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視線の先に
リリィの名を表した、白い花のような衣装。
久しぶりに仕事をした宝石は胸元で輝いている。
ハーフアップのツインテールを飾るリボンの先にある小さな花は、変身で身に纏った風に揺れる。
一歩を踏み出した足を包む白いニーハイソックス。
その下には黄色のパンプス。
そして手には花の杖。
クリア・リリィは今、ただ一人を守るために復活した。
「クリア・リリィ……!」
「黒井くん。吃驚しただろうけど、今は危ないから後ろに下がっててね」
変身した私を脅威だと見なしたヴォイドの仕掛けてくる爪の攻撃を、杖の先端の花の蕾を開花させ防ぐ。
一回、二回と強くなる衝撃にこちらも花弁を広げ、防御力を強化させていく。
「ああ、リリィだ……!俺のために、リリィになったんだ……!!」
防御をしている間も全く後ろに下がる気配のない黒井くんに注意をしようと振り返ると、何だか寒気がしてくる眼差しで私を見ていた。
「……黒井くん、後ろに下がってくれるかな」
守る対象に思わず怖気付きそうになったけど、目を合わせて注意をすれば、息を飲んで黒井くんは地面に膝をつけた。
「このままずっと見ていたい」
彼は真顔だった。
私も真顔になった。
目線はずっと繋がっていた。
ヴォイドより危険だと思った。
守らなくても彼は大丈夫なのでは、と疑問に思い始めた時、杖が軽くなった。
ヴォイドの方へ向き直ると、怯んだ様子で後退している。
攻撃する意思の欠片もない姿に、こうして見ると突然変異で凄く大きくなった個性的な姿の猫に見えないこともないかもしれないと少し思う。
一体何に怯えているんだろうか。
「あらあら。踏み潰されたと思っていたけれど、また花を開いて空に向かうのね?クリア・リリィ」
目の前に、闇と共に現れた至極色のドレス姿の女性。
「ミセス・ミラージュ……!?」
ヴォイドよりも強く危険な、ヴォイドを従える事ができる謎の組織『ワールズエンド』のメンバーの一人。
しかも幹部の、ミセス・ミラージュ。
何度か戦ったこともある。
でも、今回は私一人、後ろに黒井くんがいるのでは勝機はない。
復活早々に絶体絶命とは笑えない。
冷や汗を流す私を通り越して、ミラージュは後ろにいる黒井くんを見た。
うっすらと口角をあげたミラージュに杖を構え直しても、気にした様子もなく怪しげに目を輝かせ再び私に視線を戻す。
「ずいぶんと面白いことになっているから、今日はこのヴォイドを持ち帰るだけにしておくわ。」
そう言ってヴォイドをひと睨みで従わせ、手を突き出して現れたときのような闇を広げた。
大人しくその闇の空間へ歩いて行くヴォイドは、すぐに消えていった。
それを見届けたミラージュはこちらに振り返ることなく、一言残してヴォイドに続いて、公園には私と黒井くんだけになった。
「今日は、疲れたね。もう帰ろう」
どっと疲れた私は、変身を解いて黒井くんに言う。
ぼんやりとしているのに視線が未だに私のままの黒井くんも頷いたので、足早に私はその場を去った。
ミラージュが現れる前の彼の様子を忘れてなんていない。
落ち着いたころに機会があれば話せばいい。
それにしても、と考える。
ミラージュが残していった言葉。
「本当に、面白いわ!運命の未来を変えた貴女も、狂い始めている運命も。私は好きよ」
どういう意味で、そう言ったのだろう。
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