Jドリーム/塀内夏子
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【あらすじ/概要】
Jリーグ開幕を翌年に控えた1992年。ソウルオリンピック予選など日本サッカー不遇の時代を経験してきた元日本代表MF本橋譲二は、年齢による衰えと古傷の痛みに悩まされ、プロ化という自分の足に値段がつけられるという事実に戸惑いを感じていた。ある日、一人の少年に賭けサッカーを持ちかけられる。その少年こそ後に日本代表を世界へと導く鷹となる赤星鷹だった。そしてその年はアメリカW杯予選の年でもあり、史上最年少の16歳で代表に選出された鷹は、卓越したテクニックと存在感で、次第にチームの中心選手となっていく。アマチュアからプロという過渡期にあって、不遇の時代を経験してきたベテランたちの意地と誇り、そしてJリーグから世界を見据える鷹ら若手選手達の葛藤がそれぞれぶつかり合う中、ついに開幕したアメリカW杯予選、日本代表は苦戦しながらも予選を勝ち抜いていくが・・・・。
前半は主にJリーグの浦和レッズを舞台としていたが、後半はアメリカW杯に向けたアジア予選に出場するサッカー日本代表が舞台となった。
【基本情報】
作者: 塀内夏子
雑誌: 週刊少年マガジン
連載: 完結済
巻数: 14巻(単行本)、7巻(Kindle)
続編: 飛翔編、完全燃焼編
【こんな人におすすめ】
- チーム内での衝突や葛藤を繰り返しながら結束していくyぴま熱い人間ドラマが好きな人。
- 頑張るベテランが好きな人。
- W杯に出ることが当たり前でなかった時代の辛く苦しいアジア予選やドーハの悲劇を知る人。
- Jリーグ元年以前、プロ化前から長く日本サッカーを応援し続けてきている人。
- W杯に出ること自体が夢物語だった時代のサッカーに興味のある若いサッカーファンの人。
【レビュー】
僕の一番好きなサッカー漫画かもしれない、Jドリームシリーズの第一章。本作(無印編)、飛翔編、完全燃焼編の3部にわたって、日本サッカーがワールドカップへの出場という長い長い「夢」を見ていた期間を描いています。
- 無印編→1994アメリカ大会予選(ドーハの悲劇)
- 飛翔編→ワールドユース編
- 完全燃焼編→1998フランス大会予選(ジョホールバル)
本作の時代はJリーグ元年、プロ化の波に浮かれる日本サッカーが、1994年のアメリカ大会にW杯初出場の夢をかけてアジア予選に挑んでいます。
塀内さんの作品の特徴として、相手チームのエースとの技術での争いではなく(もちろんそのような描写はありますが)、むしろチームないでの衝突・葛藤・世代交代を経てチームとしても個人としても成長していく人間ドラマ色が強く感じられます。
また、主人公の赤星鷹は若手の部類(というか史上最年少)ですが、どちらかというとベテラン選手の戦いの描写の方が読んでいて胸が熱くなるものがあります。
自身の怪我や、頭角を現す若手とのポジション争い等と戦いながらW杯出場という夢にむけて戦う姿に、哀愁とカッコよさを感じさせられます。
そしてその戦いの場に立てた者がいる半面、間に合わなかった者もいるという現実。実際に選手としてプレーした訳ではないただの一読者の自分の胸にも、強く訴えかけるものがある「泣かせるサッカー漫画」です。
※以降ネタバレも含まれるので注意。
【忘れられない名台詞】
ああ、バスが出ていく。
いいさ、きっぷは譲るよ・・・
浦和レッズ 本橋譲二 (単行本2巻)
時はJリーグ元年。「序盤の主人公」とも言える、ベテラン選手の本橋は自身の古傷と戦いながらプロを迎えました。
結果的に最後の試合となったヴェルディ戦で負傷退場する彼と交代したのは、自身が才能を見出しいずれは追い越されることを予感していた少年、赤星鷹でした。
本作の一つのテーマである「世代交代」が最初に描かれたシーンと言えます。
ちなみにここで言われている切符というのは、W杯出場への夢を乗せたバス(と作中で本橋が比喩しているもの)のものです。
北村、お前をアジアの大砲にしてやるぜ
日本代表 赤星鷹 (単行本4巻)
W杯アジア一次予選、中国戦で。
高い身体能力・シュート力を持ちながら気弱が抜けない北村に鷹がはなった一言。
この後実際に北村はアジアの大砲、そして鷹の相棒に成長していきます。
アジアの大砲・アジアの壁・・・・、「アジアの~」というフレーズは日本人選手が当然のように世界のクラブで活躍するようになった現在では、あまり聞かなくなったフレーズです。
どっちが強いか最初にはっきりさせておくんだ!
当分生き返んないように!
日本代表 赤星鷹 (単行本4巻)
同じく中国戦で。
W杯予選はホームとアウェーで同じ国と2回試合を行います。そのため、勝ち試合が見えた段階で守りに入るのではなく徹底的にたたいておくことで相手に「苦手意識を持たせる」というのは、実際のサッカーにおいても重要なことだと思います。
W杯への道案内をする
三本足の鳥だ
トレーナー 小林宏 (単行本5巻)
アジア一次予選最終戦のUAE戦を勝利して、最終予選への進出を決めたところで。
なお、ここで言われている「三本足の鳥」とは、日本神話にでてくる「八咫烏(ヤタガラス)」のことで、日本代表のユニフォームやJFA(日本サッカー協会)のロゴマークにも描かれています。
いわば日本サッカーのマスコットキャラですね。
もう一つ余談ですが、この言葉を発している日本代表(および浦和レッズ)のトレーナーである小林さんは、本作のもう一人の主人公だと思っています。
無印編から完全燃焼編まで通しで登場しており、ピッチの外からの視点でW杯出場を目指す選手・日本サッカーを見てきた良キャラクターです。
トレーナーというキャラクター上、怪我をかかえたベテランとの絡みが多く、世代交代を描くシーンの多い本作に深みを加えています。
W杯に出場できる監督は世界中でたった24人だ!
その24の椅子にすわるためなら
ぼくは悪魔にだって魂を売るぞ!
日本代表監督 セルジオ・レネ (単行本8巻)
ちょっと胡散臭い日本代表のブラジル人監督の言葉。
色々と信用ならない雰囲気のあった監督ですが、彼もまたW杯に出場したいという強い思いを持ったプロフェッショナルであったことが分かっていきます。
なお、2017年現在のW杯出場国は32ですが、まさに本作で描かれている1994年大会までは出場枠は24ヵ国でした。
2026年大会からは48に拡張される予定になっています。
個人的にはあんまり増やしてもしょうがないよなあ、とは思っています。
最終ラインを守りきってくれたら
俺も絶対点をとる!絶対!
そういう約束だからね!
日本代表 赤星鷹 (単行本10巻)
足に古傷を抱えたベテランDF、本郷にかけた言葉。
痛み止めの麻酔を打っていたことを黙っている代わりに、死んでも守り切るように念を押します。その代わり、自分が点を取って勝つ、と。
この本郷という選手も本作のカッコいいベテランの一人です。
本郷の足が
今・・・折れました
トレーナー 小林宏 (単行本13巻)
アジア最終予選の韓国戦で。
渾身のオフサイドトラップをしかけ、古傷を抱えた本郷の足はついに限界を迎えました。
W杯出場の可能性を残すための、勝つための守備。
自身が選手としてW杯出場することができなくなったとしても、チームとして勝つために力を出し尽くしたその姿に、サッカー好きとしては涙が出てくるシーンです。
そうだ、その球は、本郷が右足を・・・
選手生命をかけて守った球だ!
大切に・・・大事にもっていってくれ!
トレーナー 小林宏 (単行本13巻)
上記の続きです。
本郷がマイボールにした後、逆転のために攻撃に転じる鷹に対して。
ただいま
日本代表 本郷剛 (単行本14巻)
さらに韓国戦の続き。
W杯出場に望みをかける勝利を手にしながらも、足を骨折し個人としてはリタイアを余儀なくされた本郷のモノローグ。
ないがしろにし続けてきた家族に向けての言葉です。その前の「終わった、帰っても・・・いいか?」からの流れは、本作の泣けるシーンの一つに数えられます。
本郷にしても本橋にしても、完全燃焼編での富永・嶋にしても、ベテランが絡むシーンに名シーンが非常に多いです。
この身も、この心も
今ここにあるすべては
すべてはW杯のために
日本代表 富永朗 (単行本14巻)
アジア最終予選の最終戦となるイラク戦で。
終了間際、W杯出場にあと1点が必要な日本代表、GKの富永も攻撃に参加して最終攻勢をかけます。
相手はイラク、日時は1993年10月28日、場所はカタールのドーハ。
実際の歴史を知る人ならばこの試合の結果はご存知の通りです。
さいごに
ちなみに僕が作中通して一番好きなキャラクターはサイドバックの嶋です。本作でも見せ場ありますが、むしろベテランとなり1998フランス大会の予選を戦う完全燃焼編で、ベテランの悲哀・頼もしさ・カッコよさすべてが描かれている地味ながら本作を代表するキャラクターだと思います。
やっぱりつらく苦しいW杯アジア予選を書いたらこの人の右に出るものはいないでしょう。
この漫画、そして史実の両方が示した通り、ドーハの悲劇であと一歩のことろでW杯出場の夢を逃した日本。
この戦いの続きは次章、飛翔編・完全燃焼編に続いていきます。
4年に1度、W杯出場に向けたアジアでの予選が始まると必ず読みたくなる名作です。
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