わたらせ渓谷鐵道の美しい自然と歴史をたどる旅!/古谷あつみの鉄道旅Vo.20

2017.05.03

みなさんこんにちは!鉄道タレントの古谷あつみです。今回は「美しい自然と歴史をたどる旅」をテーマに、わたらせ渓谷鐵道に行ってきました。東京から気軽に日帰りもできる、この鉄道の魅力とは、何なのでしょうか?今回も、アドバイザーは鉄道ライター土屋武之さん、撮影担当のカメラマンは米山真人さんです。

今回の見どころはここ!

1.上神梅(かみかんばい)の趣きある木造駅舎
2.電車を使った「レストラン清流」
3.足尾銅山で栄えた町へ
4.廃止された貨物駅・足尾本山(あしおほんざん)を訪ね、歴史を感じる

1.上神梅の趣きある木造駅舎

▲高架駅の桐生から出発

「わ鐵」の愛称で親しまれているわたらせ渓谷鐵道は、群馬県桐生市の桐生駅と栃木県日光市の間藤(まとう)駅の間、44.1kmを結ぶ路線です。秋の紅葉シーズンになると、遠方から足を運ぶ、たくさんの観光客で賑わいます。
紅葉だけではなく、沿線の豊かな自然は四季折々に楽しめるので、もちろんどのシーズンに行っても素晴らしい車窓が望めるのですよ!

では、さっそく!桐生駅から出発です。
▲わたらせ渓谷鐵道の新型車両の車内はロングシート

ふだんは、地元の人々の足として活躍している「わ鐵」ですが、休日は観光客でいっぱいになります!取材日は平日だったので、割にゆったりと巡ることができました。

桐生駅の発車メロディーには、栃木県の足利や群馬県の桐生などに伝わる民謡「八木節」が使われています。夏には桐生で「桐生八木節まつり」が開催されるなど、地元の方に深く愛されているんです。こうした、ご当地駅メロもまた、旅の気分を盛り上げてくれます。
わ鐵は、渡良瀬川(わたらせがわ)に沿って走る路線。途中の大間々(おおまま)から神戸(ごうど)までは、下り列車の場合、進行方向右側に座ると川の眺めをより楽しむことが出来ますよ!

わたらせ渓谷鐵道は元の国鉄~JRの足尾線で、足尾銅山と各地とを結ぶ貨物輸送を主体とする鉄道でした。

しかし、銅山の閉山や利用者の減少によって、1989(平成元)年に現在の第三セクター鉄道となり、観光路線として生まれ変わりを図ったのです。
関東出身の方は、子供の頃、足尾銅山観光などへ遠足や修学旅行で行ったことがあるのではないでしょうか?
▲スタートしてすぐ渡良瀬川の鉄橋を渡る 

桐生を出発すると、すぐに渡良瀬川が姿を現します。

まずは最初の目的地である、上神梅駅まで一気に進みます。

今回はわ鐵をたっぷり楽しむために、1日フリーきっぷを使いました。値段は大人1,850円、小児930円。桐生、相老(あいおい)、大間々、通洞(つうどう)、足尾の各駅や、JTB、東武トップツアーズ、日本旅行、近畿日本ツーリストの各支店で発売されています。
▲静かな上神梅駅

上神梅は自然豊かな風景に絶妙にマッチした木造駅舎が特徴の駅。奥に見えているのが、鳴神山(なるかみやま)です。

この駅舎は、以前はカラオケ教室などにも使用され、地元の方々から深く愛されています。地元の子供たちが遊んでいたり、乗降客こそ少ないものの、温かい雰囲気の駅です。
▲改札口の柵も木製

古谷「それにしても味のある駅舎ですね。地元の子供たちの作品が飾られているのが温かい。座布団も地元の中学生の作品みたいですよ。」
土屋「この駅は、1912(大正元)年に建てられ、昭和初期に増築された駅なんだ。プラットホームと共に、2008(平成20)年に国の登録有形文化財に登録されている。わたらせ渓谷鐵道では、38もの施設が有形文化財に登録されているんだ。そこが魅力のひとつでもあるんだよ。」
古谷「全部、回ってみるのも面白いかもしれませんね!」

2.電車を使った「レストラン清流」

▲次の普通列車に乗り込む

上神梅からは、また普通列車に乗って移動です。
▲車内で販売されるグッズの数々

列車内では、アテンダントさんによる車内販売も行われることがあるので、もし乗り合わせたら、ぜひチェックしてみてくださいね。わ鐵オリジナルのお菓子や、名物マスコットキャラクター「わ鐵のわっしー」のグッズも販売されています。

実は私、わっしーの大ファン!
この日は会うことが出来ませんでしたが、口からベローンと飛び出す線路が衝撃的(笑)な、ゆるいキャラクターです。
▲アテンダントさんから「わっしーのはらまき」を購入

私は大好きな「わっしーのはらまき」(大人用1,230円)、土屋さんは「わ鐵ドロップ」(400円)をゲット。お土産にも喜ばれる商品ばかりです。
同じ列車に乗り合わせた皆さんは、お孫さんへのお土産を一所懸命選んでおられました!
▲渡良瀬川をさらにさかのぼる

さて、次は神戸駅を目指すのですが、車窓はどんどん山深くなります。ここからが本番ですよ!
▲春先の神戸駅は花で埋まる

沿線に咲く、季節の花々にもぜひ注目してください!
▲秋の紅葉も美しい

桐生駅と間藤駅とでは、標高差が550mもあるため、秋は間藤の方から1ヵ月かけて徐々に紅葉して行くそう。長く紅葉を楽しめます。
美しく、優しい印象の渡良瀬川をさかのぼって行くかのように列車は走ります。
▲観光客で賑わう神戸駅

神戸駅に着きました!ここの木造駅舎もなかなかの見ごたえ。趣があり、映画やCMのロケ地としてもよく使われるそうです。
▲神戸駅で販売をしているおじさんと

駅で山椒などを売るおじさんが迎えてくれましたよ!
旅行会社の日光東照宮や富弘美術館などのツアーで、わ鐵を利用する場合は、この駅がバスの発着地になることが多く、観光客で賑わいます。
▲神戸駅には「列車のレストラン」がある

私たちが神戸駅を訪れた理由はコレ!構内にある「列車のレストラン清流」です。
なんと、元東武鉄道の特急用電車「デラックスロマンスカー(DRC)」2両を利用した列車のレストランなのです!
▲レストラン清流の車内は、特急列車そのもの

車内はテーブルが取り付けられたぐらいで、ほとんど改造されていません。
浅草と日光、鬼怒川温泉を結んで走っていた当時のまま使用されているため、特急列車に乗っている気分で食事をすることができます。
▲食べ応えがある「舞茸ごはん定食」(1,230円)

私が選んだのは「舞茸ごはん定食」。
沿線の名物である、舞茸のご飯や天ぷらを楽しめ、そばも付いていて、豪華でボリュームがあります。
▲わたらせ渓谷鐵道で、いちばん有名な「やまと豚弁当」(1,030円)

カメラマンの米山さんが選んだのは、「やまと豚弁当」。
特産品のやまと豚をしょう油ベースのタレで仕上げた弁当です。掛け紙の裏は沿線ガイドになっていて、特製手ぬぐいも付いています。沿線でいちばん有名でお得な弁当と言われているんですよ。
▲わたらせ渓谷鐵道のトロッコ列車があしらわれている「トロッコ弁当」(930円)

そして、土屋さんが選んだのは「トロッコ弁当」です。
パッケージのトロッコ列車が印象的で、これにも地元産の舞茸がふんだんに使われています(季節により、内容が変わる場合もあります)。
▲列車のレストラン内でいただくご飯は、旅の気分

古谷「ふぅ~!どれも美味しそうですね!いただきま~す!うん!舞茸の天ぷらがサクサクで甘くて美味しいです!」
土屋「これは、いろんな料理が楽しめるのがいい。」
米山カメラマン「豚肉がさっぱりしていて、その上にかかっている、濃いめの味付けのしょう油が良く合います。手ぬぐいをお土産にできるのも嬉しいですね。」

なお、お弁当は作り置きしていないため、あらかじめ電話予約をしておくとスムーズに購入できます。

3.足尾銅山で栄えた町へ

▲神戸を出ると、長い「草木トンネル」に入る

また普通列車に乗って出発です!出発してすぐ、列車は長いトンネルに入ります。
神戸駅から沢入(そうり)駅までの7kmは急勾配区間で、草木ダムの堤体の高さ140mと同じ高低差を、この草木トンネルで一気に登って行きます。
▲沢入から先でも渡良瀬川の眺めが楽しめる(写真は列車の最後尾からの眺め)

トンネルを抜け、沢入を発車すると、今度は左側に渡良瀬川の景色が広がります。神戸から先も車窓が美しく、わたらせ渓谷鉄道の車窓のハイライトとも言えます。
▲足尾町(現在は日光市足尾町)の中心は通洞駅

わたらせ渓谷鐵道沿線のメイン観光スポットとも言える、「足尾銅山観光」の最寄り駅は通洞駅。ここから徒歩でおよそ10分ほどです!
▲足尾のいちばんの観光地は、足尾銅山観光

足尾銅山は江戸時代初期に発見されてから400年もの歴史を誇り、足尾はかつて「日本一の鉱都」とも呼ばれて、大いに栄えました。足尾銅山観光は、銅山のあゆみを伝えるために作られた観光施設です。

1973(昭和48)年に閉山した足尾銅山ですが、ここではその歴史をじっくりと学べます。この日も多くの小学生たちが遠足で来ていました。

元の銅山の中へは、碓氷峠鉄道文化むらで見たのと同じ、ラックレール式のトロッコ列車で入って行きます。鉄道好きにとっても興味深いスポットかもしれませんね。
▲わ鐵の車窓には、足尾銅山の名残もよぎる

続いては、わたらせ渓谷鐵道の終点、間藤へ。通洞駅から足尾駅までの沿線は、足尾の町の中心部にあたります。
▲鉱山の雰囲気が残る、ノスタルジックな足尾の町

足尾銅山は1973(昭和48)年に閉山しましたが、通洞から間藤にかけては、操業していた当時からある鉱山施設や鉱山住宅を車窓に見ることもできます。
▲わたらせ渓谷鐵道の終点、間藤

しかし、足尾銅山は間藤で終わりではありません。さらに奥まで続いていたのですよ。間藤駅からは町歩きです。足尾の町の歴史を肌で感じに、出発です!

4.廃止された貨物駅・足尾本山を訪ね、歴史を感じる

▲線路は間藤で途切れるが、足尾本山へ廃線跡が続いている

わたらせ渓谷鐵道の線路は間藤で途切れていますが、その先にも線路の跡らしきものが続いています。

実は間藤駅から足尾本山駅まで1.9kmの区間には、国鉄時代、貨物線が延びていたのです。1987(昭和62)年までディーゼル機関車が牽引する貨物列車が走っていました。

古谷「採れた鉱石を昔の国鉄足尾線、今のわ鐵で運んでいたというわけなんですね。」
土屋「銅山が閉山してからも精錬所は残って、海外から輸入した鉱石の製錬をしていたんだ。わ鐵と足尾銅山の歴史は、知れば知るほど深くて面白いよね。」
▲足尾本山駅が中にあった精錬所を眺める

足尾本山駅はかつての精錬所の中にあって、今は立入禁止になっています。
精錬所跡地は「歴史に埋もれたラピュタ」と呼ばれていて、ジブリ映画の「天空の城ラピュタ」に出てきそうな雰囲気。物々しい存在感があります。
▲足尾本山駅に近い、静かな赤倉の集落

そして、大変な賑わいを見せていた町も今はすっかり静まり返っています。
足尾本山駅に近い町は、赤倉というところ。明治の末頃には足尾銅山の中心となっていて、140軒もの店が商店街を形づくっていたそうです。
後に銅山の中心は通洞に移り、今は閉店した商店などが立ち並ぶ寂しい雰囲気です…。
▲足尾の山々には総延長約1,200kmもの坑道が掘られた

銅山から銅を掘り出すための坑道は約1,200kmもあったそうです。これは東京から福岡市近くまでの距離に匹敵します。
私たちが眺めていた山の中に、クモの巣のように坑道が張り巡られされていたなんて、ちょっと信じられない感じがします。

土屋「足尾本山に残っていた鉱山施設は立派なものだっただろう?昭和の時代に入ると、さすがに機械を使って銅鉱石を掘りだしていたのだけど、それ以前、足尾銅山の歴史のほとんどが手作業での採掘だったんだ。それは辛く厳しいものだったそうだよ。」
古谷「足尾銅山観光で見た坑道は700mほどしかありませんでした。それでも薄暗くて、外の世界とはまったく違う空気感でした。あんなトンネルが1,200kmも続いていたなんて…。」
▲間藤で宮脇俊三が国鉄を完乗した様子は、代表作「時刻表2万キロ」につづられている

間藤駅へ戻った私たち。
列車の発車まで時間があったので、土屋さんは、鉄道紀行作家の宮脇俊三に関する展示物に見入っていました。
ここは宮脇俊三が国鉄の全線完乗を果たしたところでもあります。土屋さんにとっては神様みたいな人だったそうで、感慨深そうでした。

さて、間藤からは折り返し、旅の最終目的地へと向かいます!
▲間藤から折り返しの桐生行きで、最後の目的地へ!

古谷「大いに栄えていた足尾銅山のことを、くわしく勉強できました。わ鐵をまた違った視点で見ることもでき、良かったです。」
土屋「そうだね。わ鐵は車窓がきれいなだけではない。長く深い歴史を持った鉄道なんだよ。」

車窓やグルメ、足尾の歴史を学び、とても内容の濃い一日となりましたが、旅も終盤。最後の目的地とは?
▲夕暮れ時の足尾の鉱山施設跡

間藤からの帰りの列車の車窓は、行きとは別な路線のようにも見えました。
▲谷間に夕闇が迫る

夕暮れ時の渡良瀬川の雰囲気は、昼間とはまた違い、落ち着いています。
▲ホームのすぐ脇にある、水沼駅温泉センター

旅の最後は、一日の旅の疲れが癒せる天然温泉!水沼駅構内にある「水沼駅温泉センター」です。
駅の中にあるため、地元の方だけでなく、鉄道ファンからも厚い支持を得ています。泉質は「含二酸化炭素-ナトリウム・カルシウム-塩化物・炭酸水素塩冷鉱泉」です。
▲水沼駅温泉センターのマスコットは「かっぱ」

古谷「今日は、たくさん歩いて、たくさん学んだのでヘトヘトです!」
土屋「君は、勉強しなくても疲れたと言っているじゃないか。」
古谷「まあまぁ、旅の疲れは温泉で癒すに限りますよ!」
土屋「まったく…。」

お調子者の私ですが、足尾銅山の深い歴史を知ることができ、また違ったわ鐵の一面を知ることができました。みなさんもぜひ、わ鐵に乗ってみてはいかがでしょうか?
次回、古谷あつみの鉄道旅Vol.21は、静岡県の「天竜浜名湖鉄道」へ!

※記事内の価格表記は全て税込です。

土屋武之(鉄道ライター)

鉄道を専門分野として執筆活動を行っている、フリーランスのライター・ジャーナリスト。硬派の鉄道雑誌「鉄道ジャーナル」メイン記事を毎号担当する一方で、幅広い知識に基づく、初心者向けのわかりやすい解説記事にも定評がある。
2004年12月29日に広島電鉄の広島港駅で、日本の私鉄のすべてに乗車するという「全線完乗」を達成。2011年8月9日にはJR北海道の富良野駅にてJRも完乗し、日本の全鉄道路線に乗車したという記録を持つ、「鉄道旅行」の第一人者でもある。
著書は「鉄道員になるには」(ぺりかん社)、「誰かに話したくなる大人の鉄道雑学」(SBクリエイティブ)、「新きっぷのルール ハンドブック」(実業之日本社)など。

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

古谷あつみ(鉄道タレント・松竹芸能所属)

小学生の頃、社会見学で近くにある車両基地へ行き、特急電車の運転台に上げてもらったことがきっかけで、根っからの鉄道好きとなる。 学校卒業後は新幹線の車内販売員、JR西日本の駅員として働く。その経験から、きっぷのルールや窓口業務には精通している。 現在はタレント活動のほか、鉄道関係の専門学校や公立高校で講師をしている。2015年には、「東洋経済オンライン」でライター・デビューし、鉄道模型雑誌「N」等で執筆活動中。

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