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流れる夜の話
こんなにも早く起きたのは久しぶりだった。
手を伸ばせば届く距離にある目覚まし時計を見ると、あの公園での戦いから十二時間と少し経っていた。
「実感……あんまりないなあ」
早すぎると言ってもいいくらいの時間。
柔らかなベッドから上半身のみ起き上がり、すぐ側の窓に掛かるカーテンを横に引く。
耳に心地よい音と共に現れた空の色もまだまだ落ち着いていて、寝起きの目に優しい。
自分が魔法少女であっても、そうでなくても。
ここから見えるものには何の変わりもない。
でも、私にとっては何かが変わる。
大きく変わる。
一度目の時もそうであったように。
今も、きっと。
カーテンを元に戻し、再びベッドに身体を横たえる。
二度寝をしようと枕と頭の位置を変えてみる。
色々と試してみたけど、ううん……納得のいかない感触だ。
こだわり抜いたこの枕の高さや柔らかさ、布団の厚みも軽さ、マットに沈む感覚。
全て私自ら選んだ完璧な一品だというのに、二度寝ができない。
由々しき事態だ。
深く溜息をついた。
目が冴えているから、仕方がない。
これからどうしようか。
*
見ていた。
ずっと、見つめていた。
彼女を。
彼女だけを、ずっと。
花開く前の、蕾であった頃の彼女を。
汚れた地上に咲き誇った彼女を。
余計な雑草に囲まれていた彼女を。
裏切られ、踏み躙られた彼女を。
ずっと、ずっと。
泥を掛け合い、罵り合い、何かを傷付け合うばかりのこの地獄で見付けた綺麗な花。
白戸 李衣。
白の魔法少女。
俺が破壊する地獄を守る彼女を、遠くから見ているだけではもう満足できなかった。
「…………。」
星が溢れてきそうな夜が、押し流されていく。
幻想的な空の下。
二階建ての、周りより少し大きな赤い屋根の一軒家。
彼女の住む家を……正確には彼女の部屋の窓を、反対側の建物の上に座り込み、眺めていた。
閉じられたカーテンの向こうには、彼女がいる。
思わず溜息が出そうなほどのこの幸福は一体どうしたらいいのだろう?
真横の空間が歪む。
それに気付いて、俺のこの世のものとは思えない綺麗な世界の邪魔をした存在に鋭い視線を向けた。
「あら、そんなに怒らないでくださる?貴方の邪魔をするつもりはなかったのよ」
現れたのは、ミセス・ミラージュだった。
いつもドレスを着ているこいつはこの場に居られると幅を取るから邪魔だ。
「帰れババア」
「……なあに?今なんて?私に向かってなんと言ったの?もう一度言ってごらんなさい?小童が」
「…………邪魔だ」
小さく溜息を吐く。
本当に、煩い奴が来た。
「まったく、私もリリィを見に来たのよ。貴方のたーいせつな!リリィをね」
「今まではそこまで興味なかった癖に、何なんだよ」
そう言うとミセス・ミラージュはニヤリと怪しく笑った。
「あらあら。我等が可愛いフェイト坊ちゃんがストーカーしている女の子に、私が興味を持たないとでも思っていたのかしら?」
絶句。
「何なんだよ」
俺の浮かべた表情に品を投げ捨て爆笑する奴を、空間を割り押し込める。
消えた奴を確認し、深く深く、溜息を吐いた。
夜の星々は流され、朝になる。
彩を変えた空を見上げ、彼女の部屋のカーテンが動いた。
一日が始まる。
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