丁度「憲法改正「2020年に施行したい」 首相がメッセージ」なんてニュースが飛び込んできたので。

基本的に、改憲には賛成だ。現実に整備されている法制度と自衛隊の存在が明らかに憲法9条の理念とそぐわない以上、現実の法か9条のどちらかを修正しなければ法治国家として不健全だというのは当たり前の事実である。そしてアジア情勢が緊迫しつつあるタイムリーな状況で自衛力を放棄する方向に舵を切るのは現実的に言って、また国民の大多数からしてありえない選択である以上、修正されるのは9条にならざるを得ない。

問題となるのは、自衛戦力の保持という現状の追認以上に踏み込んだ改憲が成される危険である。北朝鮮危機のタイミングで改憲を仄めかす時点で賢しいなと思うが、国民が改憲に傾いている内に変えられるだけ変えようという与党の日和見主義が気に入らない。国民に深く考えさせ、その上で改憲を納得させようという意志が全く感じられない。折しも森友問題、行政資料廃棄問題など与党の腐敗や増長が顕在化したこともあり、この政権が改憲を提議するのはやめた方が良いんじゃないか、と思うのは極めて一般的な感覚だろう。

それに、国民がどう思おうが、国際世論はこの改憲をどう受け止めるか、という懸念もある。安部政権の間に安保法政は改定され、スーダンで戦闘による死者を出し、なおかつ日本社会の「右傾化」を指摘する意見はあちこちに見られるようになった。更に間の悪いことに、トルコが改憲によって独裁への歩みを進めた直後である。このタイミングで改憲する事がどのようなメッセージを与える事になるか。特に中国・朝鮮、さらにはアジア諸国にとって、「日本の軍隊所有が公然と認められた」という事実がもたらすインパクトは、国内の我々が予想している以上に巨大なのだ。

最後に、野党、左派が9条に見せる異常な執着の問題がある。9条は現状、法治国家の欠陥そのものであって、これが是正されるべきという意見は右派左派を問わず、国民の間に一定程度存在する意見だ。しかし、終戦以来改憲を掲げる保守自民党と、現状維持を訴える左派革新の野党という、本来の保守/革新から言えば若干奇妙な対立の経緯を持つ日本の政界では、9条そのものがイデオロギー闘争の象徴となっており、9条改憲があたかも「平和」「自由」「民主主義」への脅威であるかのように受け止められる事が多々見られる。これは「改憲反対」という分かりやすい対立軸を作り、支持を集めるスローガンとしても優秀なものだったが、現実の国制を考える際には何かと邪魔をする。

まとめると、私自身の意見は「改憲はいいが自民党、特に現政権が行うのは気に入らない」であって、国際的にも「右傾化」「軍国主義化」のイメージを与えない温和な中道政権が行うべきものだと考えている。しかし、ここで日本に存在する9条擁護=左派のイメージがリベラル派を呪縛し、野党の独自色を保つための不変のドグマと化している以上、自民党以外がこれを行う事はきわめて難しいだろうと結論せざるを得ない。何とも悩ましいものである。