Facebook COOシェリル・サンドバーグの「夫を失った悲しみを“ハック”する」方法

フェイスブックCOOのシェリル・サンドバーグが、愛する人を失う悲しみにどう立ち向うかをまとめた著作『Option B』を刊行した。自身、2年前に突然夫を亡くした彼女に訊いた、いまの想い。

TEXT BY SEAN GALLAGHER
TRANSLATION BY TAKU SATO, HIROKO GOHARA/GALILEO

WIRED(US)

シェリル・サンドバーグ

PHOTOGRAPH BY MATT ALBIANI

2015年5月、夫であるデイヴ・ゴールドバーグの突然の死を前に、フェイスブック最高執行責任者(COO)のシェリル・サンドバーグは誰もがそうであるように悲嘆に暮れた。だが、その後彼女が取った行動は、いかにもシリコンヴァレーの人らしい“問題解決”だった。彼女は答えを探し求め、あるビジネススクールの教授に支援を求めたのだ。

悲しみを“ハック”する

その教授とは、ペンシルヴェニア大学ウォートン・スクールで組織心理学を教えるアダム・グラントだ。サンドバーグにとって、彼は友人であるだけでなく、自分の直面している状況について、データに基づいた洞察を与えてくれると思える人物だった。

「デイヴを失ったとき、わたしは子どもたちの幸せが打ち砕かれてしまうことをとても心配しました」と、サンドバーグは語る。亡くなった夫は当時47歳で、アンケートサーヴィスを提供するSurvey Monkey(サーヴェイモンキー)のCEOを務めていた。「わたしはアダムに尋ねたのです。『わたしは何をすればいいのでしょう? わたしのすべきことを教えてほしい』、と」

グラントは、サンドバーグが答えを見つけ出せるように支援し、彼女の新著『Option B』の共著者となった。逆境に立ち向かうことと、立ち直る力を身につける方法をテーマとしたこの本は、回顧録でもあり、科学的な解説書でもある。サンドバーグは、技術的な困難を解決するハッカーのように、辛く痛ましい経験を、人々の役に立つものに変えたいと考えているのだ。

グラントはサンドバーグに対して、ある長期研究の話をした。片方の親を失ったにもかかわらず、幸せな子ども時代を過ごし、精神的に安定した大人になった人たちについて調べたものだ。

「この研究の話はとても役に立ちました。誰かの死は、コントロールを完全に失ってしまうような感覚を伴うものです」と、サンドバーグは言う。「夫の死に対してどうすることもできない、という感覚が突然沸き起こりました。たとえその死が突然ではなくとも、この感覚を止めることはできません」

それは、地位があるからできる?

『Option B』は、サンドバーグの家族が友人たちとメキシコを旅行していたとき、ジムのフロアに倒れている夫を発見するという恐ろしい体験談から始まる。その後、夫はまもなく死を宣告されることになる。

最終章に、サンドバーグは「To Love and Laugh Again」(愛と笑いを再び取り戻すために)というタイトルを付けている。そこで彼女が語っているのは、女性が再びデートをしようとするときに直面する苦痛と、いまも根強く起こるダブルスタンダードについてだ。

本で描かれる、逆境に苦しむ人たちの話には確かに心を動かされるが、注意すべき点もある。「克服すること」を強調するなかでその責任を個人に負わせるあまり、克服できないことを個人の失敗だとみなしているように感じられるのだ。社会から取り残されて疎外感を感じている人たちが圧力に対抗しようと懸命に取り組んでいる話や、たとえ負けるとわかっていても、毎日のように世間の圧力と粘り強く闘っている人たちの話がもっとあればよかったとわたしは思う。性や人種による差別や貧困が不運な出来事を拡大することを、サンドバーグは間違いなく知っているはずだ。だがこの本では、そうした認識は、人々が毎日戦わなければならない社会体制的な現実としてではなく、個々人のエピソードのように扱われている。

ゆえに、サンドバーグが悲しみを克服する過程で自由に得られたさまざまなリソースが「特権的」にみえる場合もある。たとえば、サンドバーグと子どもたちは、イーロン・マスクから招待を受けて、彼が開発している宇宙ロケット「スペースX」の打ち上げを見学させてもらったりしている。

どう接してほしいか?

ある箇所で彼女は、悲劇に見舞われて間もない人に話しかける方法について詳しく語っている。彼女が何度も繰り返し書いているのは、人々は、悲惨な体験をした相手にその体験を思い出させないようにしたがるということだ。

だが、サンドバーグは、自分が他人にそのような態度を取られたくないと思っていることに気づいた。「そうではなく、『今日の調子はどう?』と尋ねてくれた人々は、わたしが一日一日を何とか乗り切るだけで精一杯であることへの共感を示してくれていたのです」と彼女は述べている。

そうしたアドヴァイスにもかかわらず、わたしは、カリフォルニア州メンロパークにあるフェイスブック本社を訪れ、会議用テーブルを挟んでサンドバーグの向かい側に座ったとき、若干の勇気を必要としていることに気づいた。体の前で両手を組んでいる彼女に、何かこの世の人ではないような雰囲気が感じられたからだ。だが意を決して、わたしは彼女に尋ねた。「今日の調子は、いかがですか?」

「第2の選択肢」を選ぶ

「わたしは、デイヴが亡くなった2年前より大きな悲しみを感じながら生活しています」とサンドバーグは話した。彼女の夫が死去した5月1日が近づいていた。「けれどもわたしは、前よりも感謝の気持ちが大きくなっています」と、サンドバーグは声を震わせながら語った。

「わたしは自分が生きていることに、そして、ここに座ってあなたと話をしていることに感謝しています。わたしの子どもたちと、一日一日を生きてこられたことに感謝しています。大きな意味を感じています」

夫がもはや子どもの学校の行事に参加できなくなった悲しみを、サンドバーグが友達に訴えたとき、その友人は彼女をハグしながら次のように答えたという。

「オプションAはもう選べない。だから、オプションBを大いに楽しもうよ」

フェイスブック社内には、この言葉を印刷したポスターがあちこちに貼られている。

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