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夕暮れの放課後
真っ白なスケッチブックには、どんな色彩でも似合うのだろうか。
※
苦しみ、悲しみ、身体中が叫ぶ痛み、そして心に広がり、骨まで染み渡る悔しさ、怒り。
少しずつ霞み、滲んでいく色彩を見つめながら……私は確かに願っていた。
絶対に裏切らない、私の味方を。
※
下書きのされていない、ぼんやりと色だけ塗られたスケッチブックの一ページ。
暗い色に染まっていたそれは、元の色に重ねてゆっくりと確実に、新たな色によって鮮やかに一面を塗り替えていく。
筆が止まる。
自分以外はいない美術室は、それだけで音が消えた。
「……足りない。」
思うがまま、なんとなく色を付けた一ページ。
ただの気分転換で描いたものだけど、今までのどれよりも自分らしさが出ている気がした。
だからこそ、この物足りない何かにひどく腹が立った。
夕暮れのような赤も、空のような青も、森のような緑も。
主に使うような色を使っていないからか。
でも仕方がない。
私は絶対にその色を使って描いたりなんか、もうしたくないから。
もう今日は止めようと決め、画材を片付けて、美術室の電気を消し、帰る準備をする。
鍵を閉めたところで、教室に忘れ物をしたことに気付いて仕方なく、仕方なく取りに向かう。
ぼんやりと歩く自分は、本当にあの絵のようだと、これまたぼんやりと思った。
輪郭すらない、形すらない、滲んだ色を描いた絵。
目標のない、夢のない、なにもかも無い自分。
前のようにはもうなれないと、強い意志を持っていた過去の記憶がうっすらと顔を覗かせる度に絶望する。
廊下を照らす夕暮れの光に顔を顰めた。
あの人たちを思い出すから。
少し早歩きをして、教室についた。
廊下側の一番後ろが今の私の席で、窓側がいいと思っていたけどこの瞬間だけ楽でいいなと感じた。
忘れ物を机の引き出しから取り鞄に入れた瞬間、まさに反対側の羨ましい席にいた彼がこちらを見ていることに気付かされる。
「あれ、白戸さん…? まだ帰ってなかったんだ」
存在には気付いていたけど話す仲でもないからスルーしていた人に話しかけられた。
ちょっと気まずい。
「黒井くんもいたんだね。部活かな?大変だね、また明日ー」
当たり障りのない返事を早口気味に返して教室を去る。
……去ろうと、した。
「なにかな黒井くん。私、見たい番組あるから間に合うよう急いでるんだけど」
反対側にいた黒井くんはいつの間にか私の腕を掴めるまでの距離にいた。
人間のスピードなのかこれは。
「白戸さん冷たいなあ。ちょっと前まで俺のことすっごく見つめてきてたのに」
「転校生が珍しかったからかな、そんなに見てたんだごめんねさよなら」
当たり障りのない返事(二回目)をしながら、お前が最低最悪の時期に転校してきて紛らわしかったからだと脳内で反論する。
それにしてもなんなんだこいつは。
今まで接点なんてクラスメート以外で何もなかったのに。
馴れ馴れしいな。
「……まあ、いいや。無事に間に合ったらいいね」
謎の間があったけど私の腕を離した黒井くんから高速で離れた。
じりじりと後ずさりながら警戒した私を見て黒井くんは心底楽しそうな顔をしていた。
何が儚い系美少年だ。
持て囃していたクラスメート女子を脳内で罵りつつ全速力で学校から出た。
そして近所の公園付近。
私の目の前には滑り台を越える大きさの化け物がいた。
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