ファンタジー世界で美少年マスターができました!
柊まどか。十七歳の女子高生。
ファンタジーな世界で美少年に仕えています。
綺麗なものが大好きな花も恥じらえ!ちょっとオタクな女子高生です!
今、自己紹介をするならこんな感じにしかならない。
うん、できない。
女子高生というポイントを強調しなければ自分のプラスな所は後はさして特筆するところはない。
洋風な屋敷、洋風な服、窓の外には巨大遊園地のショッピングエリアのような街があり、街灯に照らされた道、はみ出るフランスパンの入ったブラウンの紙袋を抱えて歩くご婦人がそこを通って行く。
なんと平和なことか。
とくに何の使命もなく、自らの意思に反して突然この世界に来た私。
生きて行く術もなく野垂れ死ぬのではないかと不安になった異世界一日目。
老舗のようなパン屋のお婆さんに媚を売り、住み込み従業員を狙った異世界一日目の昼。
なんやかんやあり、パン屋に現れた美少年に引き取られ主従契約を結んだ異世界一日目の夕方。
……なんと濃い一日目だろう。
今、異世界一日目の夜である。
しかし、まあ。
なんやかんや私は異世界で生きていけているな。
文字の読み書きの練習の必要はあるけど、会話が出来る分、良いものだ。
「まどか、ここにいたのか」
幼さの残る少年の声に振り向く。
さらさらなのに、寝癖だろうか?毛先が跳ねた銀髪。
瑞々しい苺のような赤い色の大きな瞳は、それに対して可愛らしさなど捨てた怜悧な大人のようだった。
美しいという表現が似合う美少年。
中学生くらいの美少年。
なんとも理想的な……!
しかし実際は二十歳の男である。
思わず目が遠くなってしまう。
なんて詐欺だ。
「なんですか、マスター?」
そんな彼が、私の主人だ。
***
朝。
身支度をして部屋を出て、小柄なその後姿を見つけて走り、抱き締める。
「マースーター!あああ、癒やされる!心が洗われていく……!」
ファンタジーな世界は正しくファンタジーな世界で、魔物からなにやら色々なファンタジーのお約束が存在していた。
そして美少年マスターと結んだ主従契約もファンタジー的なものであったようで似たような主従と対立したりちょっとした少年漫画的な展開があったりもした。
今までのは仮契約だったようで、親密度の上昇により本契約が可能だと、何だか凄い契約までした私たち!
そんなことがあり、私は美少年マスターが大好きになった。
この世界に来て一年は経つだろうか、私はマスターより綺麗な人を見たことがない。
今日も今日とて私のマスターは素晴らしい!
「まどか、今日はあの馬鹿主従が来るから落ち着いていてくれよ」
「知ったことか!私はマスターで癒やされなければ元気でなくて力使えませんからね!」
そんな軽口を叩く私が引っ付いた状態のままでマスターは廊下を歩く。
その小さな身体に私を引き摺る力があることはやはり驚きだ。
バンッと衝撃音をたてて目の先にあった扉が開いて若い男が二人、姿を現わす。
話題に上がって早々に登場。
噂の馬鹿主従のお二人だ。
「やあ、おチビさん。元気に少年らしくしているかい?」
一歩踏み出したのは、美少年マスターのライバルを自称する金髪に緑の瞳の何だかチャラそうな馬鹿野郎である。
こちらが主人。
「まどか!久しぶりだな、早く遊ぼうぜ!」
後ろに控えているのは猫耳に猫しっぽ付きの、見た目は我がマスターと同じくらいの黒髪に青い瞳の少年。
こちらが従者。
「やっぱり帰れ」
「痒い痒い!私さ、猫アレルギーだから!尻尾寄せないで!近い!」
こんな二人はこんなでも魔物をバッサバッサと倒しまくる実力派主従だ。
「なあ、やはりウチのこいつとまどかちゃんをさ……」
コソコソとマスターに何か言っているライバルマスター。
眉を寄せるマスターは、何か気にくわないことを言われたのだろう。
「断る。まどかの『主人』は俺だからな」
「お前、もしかしてそういう意味で主人だったわけ?」
内容は聞こえないものの雰囲気を読み取り、いつ止めに入ろうかと伺っていた私をチラリと見たライバルマスターはドン引きした様子でマスターに何か言った。
何だあいつは。
猫従者やめろ痒い。
暇ならお前のマスターのとこに行って話の邪魔でもしてきなさい。
「あの子、文字の読み書きは幼児レベルじゃなかったっけ?」
「ああ、書類はちゃんとまどか自身が書いたからな?自分の名前を」
冷や汗をかくライバルマスターに、笑顔を向けたマスター。
本当にどんな会話をしているのか。
「なあ、リーダー。こういうの腹黒って言うんだろ?」
突然何を言う猫従者!?
びっくりして猫従者とマスターたちを交互に見る。
ライバルマスターは正にヤバいと顔で現わして、お前には聞こえてたか、と近づいて来る。
全く状況がわからない。
猫だから聞こえていたのかマスターたちの会話が。
こちらに来たライバルマスターが私の肩を掴む。
「まどかちゃん。君、知らない間に人妻にっ、痛!!」
ライバルマスターの横腹を後ろからマスターが勢いよく蹴りを入れた。
何を私に伝えようとしたのだろう。
蹴りを入れたマスターはゴミを見る目でライバルマスターを見ていた。
「まどか、こいつらは帰るからお前は部屋に戻ってろ」
お気に入りのパン屋のクッキーがあるから、と言うマスターは世界の善の心を集めたような笑顔を浮かべていた。
それだけで心が満たされた私は速やかに挨拶を述べその場を去った。
***
「全く、まどかが俺の嫁だとわかったならさっさと帰れ」
「あーあ、もう。まどかちゃんの可能性は俺の従者に良いと思ったけど、そうなってんなら仕方ないな」
「んー。またな、まどかのリーダー」
客が帰るのを睨むように見つめ、姿が見えなくなると踵を返し、屋敷へ入る。
「まあ、俺の年齢を忘れかけてるあいつも悪いな」
銀髪の男はクッキーを食べて待つ妻を想い、微笑んだ。
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