これまでの3回の連載の中では、主にCSなどでネットワークされている2つのチャンネル、ディズニー・チャンネルとカートゥーン・ネットワークで放送されている海外アニメを紹介したが、なかなかスカパー!やCS放送との契約はハードルが高いと感じる読者の方も多いだろう。
「今こそ見るべき海外アニメ!」これまでの記事はここからチェック!
①多様性に満ちた入門向け作品ピックアップ
②ディズニーのテレビアニメ6作品で「いま」を読み取る
③新たな表現を開拓するカートゥーン・ネットワークの7作品
その一方で、CSなどに代わってここ数年ほどのあいだに存在感を増しているのがhuluやNetflixなどの動画配信サービスだ。近年ではこうした動画配信サービスがケーブルテレビ局や同業他社との差別化を図るため、多数のオリジナルコンテンツを企画し、そこでしか見られないテレビドラマやドキュメンタリーを多数制作する流れもできつつある。
今回の記事では、定額の動画配信サービス(hulu、アマゾンプライムビデオ、Netflix)で視聴できる海外アニメの一部を紹介する。GWはゲームの合間に、個性的でバラエティに富んだ海外アニメを楽しんでみてはいかがだろうか。
紹介している作品は全て2017年5月1日時点で配信が確認できるもの。詳細なスケジュールは、各サービスの公式ウェブサイトをチェックしてほしい。
「マーベル・ナイツ・アニメーション」(hulu)ーーダイナミックなアメコミ・アニメ
Huluでは2016年から「マーベル・ボックス」チャンネルを開始し、「スパイダーマン」「超人ハルク」など日本未放送のテレビシリーズなど、マーベルヒーローに関するコンテンツを数多く配信している。それらのバラエティ豊かなラインナップの中でひときわ目を引くのが「マーベル・ナイツ・アニメーション」だ。アメコミの紙面そのままの絵が音声付きでアニメーションするという独特のシリーズで、ブラックパンサーやアイアンマンなど、映画でおなじみのさまざまなヒーローたちの活躍が描かれる。イラストレーターの繊細な筆致を大画面で楽しめるのはなかなか贅沢な体験だ。
月ごとにエピソードが更新され、5月は「Spider-Woman, Agent of S.W.O.R.D.」が配信予定。スパイダーウーマンが宇宙からの脅威に対処する諜報機関S.W.O.R.D.に参加し、地球を密かに侵略する異星人スクラルと戦うというストーリーで、スパイダーマンやウルヴァリンも劇中に登場する。アメコミにトライしてみたい人には入門作としてもおすすめだ。
2017年5月現在、huluでは「ガーディアンズ・ギャラクシー:リミックス」の公開に合わせて過去のマーベル・シネマティック・ユニバースの作品の一挙放送がおこなわれているので、マーベルファンは実写映画もアニメもまとめてチェックするチャンスだ。
ほかにもhuluではディズニーアニメのテレビシリーズを放送する「ディズニー・ボックス」も配信中。こちらはドナルド・ダックが登場する「ダック・テイル」や「リトル・マーメイド」のテレビシリーズなどがラインナップされている。
「ニンジャタートルズ」(アマゾンプライムビデオ)ーーティーンエイジャーらしさが増量の最新TMNT
1984年のコミック発表以来、常にメディアミックスをされ続けている「ティーンエイジミュータントニンジャタートルズ」の最新テレビアニメシリーズで、地上波では2014年にテレビ東京で放送されていた。同作品は、DCでもマーベルでもない、いわゆるオルタナティヴコミック最大のヒット作としても広く知られている。制作は「スポンジボブ」や「アバター 伝説の少年アン」などを手がけるニコロデオン。
今作はキッズ向けというニコロデオンの主要視聴者層に合わせて、数あるシリーズの中でも子供向けアレンジの度合いが強い。マイケル・ベイがプロデュースした最新の実写版ではミーガン・フォックスが大人っぽく演じていたヒロインのエイプリルも、こちらのアニメ版では15歳のタートルズたちとほぼ同年代に設定されており、発明家で頭脳派のドナテロの彼女に対する淡い憧れが微笑ましく描かれている。
3DCGで制作されていながら漫画的な記号表現が多用されており、アクションの要所では金田伊功的なエフェクトのみのコマが一瞬挿入されるなど、日本アニメや漫画からの影響も強く見られ、立体的なカメラワークで描かれる東洋的な格闘シーンの描写は一見の価値ありだ。
人目を忍んで活動するタートルズの特性上、夜や屋内などの暗いシチュエーションが多く、そんな中で驚いた時などに白いカミナリマーク風のアイコンが出るのは「バットマン:アーカム」シリーズっぽくもあり、実際にバットマンとこちらのニコロデオン版タートルズがコラボしたコミックも発売されている。
テレビ東京での放送が1シーズン(26話)で終わった関係か配信もそこまでとなっているが、本国ではシーズン5まで制作され、現在も放送が継続中。アマゾンプライムビデオではニコロデオン制作のアニメのほか、「アドベンチャータイム」や「パワーパフガールズ」などのカートゥーン・ネットワーク作品も豊富にラインナップされている。また、最近では「マイロ・マーフィーの法則」や「怪奇ゾーン グラビティフォールズ」「悪魔バスター★スター・バタフライ」など、前々回の記事で紹介したディズニー・チャンネルの最新アニメのエピソードの一部も配信が開始された。
「ワクフ」「ワクフ:偉大なる冒険の旅」(Netflix)ーーフランス発、フラッシュで描かれる唯一無二の冒険譚
フランスのankama社が開発した同名のMMORPGが原作のアドベンチャーアニメ。「ドフス」というこちらもAnkama社が開発したゲームの続編にあたり、災害によって多くの大陸が海に沈んでしまった世界で、主人公の少年ユーゴが家族を探しに旅に出るというストーリー。
2017年中には新作シリーズが、2018年には劇場アニメの公開が予定されており、現在進行形で展開は継続中。アニメーションはAdobe Flashによって制作されている。フラッシュアニメ特有の動きに従来のアニメーションのアクションのタイミングやレイアウトの使い方が合わさって、他のアニメでは見られない滑らかで独特な画面が楽しめる。
ゲームと同じくアニメでもさまざまな種族が登場し、ヒロインのアマリアとエヴァンジェリンを筆頭に、デフォルメの効いた柔らかなデザインで描かれるキャラクターはどれも非常に魅力的だ。
OVAとして2つのスペシャルエピソードが制作されており、「Noximilien l'Horloger」ではキャラクターデザインを湯浅政明が担当、「Ogrest - La légende」は「ドラえもん のび太の南極カチコチ大冒険」の監督を務める高橋敦史が手がけており、同シリーズは日本のクリエイターとの関わりも非常に深い。
「リックアンドモーティ」(Netflix)ーー常識もモラルも物理法則も問い直す超ハードSF
アルコール依存症のマッドサイエンティストであるリックとその孫のモーティが多元宇宙を股にかけて冒険を繰り広げるSFギャグアニメだ。アメリカではカートゥーン・ネットワークのadult swim枠で放送されており、セリフもギャグもかなり大人向け。
ぶっ飛んだ発言や行動をするキャラクターは海外アニメには多いが、その中でもリックの言動は飛び抜けて非倫理的だ。しかしリックも含めた登場人物のセリフにはめちゃくちゃさと同時に妙な生々しさとウィット、そして論理性があり、視聴中は彼らのドタバタに笑いながらも、どこか身につまされるような気分にもさせられる。
「ホレ薬」というエピソードでは、惚れ薬という定番の題材からはおよそ想像のつかない事態に発展し、グレッグ・イーガンの量子テーマSF小説を思い起こさせるようなとんでもない結末に。加えて、のちのエピソード「パラレルワールド」では、画面の分割と画面内で起こっている出来事の微妙なずれによって量子力学の状態の重ね合わせを表現し、SFアニメとしての完成度の高さを見せつけた。
「トロールハンターズ」(Netflix)ーーギレルモ・デル・トロ初のテレビアニメシリーズ
ギレルモ・デル・トロが原作と製作総指揮を務める、ドリームワークス制作のNetflixオリジナル3Dアニメだ。母親思いの15歳の少年・ジムが不思議なアミュレットを拾ったことにより、人間の住む地上世界とトロールたちの住む地下世界を守護する「トロールハンター」となって戦うというストーリー。母親思いで勇気がある誠実な少年がヒーローになる、正統派ヒロイックアドベンチャーといった作りで、呪文を唱えて鎧を装着するギミックや、学校に潜む正体を隠した敵など、設定やストーリー展開には日本の視聴者にも馴染みやすい要素が満載。人物、特にトロールの造形やアクション、ライティングなどが劇場用アニメもかくやのリッチさで、Netflixがどれほどオリジナル作品に力を入れているかが一目で伺える作品となっている。
地上世界の風景はキャラクター表現の豊かさに比してややディテールを抑えた印象を受けるが、対照的に、地下に存在するトロールマーケットとそこで暮らすトロールたちは、鮮やかに怪しく、そして魅力的に描かれており、ギレルモ・デル・トロの異形への愛を存分に感じることができる。
声の出演も、主人公のジムが昨年27歳の若さで亡くなったアントン・イェルチン、ジムの最大の敵となる悪のトロールであるブラーを、同監督の「ヘルボーイ」で主役を務めたロン・パールマンが演じるなど非常に豪華。字幕でも吹き替えでも、大人から子供まで楽しめる作品となっている。
「レジェンド・クエスト」(Netflix)ーーメキシコらしさが溢れたNetflixオリジナルアニメ
こちらもNetflixオリジナルの作品で、制作国はメキシコ。舞台は19世紀アメリカ、幽霊を見ることができる少年・リオが、世界をいちから作り直そうと画策するケツァルコアトルの野望を止めるため、空飛ぶ帆船で世界中を旅するというストーリー。キャラクターや設定などの多くが、メキシコでヒットしたRicardo Arnaizによる複数の劇場用アニメ(「la leyenda de las momias」など)に基づいている。
19世紀のアメリカという舞台設定が珍しく、敵がケツァルコアトルだったり、助っ人キャラクターがカトリックの修道士だったり、1話目からヒロインとキスをした主人公が、ヒロインに「気持ちが入っていない」と怒られたりと、多くの日本人視聴者にとっては新鮮なラテンアメリカの伝説や固有名詞、そして語り口が魅力的だ。
注目キャラクターは、常にスマホを持ち歩く未来の世界の幽霊の少女であるテオドラ。舞台が日本のエピソード「怪獣」では、「日本といえば寿司と怪獣と漫画」とテオドラが断言し、箸の使い方など日本の食事の作法をリオたちに説明するという、現代のメキシコにおける日本像が伺える内容となっており非常に興味深い。
米国で2017年2月に配信されたかなり新しい作品となっているが、こういった世界各国の最新アニメがほぼオンタイムで見られるのは個人的には大変ありがたい話であるし、非常に価値のあることなので、今後もこういった形で視聴できる作品が増えると嬉しい。
Netflixはほかの動画配信サイトと比べると比較的新しいアニメの割合が多く、今回紹介した作品のほかに、007をパロディした大人向けスパイものコメディアニメ「Archer」や、イギリス制作のNetflixオリジナルアニメ「デンジャーマウス」など、幅広いラインナップを楽しむことができる。
こうした動画配信サイトでは海外アニメは標準のトップページからの表示優先順位も低く、すすんで検索してみないと見つからない作品が多いが、まだ見ぬどんな面白い作品が隠れているのかを能動的に探すのはワクワクする体験でもある。私も今回の記事を書くにあたってしつこく調べてみたものの、見落としている作品もたくさんあると思われるので、こんなアニメがあるよ!とオススメの作品があったらぜひとも!教えてほしい。