Tinderはワンナイト、CMBはおつきあいのためのアプリ
24歳になった娘には、幼稚園の頃からの親友が何人かいる。
わが家に遊びに来ていて、私ともざっくばらんに話をする仲だ。
そのひとり(ここではAと呼んでおく)が、先日娘と一緒に遊びに来た。みなイギリス文学のファンなのでイギリスの朝食風のブランチを作って5時間ほどおしゃべりを楽しんだ。
話題は英文学の古典から歴史ロマンス小説に飛び火し、恋愛観から現代若者のデート習慣に移った。
高校時代から同じボーイフレンドとつきあっている娘はこの分野に疎いので、恋愛経験が豊富なAに「どうやって出会うの?」と尋ねてみた。
Aは「デートアプリ」と即答した。でも、有名なTinderではなく、「Coffee Meets Bagel(CMB)」だという。耳にしたこともない名前だ。
Tinderについては、以前この連載でも「一夜限りでOK? アメリカの若者たちの恋愛事情」として「hook-upカルチャー」を広めたデートアプリとしてご紹介した。Hook-upとは単発的・短期的な性的関係のことだ。
そこにも書いたが、利用者はたいてい写真だけを見て、気にいらない人を左に、気に入った人を右にスワイプして仕分ける。
慣れてくると、好き嫌いを決めるのに1秒もかからない。外見重視だから、会話を楽しむ深いおつきあいよりも、ベッドイン目的の出会いになりがちだ。そんな出会いに疲れてしまう若者たちがいても不思議はない。Aもそのひとりだった。
Aがそんなデートアプリの愚痴を言っていたとき、女友だちが「女性にフレンドリーなデートアプリなのよ」とCMBを紹介した。「Tinderは遊び(hook-up)のためのアプリ、CMBはおつきあい(dating)のためのアプリ」だという。
ぱっと見ただけの印象で決まるTinderの場合、クールさやセクシーさをアピールするために本人らしさがわからない写真が多い。
だが、CMBの場合は「付き合いたい相手かどうか」を決める情報を重視するので、プロフィールのトップ写真はふだんの本人がわかるような自然な笑顔のものが多い。加えて、仕事、趣味、交友関係を想像できる複数の写真が載っている。
フェイスブックのアカウントでしか登録できないので、共通の友人があれば、それも明らかになる。自己紹介では、身長や人種、職場や出身校も書かねばならないので、素性がある程度わかって安心できる。
また、1日に選べる好みの相手の数が決まっているから、Tinderよりも「好き」の選択が慎重になる。
男性は、毎日正午に21のベーグル(アプリ側がマッチングした女性)を受け取る。それらのプロフィールを吟味し、「好き」か「パス」を選ぶ。
CMBは、その中からさらに厳選した5人を「ベーグル」として女性に提供する。
双方の「Like」がマッチしたら「チャット」ができるようになり、チャットで互いが「会おうよ」と同意したら、ようやく現実でのデート、というプロセスだ。
男性は選ぶのが好きで、女性は好みがうるさい
男性がまず選ぶというプロセスは、男女不平等に感じるかもしれない。だが、これはデータに基づいたCMBの戦略なのだ。
CMBの共同創業者は、韓国系アメリカ人のKang三姉妹。彼女たち自身が、付き合う相手を見つける困難さを知っている若者(現在は30代前半)だ。
従来のデートアプリでは、女性のほうからアプローチするのはたった27%だというデータがある。Kang姉妹は、「男性は選ぶのが好きで、女性は好みがうるさい」という特徴をふまえたうえで、マッチングした男性がすでに自分のことを好きだとわかっていたら、女性もアプローチする自信を持つだろうと見込んだのだ。
Kang姉妹の目論見は正しかったようで、昨年のForbesの記事では、登録者の男女比率は40:60。女性の登録者のほうが多い唯一のデートアプリだという。
CMBのブログによると、ユーザーの96%が大卒で、3分の1以上が修士以上の学歴だ。最も多い卒業大学10校は、ニューヨーク、コロンビア、ペンシルバニア、ハーバード、ミシガン、カリフォルニア大学バークレー校、ボストン大学、スタンフォード、UCLA。都市部にあるトップレベルの大学ばかりだ。
つまり、CMBの典型的なユーザーは「高学歴の女性」だ。タフツ大学卒業後にフルブライト奨学金でエストニアに留学したAもあてはまる。
彼女たちは、仕事や学問で時間がないから精神的にも肉体的にもボロボロになるようなhook-upはしたくない。意義ある関係に発展させる意欲がある人とだけ出会いたい。それが本音だ。
男性ユーザーも、こういう傾向を知ったうえで登録しているのだから、「対等のつきあいができるかしこい女性」を求めていることになる。
「より良い男になる」というモットーを掲げている男性のためのサイトAskMenには、CMBの70%のユーザーが「おつきあい」目的であり、hook-up目的なのは12%でしかないとある。そして、男性視点でも10点評価で9.3点という高評価だ。
「仲介」が好きな女性の心理を活用しているのもCMBのユニークな点だ。自分に提供されたベーグルが、自分より知り合いに向いていると思うときには、譲ることができるという。共同創業者のひとりが現在付き合っている相手も、妹から譲ってもらったベーグルだということだ。
実際に女性は男性をどうチェックするか
実際にどう使うのかAにたずねたところ、「今日のマッチングに返事しなければならないからちょうどいい」とiPhoneを取り出して見せてくれた。
プロフィールを見ながら、3人で「彼、いい感じ。これはLikeね」とか「うわ〜っ。苦手なタイプ」とか、盛り上がった。
たった5つのベーグルをチェックしただけだが、女性ユーザーから「好き」されるベーグルと「パス」されるベーグルはすぐわかる。
●「好き」される男性ベーグル
実直そうでオープンな笑顔の写真をプロフィールにしている
ハイキングやカヤックなどのカップルで楽しめるアウトドアの趣味を示す写真
仕事に情熱を示す写真(研究しているところとか)
読書とか音楽とか共通の趣味がわかりやすい写真
家族と仲良くしている写真
感じが良い友だち数人と仲良くしている写真
知的だけれど、高慢ではない自己紹介
●「パス」される男性ベーグル
恵まれた境遇(白人男性、金持ち)を強調するようなプロフィール写真
筋肉美をひけらかすような写真(上半身ハダカの写真は笑われるだけ)
友だちと飲んで酔っているような写真
女性と抱き合っている写真(実際にあった)
自分がどんなに優れているのかを書き綴った自己紹介
ユーモアのセンスがない自己紹介
ユーモアのつもりらしいが、失礼か不快な表現がある
CMB のアプリには大いに楽しませていただいたが、それは他人ごとだからだ。
今、私がAの年齢だったら、SNSやアプリでボーイフレンドを探す重圧に耐えきれただろうか?
たぶん、無理だったと思う。
「昭和の人間で良かった」とそっと胸をなでおろした。