求人は空きが出たときのみ!【体験談】劇団四季音楽部ピアノ弾きの日常

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あなたは劇団四季の舞台を見に行ったことがありますか?ライオンキングなどのミュージカルや、ストレートプレイも有名ですよね。

私はこの劇団四季の裏方である、演出部の傘下にある音楽部でピアノを弾いたりその他雑用などで働いていました。この記事では、劇団四季の音楽スタッフとはどんな仕事内容なのか?社会保険などの待遇はどうなのか?などの体験者しかわからない実態や裏話を書いていこうと思います。

劇団四季の音楽部って何?正社員採用なの?

まずは劇団四季の構成を書いてみようと思います。

まず、役者さんたちがいます。役者さんたちの中にも、研修生、準劇団員、劇団員などのランクがあるのですが役者さんたちはひとまず置いておきますね。ちなみに、役者さんたちと四季株式会社との関係は、社員や契約社員ではなく、それぞれが独立して契約しています。

私が所属していたのは演出部になります。演出部スタッフは、四季株式会社の契約社員として採用されます。
私の所属していた音楽部の他、演出、音響、照明、メイク、舞台装置、大道具・小道具、衣装などたくさんの演出部スタッフがいます。

ちなみに、四季株式会社には正社員もいます。海外とのやりとりを行う部署や編集(会報誌の編集など)などのスタッフがいます。

劇団四季の音楽部の待遇・給料について


劇団四季の音楽部のスタッフは、演出部の傘下です。演出部は全員が契約社員で、国民健康保険、国民年金を自分で払わなければなりません。正社員の方は、社会保険完備です。

というわけで私も、月額15万円の給料の中から国民健康保険と国民年金を払っていました。特に私は、大学卒業後は会社員を辞めて劇団四季に入ったため、前年度の所得に基づいた国民健康保険の金額を月15万円の給料からやりくりして支払っていました(涙)。

待遇はそんな感じで、結構切り詰めてやっと生活できるかどうかのラインです。情熱がないと続けられない仕事といえると思います。お金よりも仕事内容だ!劇団四季でやっていくんだ!という心構えがないとやっていけない、というのが私の正直な感想です。

今頃ですが私の自己紹介と試験内容について

私の自己紹介・職歴・音楽歴


待遇のところで少し書きましたが、私の自己紹介を書いておこうと思います。どういう人が音楽部のスタッフになるのか、大体の目安になると思います。

5歳8カ月でピアノを習い始めました。
小学校・中学校・・地元の公立を卒業しました。
高校・・公立の音楽科ピアノ専攻を卒業しました。
大学・・東京芸術大学音楽学部楽理科を卒業しました。
大学卒業後、新聞奨学生をしながらIT系大学受験の勉強を半年ほどした後、IT企業の就職活動に切り替え、IT企業に第二新卒枠で就職しました。
その後外資系IT企業に転職しました。 エデュケーションコンサルタントとして開発(プログラミング)分野のコンサルタントとして日々充実した日々を送っていました。

と、この間に「もう一度ピアノを弾きたい」という気持ちが高じてグランドピアノとヤマハのアビテックス(簡易防音室)を貯金をはたいて購入し、毎日猛練習を開始します。高校入学の頃15、6歳の頃がピアノの技術のピークだった私には、10年ぶりにきちんと向き合った自分の指がまるで自分の指じゃないかのように感じました。全く思い通りに動いてくれないのです・・。

それでも、休日に8時間くらい冷房なしの防音室にこもって練習を続けていました。そんな中、劇団四季の役者をしていた友人から
「いま劇団四季の音楽部で求人してるで!」
と教えてもらい、「これだ!」と応募しました。

音楽部の求人は、空きが出ないと求人が出ないのでレアアイテムなのです。これを逃したら一生チャンスを逃してしまうと思いました。

ちなみに、私は大学がピアノ専攻でないことからもお察しの通り、高校はピアノ専攻でそこそこ弾けたのですが、私よりもピアノの上手な人がごまんといる状態でした。

ただ、私の強みとしては、耳コピーが得意、初見視奏(楽譜をはじめてパッと見た状態でいきなり弾くこと)が得意、移調奏や和声も得意だったことは、劇団四季の音楽部を受けるにあたり、大いにプラスに作用したと思います。

劇団四季音楽部の試験内容と面接について


話を戻すと、音楽部に求人が出たということで慌てて応募し、指定された試験日に横浜あざみ野にある劇団四季に行ってみると、いかにもピアノ専攻の学生らしき猛者がたくさんいて気圧されそうになりました。
※音楽をずっとやっていると、何となく専攻がわかるようになります。

私は仕事もあったので、順番でいきなり一番に呼ばれて試験を受けました。
まずは、自分で選んだ曲を演奏するのですが、私は自分で編曲して短くして弾きました。演奏した曲目はラヴェルのソナチネです。中学生のときにがっつり練習していた曲です。

そして次に、初見演奏や、コードを見て弾くなどの試験があり、そのまま試験官と面接をして終わりました。
面接では、志望動機や通勤にかかる時間をきかれた他、私の場合はすでに会社員として働いていたためそれを辞めてもったいなくはないのか、などを質問されました。

感触はなんともいえず、合否はまったく予想ができず自信がありませんでしたが、なんと私一人が合格で採用されました。ピアノはあまり上手ではないけれど(といっても正式に訓練しましたのである一定のレベルにはありました)、編曲して曲を短くした工夫や、初見演奏、コードを見ての演奏などが評価されたのと、当時はあざみ野に徒歩30分で行ける距離に住んでいたのでそれも評価されたのかなと思います。

劇団四季の音楽部の1日の仕事内容


劇団四季の音楽部では、ピアノを弾くのももちろん仕事内容ですが、それ以外にも雑多なことを行います。
私が在籍していた当時の1日の様子を書いてみます。

朝の始まりは9時半

朝は9時半に始まります。まず朝いちばんの仕事は、ゴミ出しです。それが終わると、午前中の役者の方達向けのバレエレッスンのピアノを担当します(担当しないときもあります)。

午前中はバレエピアノ:バレエレッスン時のピアノ担当


バレエのレッスン時のピアノを四季では「バレエピアノ」と呼んでいました。これは初体験だったので、すごく難しかったです。

バレエのレッスンの進行に合わせてバレエの先生が求める音楽をどんどん弾いていくのですが、バレエの踊りやすい音楽ということで、それぞれの踊りに合わせて特徴的なピアノの弾き方をします。

これは、バレエのレッスンに何度も見学に行って体得するしかないと言われて、3カ月間ずっとバレエのレッスンの見学に行っていました。

また、演奏する曲については既存の曲でも自分で作った曲でも良いのですが、自分で全部用意しなければなりません。見学させていただいた方の弾いている曲目とかぶらないようにする必要があるのです。

というのも、バレエピアノの先輩たちも、そうやって自分で苦労して曲を集めたり曲を作ったりしてバレエピアノを弾いているのだから、いくらその先輩のバレエピアノが素晴らしいからといって同じ曲を真似してはいけないのです。

これが難しい!んです。
空き時間や家でいろいろな楽譜を引っ張り出してはああでもない、こうでもないとやっていたのを思い出します・・。

午後は役者のミュージカルの演目の練習の伴奏および合唱指導


午後は、ミュージカルの演目それぞれにわかれて練習が始まるので、そのピアノ伴奏や合唱の指導を行います。
このピアノ伴奏が一筋縄ではいきません。

一応ピアノ用の伴奏用楽譜がある事が多いのですが、「楽譜通りに弾くだけでは不十分」なのです。本番はオーケストラの伴奏の演目が多いため、そのオーケストラの雰囲気をできる限りピアノで再現しなければなりません。

例えば、ドラムセットが活躍するところは、その雰囲気をピアノで再現します。文章で書くと迫力ないですが、本当に難しいし大変なことなんです!というわけで、劇団四季の音楽部のピアノは作曲科の方も活躍しています。

ピアノ用の伴奏楽譜がない場合もあります。それでも弾かないといけないので、CDをききなたら楽譜に自分で起こしていきます。耳コピーの能力もここでものすごく使います。

なお、一つのミュージカルの演目は通すと3時間くらいあるわけですが、いきなり「明日からジーザス・クライスト・スーパースターに入ってね」と言われることもあり(私の実体験です)、そんなときは徹夜で劇団四季の練習室にこもりCDと楽譜を照らし合わせながら準備をします。

「ゆっくりと事前にピアノを練習している暇はありません。」

声がかかったらすぐにその演目のピアノを、本番のオーケストラやバンドの雰囲気を再現しつつ演奏しなければならないので、「初見演奏能力」がすごく必要です。

その他のピアノを弾く仕事

その他、演出家である浅利慶太氏の前で役者の方がオーディションを受ける、ということもあります。その場合も音楽部のスタッフが何十人ものピアノ伴奏を行います。

また、これから四季に入りたいという人のオーディションの伴奏も音楽部のスタッフが行います。ミュージカルの演目を歌う人もいれば、クラシックのオペラを歌う人もいて、これもすぐに対応して弾ける必要があります。

そして、大事なのは、歌っている本人が実力を発揮できるように弾くことです。テンポや息継ぎなど大変気を使います。事前に本人とじっくり合わせる時間もなくぶっつけ本番で私もオーディションのピアノ伴奏をしました。

その他の仕事:ピアノを弾かない編


劇団四季の音楽部は、ピアノを弾かない仕事もたくさんあります。

ミュージカル本番のオーケストラ・バンドメンバーへの連絡および事務作業

音楽部のスタッフがピアノを弾くのはあくまでも練習の段階です。本番は、別の個人契約のミュージシャンが演奏します。
一部例外的に、人員不足のときなどで音楽部のスタッフが本番のオーケストラの中のピアノを担当したこともあります。

オーケストラ・バンドメンバーの住所録をみて、その日の本番がある人に電話をかけて「本日はよろしくお願いします」とその日その人が本番があることを伝える必要があるのです・・。
例えばライオンキングのようなオーケストラはかなりの人数がいるので、必死で電話をかけました。

また、オーケストラ・バンドメンバーの方々の演奏報酬をそれぞれ印刷して郵送する、というのも音楽部スタッフの仕事です。

また、本番の会場内のオーケストラ・バンドメンバー用のコーヒーを用意するのも音楽部の仕事です。

役者の勉強用のビデオを作成する

劇団四季ではたくさんの演目を同時に行っており、担当する役者も随時変わっていきます。
そのため、勉強のために過去の公演のビデオを見ることがあるので、そのビデオの作成(撮影・ダビング)も音楽部の仕事です。

昼公演・夜公演とあるので、決められたときに撮影に行きます。

役者の練習用のMDを作成する

私が劇団四季に在籍していた当時はMDの時代でした。MDに、カラオケバージョンとカラオケバージョンでないCDの音源をダビングして役者個人にお渡しします。
これも音楽部の仕事なので、つねにMDラジカセが稼働していました。

生オーケストラ使用の演目の場合、公演を見て音楽担当の役者や指揮者と打ち合わせをする

例えばライオンキングは生オーケストラを使っています。
役者も入れ替わっていくし、何よりも生で演奏・演技しているためいろいろなことが起こります。それについて、音楽部スタッフと音楽担当の役者・指揮者が話し合いを行います。

音楽部のトップ(上司)の所在を確認して演出家や電話の取次ぎを行う

音楽部のトップ(上司)はめちゃめちゃすごい人です。作曲家専攻の方で、ピアノもすごく上手だし、オーケストラやバンドのような雰囲気をピアノで出すことができるという超絶すごい方です。

この上司が、離席してどこかへ行っているときに演出家から声がかかったり、電話もかかってきます。そんなときは劇団四季の建物内を音楽部スタッフ(当時は4人でした)が走り回って探し出し、取り次ぐというものです。

劇団四季の音楽部の休みはどうなってるの?24時間戦えますか?


このように、朝は9時半からレッスンや練習、公演に合わせて音楽部スタッフが常に動いていることがわかると思います。夜公演は終わるのが22時とかになります。
一応、あざみ野の劇団四季は平日月曜~金曜が営業時間ですが、それ以外でも練習があることもありますし、公演はご存知の通り土日も夜も行われています。

また、急にやるように言われた演目やオーディションのピアノの練習・準備はその合間時間、つまり夜22時~朝9時半までの間に私は劇団四季の練習室で実際の公演のCDを聴きながら練習していました。

いつ休むねん?いつ寝るねん?

ってことで、24時間戦える体力を持っていることが、ピアノや初見演奏能力、リズム感などに加えて重要な要素となります。

なお、役者も同じく、夜中や明け方に練習室で練習しています。練習する時間がないからです。
私はぺーぺーの音楽部スタッフだったのですが、劇団在籍歴が浅い役者ほど、練習室を使える時間帯も夜中や明け方などになってしまうんです。

【まとめ】劇団四季の演出部の音楽スタッフピアノ弾きの日常

ピアノが弾けることとか、即興的に弾けること、初見や移調演奏能力などの技術的な面の他に、体力がとっても必要な仕事です。

体力が必要ですが、ピアノがあまり上手ではなかった私としては、自分が得意な耳コピーや初見演奏能力、合唱などのスキルが生かせたのは楽しかったです。

また、やはり好きなミュージカルなので、体力的にきつくても気分もあがるし幸せだと思います。
ただし、やはり体力は本当に必要です・・。あと、金銭的にも、月額15万円から国民健康保険と国民年金を支払いその残りで生活するのは大変厳しいものがあります。

それでも、他では得難い経験ができますし、演出家や音楽部の上司の強烈な才能を間近で見る機会もあるので、私はやってよかったと思っています。

なお、タイトルにも書いた通り、劇団四季の音楽部のスタッフは欠員が出たときのみ募集されるので、劇団四季のホームページをよく見ておきましょう。
または、劇団四季内に友達がいれば、音楽部の欠員が出たら教えてほしいと声をかけておくのがおすすめです。

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