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野球 ライフ 週刊現代
「補強」なしでも強い!強い!広島カープに学ぶ「貧乏は大切なこと」
金満の巨人・ソフトバンクでは起きない現象

家貧しくして孝子顕る――カネに頼って選手を集めていては、生え抜きの成長が止まってしまう。黒田が抜けても、FA市場には見向きもしない。このチームには、孝行息子がたくさんいるからだ。

黒田が抜けても困らない

「チームの精神的支柱としても、単純に先発の頭数としても、黒田が引退した影響がどう出るのかと心配していましたが、杞憂でしたね」

こう言って笑うのは、'14年まで広島で投手コーチを務めていた山内泰幸氏だ。

いま、広島カープの勢いが止まらない。

黒田博樹の引退に加え、昨年15勝を挙げ勝ち頭だったジョンソンも開幕早々に体調不良で離脱。普通であれば、チームの状態が崩れてもおかしくなかった。

それが、フタを開けてみれば、開幕3戦目の先発に抜擢された4年目の九里亜蓮が6回1失点8奪三振の好投。さらに、3年目の薮田和樹、2年目の岡田明丈、そしてヤクルト相手に9回1死までノーヒットノーランのピッチングを見せ一躍話題になった大卒ルーキーの加藤拓也と、若手選手たちがローテの穴を埋め、好投の連続。

打っては、エルドレッドを筆頭に、丸佳浩、鈴木誠也、菊池涼介、新井貴浩ら、3割バッターがずらりと並ぶ強力打線がしぶとく得点を重ねる。

投打ががっちり噛み合った圧倒的な強さを見せつけた広島は開幕2戦目から引き分けを挟んで10連勝。気づけばセ・リーグの首位をがっちりとキープ(4月20日時点)。まさに手がつけられないほど、強い。

 

「大車輪の活躍の若手投手陣のなかでも、とりわけ九里は精神的にもタフで、黒田さながらにインサイドを攻めて内野ゴロに打ち取れる技術を身につけている。想像以上の仕上がりです。

投手全体を見ても、僕が教えていたとき以上に、内角を攻める強気の投球ができている。キャッチャーの石原慶幸や會澤翼も黒田の投球からリードを学び、しぶとさが出てきた。

黒田の『遺産』が若い選手たちに引き継がれたうえ、若手がそれを実践する機会も巡ってくる。非常に良いブルペンだと思います」(前出・山内氏)

黒田という大看板がチームを去った昨年のオフ、資金力の豊富なチームであれば、FA選手の獲得や新外国人の獲得で即座に穴埋めをはかってもおかしくなかった。

「首位奪還の大号令」がかかった2位巨人は、山口(元DeNA)、森福(元ソフトバンク)、陽岱鋼(元日ハム)というFA市場の目玉を合計7億3000万円で総取り。さらに、デトロイト・タイガースからFAになっていた元楽天のマギーを1億9000万円で獲得するなど、カネに飽かせた得意の「乱獲」ぶりを見せつけた。

だが、そんな巨人を横目に、広島は「抜けた穴は生え抜きで埋める」という従来の姿勢を崩さなかった。

スカウトの「目利き力」

FA市場で広島が話題になるのは、いつも出ていくときの話ばかり。江藤、金本、新井、大竹、そしてメジャーに去った際の黒田、前田健太……。

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長い時間をかけて生え抜きの選手を育て、ようやく主軸を担わせるときになると、他所のチームに去っていく。マネーゲームになれば引き留める資金がない広島にとって、去っていく者は指を咥えて見送るしかない。

貧乏な球団が他球団と戦って行く唯一の方法は、生え抜きの新たな戦力をまた育てること――。

そうした「伝統」のなかで磨かれていったのが、広島のスカウトたちの「目利き力」だった。

「広島のスカウトは『年齢別選手表』という他球団にはない独自の表を常に持ち歩いています。投手の利き腕や野手の守備位置を年齢別に一覧にしたもの。これをみれば、どの年代にどんな選手が必要なのかがはっきり分かるようになっている。

広島は戦力に穴が出来た時にFAやトレードですぐに選手を補強することはできない。『それなら、5年後、10年後を視野に入れた育成をしよう』という苦肉の策から生まれたものです」(スポーツ紙広島担当記者)

そうして、未来を見据えた計画的な選手獲得と育成が、一気に花開いた結果が、いまの一分の隙もない広島打線というわけだ。