読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゼロからやりなおす「政治と経済」

政治と経済について、いまさら聞けない知識を整理しつつ、ニュースがよりよくわかるデータを紹介していきます。

日本も巡航ミサイル保有を検討 北朝鮮危機を前に防衛政策の大転換はなるか

f:id:minamiblog:20170507001652j:plain

(トマホークミサイル。製造元のレイセオンの名前も鮮やか。出所はWIKIパブリックドメイン画像)

 「日本もついに巡航ミサイル導入を検討」

 本日の共同通信記事でさりげなく、重大なトピックが取り上げられていました。

「政府は北朝鮮による相次ぐ弾道ミサイル発射や核開発継続を受け、日米同盟の対処能力を強化するため、巡航ミサイルの将来的な導入に向けた本格検討に入った」(巡航ミサイル導入を本格検討 政府、北朝鮮脅威に対処 2017/5/6)

 しかし、巡航ミサイルといわれてもイメージが沸かない方もいるかもしれません。

 その典型は、4月に米軍がシリアを攻撃した時に用いたトマホークミサイルです。

 トマホークは護衛艦等でも配備可能なので、我が国も自国防衛の決定打としてこれを用いるべきだ、という案が浮上してきたわけです。

(弾道ミサイルは宇宙ロケットと同じ推進方式を取り、弧を描いて飛びます。巡航ミサイルは小型の戦闘機に似た飛び方をします。後者は軌道や高度を変えながら敵地を精密攻撃可能)

 憲法9条のもとに専守防衛を掲げてきた我が国が敵基地攻撃能力を持つことに関しては、野党だけでなく、自民党内にも反対派がいます。

 しかし、これは重大な決断なので、今回はこの問題について考えてみます。

北朝鮮の核ミサイル開発抑止は失敗の連続

  この問題が浮上してきたのは、90年代以来、北朝鮮向けに硬軟合わせた方策がとられましたが、成果がないまま今日に至ってしまったからです。

 90年代の核開発に関して、我が国は1995年~2000年までに累計108万トンのコメ援助を行いました。その代価に開発停止を要求したのですが、その返答は1998年のテポドンミサイル発射実験でした。

 2000年代には、03年~08年に六カ国協議が行われました。日本、アメリカ、韓国、中国、ロシア、北朝鮮の六カ国の「話し合い」で妥協案を探ったのですが、2009年に北朝鮮は核実験と長距離ミサイル発射実験を行います。

 そして、オバマ政権は2012年に長距離ミサイル実験にも制裁以上の反応は見せませんでした。

 日本が14年に一時期、制裁緩和に踏み込んだのですが、拉致問題への返答はなく、16年に核実験とミサイル実験という、いつもながらの「返答」が返ってきたのです。

 2006年以降、北朝鮮国籍者の入国禁止、北朝鮮船の入港禁止、北朝鮮への輸出禁止、北朝鮮から輸入禁止などの制裁を行いましたが、これは何ら核ミサイル開発の歯止めにはなりませんでした。

 その後、北朝鮮は2016年1月のブースト型原爆実験で核弾頭の小型化技術を高め、2月の実験では長距離弾道ミサイルの技術水準を高めてしまいました。北朝鮮は小型化技術を進歩させ、大気圏外に出たミサイルがふたたび大気圏内に入る「再突入技術」を獲得すれば、長距離弾道ミサイル技術を獲得できるとも言われています。

ミサイル防衛システムはすでに限界。残された手段は・・・

 日本には、SM2やSM3(※護衛艦から発射する弾道ミサイル撃墜用のミサイル)やパトリオットミサイルがありますが、北朝鮮が100発以上のノドンミサイルを撃ってきた時に、我が国を守り切ることはできません。

 そのため、米海軍アドバイザーの北村淳氏は、2000年代の終わり頃から、日本は、巡航ミサイルを持つべきだと提言していました。

 ミサイル防衛システムで日本を完全に守ろうとしたら数兆円もの予算が必要になりますが、巡航ミサイルは一発100万ドル程度なので、限られた予算で国を守るためには、反撃能力を確保したほうが合理的だからです。

 同氏は『巡航ミサイル1000億円で中国も北朝鮮も怖くない』という著書で、800基のトマホーク・ミサイルをアメリカから購入することを薦めていました。

 この本では、以下の章立てで、日本の防衛政策の欠陥に警鐘を鳴らしています。

  • プロローグ――中国軍の対日戦略が瓦解した日
  • 第1章 中国が日本に侵攻する16ステップ
  • 第2章 日本のミサイル防衛力の真実
  • 第3章 対北朝鮮ミサイル防衛の実力
  • 第4章 中国が仕掛ける「短期激烈戦争」
  • 第5章 受動的ミサイル防衛の罠
  • 第6章 対中朝「敵基地攻撃」の結末
  • 第7章 トマホークに弱い中国と北朝鮮

 詳細は省きますが、中国軍は巡航・弾道の両者を合わせて800発以上のミサイルで日本を狙うことができるため、ミサイル防衛システムは機能しないことや、戦闘機の航続距離を伸ばす等の措置を取っても予算が足りないこと等が指摘されています。

 同氏が特に問題視しているのは、専守防衛の日本は、事実上、「撃たれっぱなし」になるため、北朝鮮や中国から見た時に開戦のリスクが低いということです。何の反撃も来ないと見れば、「やり得」になるため、攻撃をしかけられる可能性があるぞと警鐘を鳴らしています(※これは筆者の俗な表現です。本文はもっと高尚な書き方をしています)。

 日本が無防備であれば、それが紛争ぼっ発のリスクを高めるという見方もあるわけです。

(北村氏は、中国であっても沿岸部の主力都市を犠牲にしたくはないので、800発の巡航ミサイルは抑止力となりうると見ている)

  東アジア情勢は中国の軍拡と北朝鮮の核開発の進展により、従来の想定を超えたレベルにまで緊迫してきたので、日本にも新たなアプローチが求められています。

 従来の専守防衛では、もはや、対応しきれない時代が来たのかもしれません。

 日本も巡航ミサイル保有を検討し始めたというニュースを見て、目をむく方も多いとは思いますが、もはや時代が大きく変わってしまったと考えるべきなのではないでしょうか。