こんにちは、DACです。
今日は、朝日新聞の見出しから見えてくる報道姿勢を書きます。
愛媛市高齢母子殺傷事件報道での参考人について
GWに入るあたりから緊迫する北朝鮮状況の報道に匹敵する尺を取ってきたのが、愛媛市高齢母子殺傷事件報道だ。
しかし、先日、参考人として任意事情聴取されていた女性が自殺してからというもの一気にその報道規模は縮小した。それまでは5/3-4にかけて自転車で逃走した目撃情報と併せて任意事情聴取開始までは暗にその女性が犯人とほのめかす報道が立ち並んでいたが、犯人としての足がかりとなる存在がいなければニュースバリューが無くなったということだろう。そればかりか、行きがけの駄賃として警察取り調べに不備があっただろうという観点でターゲットを変えている。
確かに個々の問題において追及すべきを追及するという姿勢は、マスコミに求められるところだろう。とはいえ、どの面下げてこんな一貫しない態度を取れるのかとも思う。
朝日新聞の報道履歴
- 高齢親子刺され、92歳母死亡 近隣で類似事件も 愛媛(2017/5/4 00:00)
- 近所の女を任意聴取、自宅を捜索 愛媛の親子死傷事件(2017/5/4 21:14)
- 愛媛の親子死傷事件、任意聴取した女性が自殺(2017/5/5 13:02)
- 自殺の女性は30代、遺書見つかる 愛媛の親子死傷事件(2017/5/5 20:27)
- 遺書の内容、明かさず 自殺防止「家族に説明」 愛媛県警(2017/5/6 05:00)
見出しを見ても分かると思うが自殺が判明するまでは、表現は「女」であり、自殺が判明した途端に「女性」に変わっている。
つまり、その時点までは正義の味方を自認する朝日新聞は、この女性を追い詰める気満々だったのだけど、自殺した途端に女性を警察の取り調べの被害者に仕立て上げた。この変節ぶりは流石世論を忖度する朝日新聞らしいと感服する。
こっそり上書き改訂する都合の悪い記述
実を言えば、朝日新聞には更に残念な話がある。3番目と4番目の報道の当初のWebでの見出しはこうではなかった。そのうち消されると思うが、Google検索ではこうキャッシュされている。
- 愛媛の親子死傷事件、任意聴取した女が自殺:朝日新聞デジタル
- 自殺した女は30代、遺書みつかる 愛媛の親子死傷事件:朝日新聞デジタル
要は遺書が見つかった当初までは朝日新聞は、参考人を犯人と目して「女」と表現し続けていたのだ。しかし、それではまずいということで後からこっそり「女性」に書き換えている。リンク先は「女性」に全て切り替わっている。都合の悪い記述は上書き改訂する。それを当たり前にやってしまう。後述するが、他社はそんな姑息なことはしていない。
自社の表現のいい加減さを棚に置いている
遺書の内容、明かさず 自殺防止「家族に説明」 愛媛県警について、朝日新聞の紙面版にてご丁寧にも以下の表「容疑者や参考人が自殺した主な事件」が付随している。
つまり、警察は過去にこれだけ失敗してきたことを知らしめたい訳だ。
素晴らしい!確かにその問題はその問題として追及すべきだ。
よく見て欲しい。小生が蛍光色でハッチングしたのには意図がある。赤は被疑者となっている場合、緑は今回と同じく参考人の場合である。いずれも「男」である(「少年」は例外)。百歩譲って被疑者は「男」と表現して良いのだとしても、今回の参考人の例に合わせるならば、緑の部分は「男性」だなければならない。
しかし、全て「男」で通している。この理屈で通すのであれば今回も「女」と表記すべきであろう。
朝日新聞は男女差別をしたいのだろうか?それとも亡くなれば等しく「男性」「女性」に変えるのだろうか?この自分たちの表現に対する姿勢のいい加減さを棚に置いて、どの口でこのようなことを書くことが出来るのか神経を疑う。
他新聞社を比較してみる
以下に他新聞社の報道履歴を纏めた。
見て分かるように他社においても自殺前後で「女」から「女性」に変化していることは共通している。しかし、毎日新聞や日経新聞は改訂前と改訂後を残しているが、朝日新聞はそんな表現が無かったように上書きしている。また、自殺後の報道も捜査の適切性を問うにしても毎日新聞は事件自体を収束させず追いかけているのに対し、朝日新聞は警察の姿勢の追及のみに絞った報道を一面と社会面で大きく扱っている。
この差は微かな差ではない。
毎日新聞
女から女性に変わっているが上書き修正の履歴無し。聴取の問題だけではなく、継続捜査についても取材していてバランスが非常に良い。
- 近所の女聴取 自宅捜索、自転車を押収(2017/5/5 1:14)
- 参考人の女自殺 愛媛県警が明らかに(2017/5/5 13:33)
- 任意聴取の女性自殺 実家で発見(2017/5/5 20:20)
- 県警、遺書の内容明かさず 聴取の女性自殺(2017/5/5 22:14但し2017/5/6 01:02更新)
- 聴取の女性自殺 県警「捜査は適正」 識者の話(2017/5/6 朝刊)
- 指紋・足跡検出されぬ2事件 入念な計画か(2017/5/6 11:13但し2017/5/6 13:07更新)
日本経済新聞
見出し上は通して女であるが本文は女性になっている場合もある。しかし、上書き修正の履歴無し。報道本数は毎日と並び、正確な報道をしようとしている。
- 高齢親子襲われ母死亡 愛媛・今治、息子も重傷 :日本経済新聞(2017/5/3 23:34)
- 高齢親子襲われ母死亡 愛媛・今治 先月も殺人、同一犯か :日本経済新聞(2017/5/4 朝刊)
- 近所に住む女聴取 愛媛親子殺傷、関係先を家宅捜索 :日本経済新聞(2017/5/4 23:49但し2017/5/5 0:40更新)
- 愛媛の親子殺傷、参考人の女自殺 :日本経済新聞(2017/5/5 15:03)
- 愛媛の親子殺傷、任意聴取の女自殺 警察から帰した後 :日本経済新聞(2017/5/5 21:07)
- 任意聴取5時間、休憩計20分 今治殺傷の参考人自殺 :日本経済新聞(2017/5/6 11:58但し2017/5/6 13:00更新)
- 別事件の女性、背中にも傷 今治高齢親子殺傷 :日本経済新聞(2017/5/6 22:46)
産経新聞
警察の捜査に関する疑念の段階で女から女性になっている。ただ、サンスポなど下位の報道導線では表現の揺れが大きい。
- 【今治連続殺人】仲の良い高齢母子 「気さくな人がなぜ…」住民ら動揺隠せず(1/2ページ) - 産経WEST(2017/5/4 19:03)
- 【今治連続殺人】参考人の30代女が自殺、遺書見つかる…聴取や遺書の内容明らかにせず県警捜査の検証問われる - 産経WEST(2017/5/5 13:12)
- 【今治連続殺人】「プライベートな空間に介在するのは難しい」参考人自殺で愛媛県警幹部一問一答 - 産経WEST(2017/5/5 20:53)
- 愛媛・今治親子殺傷、聴取の女性自殺 「安易に帰した」捜査批判 (産経新聞) - Yahoo!ニュース(2017/5/6 7:55)
読売新聞
あまりこの件の報道が多くない。
- 女に切りつけられ、高齢の親子死傷…今治の団地 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)(2017/5/3 23:11)
- 今治の親子死傷、近所の40歳前後の女を聴取 : 社会 : 読売新聞(YOMIURI ONLINE)(2017/5/4 20:53)
- 親子死傷、聴取後に女性自殺…「捜査は適正」(2017/5/6 07:36)
朝日新聞の角度のつけ方は異常だ
他社の報道も確かに警察の問題は指摘しているが、朝日新聞程前のめりではない。
日経新聞が取り調べ時間を問題にしているのは事実を伝えているという意味で有用なニュースバリューを持つが、朝日新聞の取り組み方は異常だと言える。即ち、その時点で記者なり社が悪であると認めたものであれば、徹底的に糾弾する。それが官憲や政府であれば尚更苛烈になる。
その観点自体は別に構わないが、手法や程度が問題なのだ。まだ容疑者でしかない段階で容疑者の私的情報を根掘り葉掘り調べて印象付けるべく広く伝える。松戸幼児誘拐殺傷事件の報道などまさにそれだ。確かにあの被疑者は疑われる要件を多々揃えており、言い逃れが出来るような状況ではない。しかし、日本の法律上被疑者である間は、犯人ではない。犯人ではない状況の人間の本名を報道し、過去の言動を洗い出しいかに異常な人格を持っているかを印象付けることに腐心している。
これが自殺するなり冤罪と分れば手のひらを返したように、いかに官憲に酷い目にあったかを報道する素材として使ったり、死して尚死体蹴りをして被害者家族の慰みとするかのいずれかを行うだろう。決して、自社が報道対象に行った酷いふるまいや報道被害についてはおくびにも出さず、正義の味方としてふるまうのだろう。
これが週刊誌などスクープ雑誌であるなら、さもありなんと思うところだが、未だ650万部を売る大新聞の一つなのだから許容できる範疇ではない。報道して良い範囲、表現して良い範囲という物が明確に事前に既定してあり、フェアに報道しているならこんなことは書かない。
朝日新聞はその基本を逸脱し角度をつけることを相変わらず社是としているのではないか?
そんなものはジャーナリズムでも何でもない。単なる害悪だ。
自分は朝日新聞が好きだった
自分は朝日新聞が好きだったことがある。そう古いことではない。
朝日新聞の政治報道に関して安倍一強の状況で内閣が次々に民主主義から逸脱した乱心ぶりを逐一報道しているところ、関連情報の解説記事、過去の活動履歴に遡っての分析などは非常に勉強になる。
隔週紙面のGLOBEは他の国内新聞が扱わない各国の文化や近況、歴史をテーマを切って教えてくれる。国際面も欧米だけではなく、アジア、中東、必要に応じてロシアなどの時事が詳細に報道される。
ジェンダー問題、シングルマザーの課題、その他もろもろの社会問題に対しての特集も、一過性ではなくプロジェクトを組み継続的に報道する。
そういった面では流石と思うところは今でもある。決して悪いところばかりではない。記者一人一人が優秀なのも問題意識を持っていることもよく分かる。
しかし、角度を最優先する報道は全く信用できない
はっきり言って、朝日新聞の報道は全く信用できない。どんなに良いことが書いてあってもだ。
何より大事とするものが角度であって、その時点で報道可能な事実ではないからだ。自分たちが報道したいがために、報道として超えてはいけない部分を逸脱しても、それを報道の本懐だと信じ込んでいるからだ。
毒饅頭が入っているなら、その饅頭がいくら美味しくても丹精こめて作られていても、それを判別して食べるなど出来ない。
使命感は立派だ。しかし、読者が知りたいのは記者の使命感や記者が見せたい妄想ではない。まして、状況に応じて都合が悪いものを隠す卑劣さではない。
個人的には産経新聞や読売新聞のように半ば政府広報誌のようになっている新聞社は好きではない。しかし、こと角度のつけ方に関して言えば、それらの方が信用に足りる。
何度でも書くが、社長が辞任せざるを得なくなったあの時に朝日新聞は生まれ変わると誓ったのでは無かったのか?これ以上失望させないで欲しい。そのままやりたいのなら、今すぐ新聞社をやめて日刊雑誌として発刊すれば良いだろう。それなら面白情報として文春と同じ位置づけで日刊朝日という雑誌を定期購読することを硬く約束する。
追記
朝日新聞の今後の本件に関する報道姿勢を予測しよう。
- 遺書に基づき女性を推定無罪を無視して追い詰めたとして警察を糾弾する
- 本筋の親子死傷事件の継続報道を行う
- DNA検査の一致を見て本件への興味が失せて報道を休止し、おざなりに他報道の後追い概略のみ伝える
個人的には報道機関であるなら1と2を行い重きを2に置くべきと考えるが、朝日新聞のこれまでの傾向からすると3である。或いはDNA検査にはいまだ誤謬がありうるとし1を大々的にやるだろう。それが朝日新聞の正義という奴だからだ。予想を裏切ってくれることを期待するが、まあこれまで期待を裏切り続けて幾数年だ。体質が昨日今日で変わるなどありえないだろう。