社説ボイメンのつくりかた こどもの日に考えるウソがホントを蹴散らすような、おかしな時代。「大丈夫、信じていいよ」と断言できる大人でいたい。こどもの日。健やかな未来を願う、おとなの日。 「大人を信じていいの?」−。 千葉女児殺害・遺棄事件を報じる新聞の見出しが、わが身に突き刺さるようでした。 識者は語る。「人を信じることをやめないで」「信頼できる大人は常に近くにいます」 そうに違いありません。でも、どこに。 学生時代にはやった歌を思い出しました。 ♪なんて悲しい時代に生まれてきたんだろう/信じれるものが何ひとつないけれど/せめてお前だけは…。 永井龍雲さんの「悲しい時代に」。悲しい時代は、未来に続いていくのでしょうか。 心が折れそうになる中で、ふと目に付いたのが、一冊の本の表紙の写真。タイトルは「夢は叶(かな)えるもの!−ボイメンを創った男−」です。イケメン男子に囲まれて、映画スターのジャッキー・チェンを少しごつくしたようなオジサンが、屈託なく笑っています。まるで本物の子どものように。 ボイメンを見いだし、育てたプロデューサーの谷口誠治さん(57)=写真中央。その笑顔に、なぜか会いたくなりました。 ともに見る夢があるボイメン。「BOYS AND MEN(ボーイズ・アンド・メン)」は、東海地方出身、在住の男子ばかり十人からなるアイドルユニット、つまりグループです。 七年前に名古屋で結成。昨年暮れに発売されたアルバムが、初登場でオリコン・チャート一位を獲得し、レコード大賞新人賞を受賞した。年明けには、日本武道館の単独ライブを成功させました。 もはや押しも押されもしない全国区。ジャニーズ系と人気を争うようにさえなった。それでも彼らも谷口さんも、東京に拠点を移すつもりはありません。 「名古屋から全国、そして世界へ」。それが彼らと谷口さんが、ともに見る夢だから。「ありえへん」と言われ続けた夢だから。 単刀直入に、聞いてみました。 「どうすれば、信頼される大人になれますか」 谷口さんは少し困ったような顔をしながら、丁寧に答えてくれました。 「“一緒に夢をかなえようぜ”。そんな思いを強く持つ大人がいることを、まず見せなあかんと思うています。あとさきなしにゴールに向かって走る姿勢を、ぼくが最初に示す。ビジネスなんかあと回し。思いをきちんと伝えられれば、信頼のきずなも見えてくる。不言実行あるのみです」 若い世代に大人の夢を押しつけない。夢をかなえる手段にしない。今はやりの「寄り添う」ではなく、同じ地平にともに立ち、ともに大地を踏み締める。一歩も二歩も先を行く、大人としての気概を見せる。 昨年秋、かつて、プロのローラースケーターだった谷口さんは、ボイメンの主演映画のヒット祈願と武道館ライブのPRのため、東京−名古屋三百六十キロを、インラインスケートで走破した。 「夢はかなう。かなわないのはすべて自分に原因がある。そう思うと力がわいてくるんです」と、谷口さんは笑います。 大阪出身の谷口さんは、こんなことも言っています。 「ぼくの原点は、寛美さん」 藤山寛美。松竹新喜劇を率いて関西から東京へ攻め上り、日本中を笑いに包んだ不世出の喜劇王。 笑わせて、ほろりとさせて、幕切れはハッピーエンドの人間模様。「あんさんも、おきばりやす」と、元気をくれた。 小学二年の谷口少年も「こんなおもろい大人になりたいなあ」と憧れた。 おもしろい大人になるそうだ。信頼できる大人の不在を嘆くくらいなら、自分自身がそんな大人になればいい。ボイメンを創る人にはなれずとも、次の世代に伝えていきたいものが、誰にでも一つや二つはあるはずです。 “昭和の不言実行”が、“平成の子どもたち”にも、おしなべて通用するかどうかはさて置いて、とりあえず“私自身”の思いをのせて、こいのぼりを揚げてみよう。五月の風に泳いでみよう。 PR情報 |
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