世界を変える「天才」たち 並外れた頭脳の秘密に迫る
日経ナショナル ジオグラフィック社
米国フィラデルフィアにあるムター博物館には、奇妙な医学標本が数多く展示されている。しかし、訪れた人々に圧倒的な畏敬の念を抱かせるのは、物理学者アルベルト・アインシュタインの脳の切片である。残された脳組織を見ても、驚異的な頭脳の謎を解き明かせるわけではない。それでも、いや、だからこそなおさら、人々はこの標本に魅せられるのだろう。
アインシュタインは思考力だけを頼りに、一般相対性理論に基づいて、加速する巨大な物体が時空にさざ波を起こすことを予測した。これを実証するには、100年もの歳月と膨大な演算能力、大規模かつ高度な技術が必要だった。そうした重力波が実際に検出されたのは、2015年のことだ。
アインシュタインのおかげで宇宙の謎を探る研究は大きく進展したが、彼のような並外れた頭脳の秘密は一向に解き明かされない。いったい何が、天才を生むのだろうか。
■知能指数が高ければ天才か
知能はしばしば、天才を判定する標準的な指標と見なされてきた。知能検査の開発に関わった米スタンフォード大学の心理学者ルイス・ターマンは、IQ(知能指数)が140以上であれば「天才か、それに近い」と仮定し、1920年代に米国カリフォルニア州の児童1500人余り(おおむねIQが140以上)を対象に追跡調査を開始。彼らがその後の人生でどの程度成功したかを調べた。
調査対象者のなかには一流の科学者や政治家、医師、大学教授、音楽家になった人もいる。調査開始から40年後、彼らが発表した論文と著作は合計で何千点にもなり、取得した特許は350件、執筆した短編小説は約400編にのぼった。
一方で、並外れた知能が必ずしも傑出した業績につながらないことも判明した。IQが非常に高いにもかかわらず、成功できなかった人も多い。逆にIQが140未満でも、長じて名をはせた人たちもいた。ノーベル物理学賞を受賞したルイス・アルバレズとウィリアム・ショックレーがその例だ。
創造性も、知能検査では判定できないものだ。創造のプロセスは、脳の右半球と左半球、特に前頭前野のさまざまな部位から延びる神経回路網が同時に協調して働く活発な相互作用から生まれると、米ニューメキシコ大学の神経科学者レックス・ヤングは言う。
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