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魔法少女とワールズエンド 作者:エナガ
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少女、醒める

ヴォイド。
心あるものに取り憑き、その心を食べ、成りかわる虚無の怪物。
ヴォイドは自らの欠けた心を求め、ターゲットに選んだ者の心を食らう。
そうしている間は普段と変わらぬ様子で見分けることはできず、しかし食べ終わった後は……。
満たされた心で、さらなる怪物へと変化し、より高まった力で世界を蹂躙する。

それが、今、まさに、私の目の前にいる。

猫であっただろうそれは、鋭く光る刃物の如き爪を舐め、試し切りをするかのようにサッと一瞬でいとも簡単に滑り台を切り裂いた。

息を飲み込んで、木の影にしゃがみ込む。
家に帰るには、ヴォイドのいる公園を過ぎなければならない。
学校に戻るにしても、背後を見せるのは危険だ。
どれにしろピンチであることは変わりなかった。

出来うる限り存在感を消すことを気を付け、考える。

ヴォイドに対抗するものがないのかといえば、ある。
でもそれは、今の私が使えるかといえば、可能性はゼロに等しい。
なぜなら私には夢も希望もなにも、ないのだから。

ヴォイドに対抗できる、唯一といわれるもの。
女神様に選ばれた__魔法少女。

夢や希望。
それぞれが様々な煌めきを胸に秘め、それを力にただの少女が魔法という奇跡を使う。
別の国では聖女様、と呼ばれもするらしいけど……彼女たちは平和を守るため、世界を守るため、なんて綺麗な言葉を掲げ、それらを盾に力を振るう。

私は、魔法少女になる資格があった。
実際に変身をして、ヴォイドと戦った。

それでも、今は……。

ブレザーのポケットに入れてある、白い花のような宝石を握り締める。

変身するための鍵となるアイテムは、反応しない。
この宝石がまだ消えずにあるということは、私にはまだ魔法少女の資格があるということなのに。

俯いて、しかし警戒を忘れずに、ただただ悩む。
どうしたら、どうしたら、と。

「……うっわあ!?」

「キシャアアアア!!」

公園の地面に座り込み、ヴォイドに威嚇されているのは学校で別れたあの黒井くんだ。
どうして、いつの間に。
いや、驚愕している暇はない。
あのままでは黒井くんは死んでしまう!

「黒井くん逃げて!!」

爪を振り上げようとするヴォイドの気を引くため、出せる限りの大声で黒井くんに呼びかける。

「白戸さん……!」

目を見開いてこちらを見る黒井くんのもとへ全力で走る。
手首を掴んで起こし、突然現れた私を警戒しているヴォイドから出来うる限り距離をとる。
この時点で息切れしかけているけど、全くまだまだ安心はできない状況のままだ。
猫のヴォイドならスピードや跳躍力が抜群だろう。
物凄くピンチだ。

どうする、どうする。
全くなにも、これっぽっちも考えずに出てきてしまったから、作戦なんてない。

黒井くんを守るために、どうしたらいいか……!

「白戸さん、ありがとう」

黒井くんの手首を掴んでいたままの手を、もう片方の手で優しく包まれた。

「黒井くん……まだ安心できないんだよ」

どういうつもりだ、と思わずヴォイドから目を離し黒井くんを見た。

黒井くんは笑っていた。

「ありがとう、守ってくれて。俺は大丈夫だから、白戸さんは逃げて?一人なら、今なら逃げられるでしょ?」

笑いながら、この人はなんてことを言うのだろう。
見捨てろと言うの?私に君を?
資格があるくせに変身のできない魔法少女が、クラスメートの人を、一人。
これ以上の無様な真似をするなんて、笑い話にもなりはしないでしょう。

キッと黒井くんを睨んだ。
私の八つ当たり混じりの睨みだ。
それを受けた黒井くんは、先程とは違う何かを含んだ笑顔を見せた。

「元気になったみたいだね」

「うるさいんだけど。一人で逃げないから、逃げるなら一緒に!」

騒がしくしたからだろう、ヴォイドはそれをこちらの威嚇ととったのか、唸り声を上げる。

真っ直ぐにそれを見据えた、その時。
ブレザーのポケットから、熱を感じた。

まさか、まさか、まさか。
疑問も複雑な思いも、色々あった。
けれど、これで彼を守ることができるという喜びが強かった。

黒井くんを守る。
ポケットから出した宝石に、想いを込める。
世界とか、平和とかじゃなく、身近な彼を守る力を。

光に包まれて、目を閉じる。
大きな願いの力に押し潰される不安もない。
歪だけど、しっくりとくる柔らかな願いを身に纏った。

「……澄み渡る白へと導く、純白の魔法少女。クリア・リリィ」

久々の変身に少し恥ずかしくなった。
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