1960年代の日本の風景をポップに表現した『ひよっこ』のタイトルバック。ミニチュア写真家・田中達也さんの世界に映像監督・森江康太さんがCGで動きをプラス。番組スタッフもアイデアを出しながら作り上げました。日常にあるものを別のものに“見立てた” ユニークな世界の魅力&繊細なCGのみどころをたっぷりお届けします。
1960年代の日本の風景をポップに表現した『ひよっこ』のタイトルバック。ミニチュア写真家・田中達也さんの世界に映像監督・森江康太さんがCGで動きをプラス。番組スタッフもアイデアを出しながら作り上げました。日常にあるものを別のものに“見立てた” ユニークな世界の魅力&繊細なCGのみどころをたっぷりお届けします。
レトロポップを意識したかわいらしいオープニング。お菓子の缶や瓶、キャンディーでビルの街並みを表現しています。
ビルに見立てた菓子箱の上に、「ひよっこ」と書かれた看板を発見。実はほかにも「うず潮」や「おはなはん」など、1960年代の連続テレビ小説のタイトルが書いてある看板が隠れています。よーく見て、探してみてください!
靴ブラシを稲とおだ木(※)に見立てる演出も。右上にある運動靴は、劇中でみね子が履いていたもの、床面は谷田部家の土間と同じ素材というように、ドラマとリンクしている小物なども散りばめられています。
※収穫後、束ねた稲を天日干しするためのもの
田中さんの“見立て”の世界では、何らかの関係がある小物を使います。例えばこのシーンにある小物は、すべて洋服に関係するもの。手前に広がるのは洋服の野球広場。野球のベースを洋服のボタンで表現し、後ろの電柱と電線には針と糸を、電車が通る線路にはファスナーを使っています。
“見立て”の世界を精密な撮影が出来る特殊カメラでコマ撮りをしたあとからが映像監督・森江さんの作業。人や車など動くものをCGで足すのです。人の動きをデジタル的に記録してコンピューターに取り込む“モーションキャプチャ”で、膨大な数の人の動きを作りだしていきました。よく見ると同じ動作をしている人がいないんですよ。
最後の「東京タワー」の場面は、田中さん、森江さん、美術&照明スタッフなど、みんなでアイデアを出し合って準備、撮影をした苦心の末の力作。東京の広大な街並みを表現するために、画面奥に小さなマッチ箱を大量に配置。夕景を表現するため、照明を当てる角度にもこだわりました。特に東京タワーは、大きな空の瓶に赤いマニキュアで色を塗り、中に紅茶やお茶やコーヒーを入れるなど試行錯誤し、東京タワーっぽい色合いになるように追求しました。
このシーンはそれまで横から見ていた人の目線を、真上からに変えています。湯気が近づいてきたり、目の前を鳥が飛んでいったりと、自分も物語の中にいるような臨場感を楽しめる工夫が施されています。
コッペパンの新幹線が登場する場面。ここでもトースターやバターナイフなど、パンと関係がある小物を選んでいるそうです。
実際に使われていたラジオ(1960年代当時のもの)を分解し、その内部をラジオ工場に見立てています。中で働く人々の動きもリアル!!
このトランジスタラジオは、撮影後にスタッフがきちんと元の状態に戻し、ドラマの中で使われたそうで、第6週のあるシーンに登場予定。お楽しみに!
日が暮れたり、町に明かりがともっていく演出は、森江さんの発案。車のライトや新幹線の窓など、細かな部分の明かりの変化もCGで作っています。
これまで「昭和の日本の風景」を“見立て”で表現したことはなかったので、僕にとっても初の試みでした。最初はどうアイデアを出していくか悩んだりもしましたが、森江さんやスタッフの方々とプランを出し合うことで、自分の想像を超える作品を作ることができました。視点を変えたり、町の景色を朝から夜にしたりなど、森江さんの提案は自分一人では思いつかないものばかりでおもしろかったですね。
【プロフィール】
田中達也(たなか・たつや)
ミニチュア写真家。2011年から、日用品とジオラマ用人形を使った作品を「MINIATURE CALENDAR」としてネットで発表。
田中さんの作品には、見た人を“はっ”とさせるおもしろさがあります。そんな田中さんの作品の世界観が今まで以上に魅力的に映し出される映像作品にするために、CGというツールを使ってサポートさせていただきました。こういう形でコラボレーションをしたのは初めてだったので、ふだんは使わない筋肉を使わせていただきながら、すばらしく見事な化学反応が起こった作品に仕上がったと思います。
【プロフィール】
森江康太(もりえ・こうた)
映像監督、CGアニメーター。NHKスペシャル「生命大躍進」やミュージックビデオ、テレビCMなど、多種多様な3DCGディレクションで注目を集める。