親から国民線線の党首を引き継いだマリーヌ・ルペン氏が3位となりました。

サルコジ氏は強烈な個性と指導力で存在感を示したものの、経済を活性化することができず社会の格差が広がったことや、派手な私生活も伝えられ、支持が落ち込みました。対するオランド氏は、社会的な公正や経済成長を重視する姿勢が有権者の支持を集めサルコジ氏をやぶって、17年ぶりに左派の大統領が誕生します。

〈2017年〉
しかし、その後の5年間でも景気は回復せず、また、大規模なテロ事件も相次ぎ、国民の間で経済や治安対策への不満が高まります。

オランド大統領は、支持率が10%台とかつてない低い水準にとどまる中、去年12月には今回の大統領選挙には立候補せず2期目は目指さない考えを早々と表明していました。