新幹線に乗るとき、ワタクシはいつもカツサンドだ。
新大阪駅の26番ホーム。時刻はアンニョイな午後。ホームの中ほどにある弁当屋には必ずカツサンドが置いてある。発車間際の時間がない時でもワタクシは決まってカツサンドを買う。ほどなくしてホームにのぞみ18号が滑り込んで来る。
東京駅に着くまでの2時間半、昼ご飯でもなく晩ご飯でもないが、小腹を確実に満たしてくれるカツサンドはワタクシの旅の友だ。
列車は定刻通り動き出す。流れゆく車窓。京都に着くまでのわずか30分の間に分厚い3切れのカツサンドはワタクシの胃の中に吸い込まれていった。
「君のその白く透き通るような肌でボクを包み込んでほしい」
カツ男は言った。
「でも、ワタシはもう汚れてしまったの。」
パン子は俯きながら答えた。
「ボクの体からも甘くて酸味のある濃厚なソースのような汗が出る。そんなの気にしないで。」
「あなたワキガなの?」
「ちがう!誤解だ!」
パン子は後ろを向いて、小さな声でボソりと言った。
「ワタシ、見たの。あなたがタマ子さんに言ってたところ。」
カツ男は狼狽えた。
「君のプルプルの肌でボクを包み込んでほしい…そう、タマ子さんに言ってたよね?」
「何を言ってるんだパン子さん、ボクは君しか見ていない。」
「ハム子さんには、粒マスタードをプレゼントしてたよね?」
「なぜそれを!?」
「あなたは自分が見えていないのよ。あなたの薄っぺらい体をよく見て!」
「えっ!?」
「あなたはパンよ!手を汚さないためだけに生まれてきた味も素っ気もない、ただのパンなのよ!」
「まさか、違う、ボクはカツだ!太くて男らしいカツのハズだ!」
「ホントにスカスカな男!サイテー!一生キュウリでも挟んどけばいいのよ!サヨナラ。」
~間もなく、終点東京に到着いたします。本日のご乗車誠にありがとうございました~
ワタクシはハッと目を覚ます。あっという間の出来事だった。
ワタクシは口元にカツサンドのほんのり甘いソースを付けながら、新幹線の席を立つ。ワキガの香りと甘酸っぱい思い出だけを残して。
語り:桂 三度
さいごに
最近読んだカツサンドのブログに触発されて、ワタクシもカツサンドの思い出を綴ってみました。よろしければ合わせてお読みください。※画像も無断でお借りしました。