昨日に引き続き憲法のことを書く。
国会・政治クラスタにとっては「何を今更」という当たり前の話をする。(この記事も、基本的には話されてきたことや、メディア報道の焼き直しであることを承知されたい)
まず、教育無償化を憲法に書き込む必要性は全くない。憲法はあくまで権力を縛るものであり、教育無償化を感ずる憲法上の制約はない。
安倍晋三首相の改憲教育無償化について木村草太氏「禁止されているわけではないので、憲法で。改憲しなくたって、教育無償化はできる。なんで、わざわざ。国民投票、1回、850億円かかる。850億円かけて、やらなくてもいい改憲をやるよりは、そのお金を奨学金にしたほうがいいですよね」
— 小川勝 (@ogawamasaru) 2017年5月4日
だから、教育無償化自体は、今すぐ自民党が法案として提出して、財源さえあれば実現可能なのだ。それで終わり、の話ではあるのだが、もう少し書こう。
自民党と高校無償化
そもそも、自民党は民主党政権時代の高校無償化に強く反発していた。高校無償化法案自体もはねつけてきた歴史がある。
その骨子は(1)所得制限を設ける対象を世帯年収700万円以下に絞っても高校生の5割をカバーすることができる。そのうえで、(2)私立高校生の負担を軽減するため低所得者世帯を中心に公私の授業料の差額分を支給する(3)高校生を対象にした返済義務のない新たな奨学金制度を創設する(4)所得制限により単純増税となる世帯への負担緩和措置を設ける――の4点。
その基本的な考え方は、本当に支援が必要な家庭に対し手厚く支援することにある。わが党の試算によれば、2000億円で、これらの効果の高い政策が実行できる見込みだ。これに伴い現行の高校授業料無償化は廃止される。
資源のないわが国にとって、次代の人材を育成する教育は極めて重要だ。わが党が目指すのは世界トップレベルの学力と規範意識を養成し、日本文化を理解し、継承・発展させることができる人材を育成することにある。そのためには、限られた財源を有効に使うことが不可欠だ。
機関紙「自由民主」第2498号掲載より引用
その言葉通り、安倍内閣はその後、高校無償化に所得制限をつける改正案を閣議決定している。
もちろん、自民党の対案自体には検討の余地がある。所得制限をつけるかどうか、というのは国論を二分するような議論に成ったことは記憶に新しい。
しかし、「高校生の五割に対する助成と奨学金の拡充」は、無償化と言うには程遠いものだろう。
更に、いわゆる「教育無償化」とは、高校だけではなく、大学までを含むものである。当然、高校無償化とは比較にならないほどの金額が必要になる。
当然、財源もまだ明確に固まっているわけではない。
過ちを改めるに越したことはないが、なぜ二千億円の教育に対する支出を拒んだ自民党が、このような転換をするのか。一定の説明が必要ではないか。
なぜ大学の無償化に憲法の改正が必要なのか
高校無償化に反対するという意見は、その意見自体に対する賛否はともかくとして理解可能である。
しかし、教育無償化は、憲法改正してからでなくては実施できない、というのは、論理構成的に全く理解できない。
そもそも、理念法としては下記のように憲法二十六条が存在する。
第二十六条 すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
もちろんこれは具体的に無償化を意味しているものではないが、当然、教育を受ける権利が、所得の低さなどによって阻害されているとすれば、それを補助する義務が国に課せられている、と考えるのが自然ではないだろうか。
今こそ大学教育無償化のチャンス
と、いいつつ、実はこのような議論は、教育を変える一つのチャンスであるとも考えている。つまり、改憲のために教育無償化を言い出してしまった以上、自民党としても教育無償化に本腰を入れざるを得ないからだ。
だからこそ、憲法改正よりも先に、実施法を制定するのが筋ではないだろうか。本当に大事なことであるのであれば(そしておそらく大事なことであると思う)、当然法律にすぐ落とし、なるべく早く大学授業料の無償化を実現すべき、という話になるはずだ。
実は、かつて高校無償化制度に深く関わった鈴木寛氏は、いま文部大臣補佐官に成っている。
公立高等学校の授業料無償化 | 鈴木寛(すずきかん)公式サイト
一日も早い実施法の制定を期待したい。
改憲は本筋の議論なのか?
再三述べているとおり、そもそも教育無償化は法律ですぐにでも実施可能である。しかしながら、財源の問題など、まだまだ山積する課題があるからこそ、丁寧な議論の積み重ねが必要なのではないだろうか。
改めて申し上げる。憲法を変えることが自己目的化してはいないだろうか?
「改憲しなくては教育無償化出来ない」というのは全く本筋の議論ではないし、そのような形で大学教育への助成などが十分に行われないのだとすれば、これは本末転倒である。
国民投票にも税金がかかる。国会でわざわざ憲法に入れる入れないの話をすれば、それも税金がかかる。
高校無償化を改正した自民党が賛成に回った以上、教育への予算の増加に反対する党は今のところ無いはずなので、今実施法を提出いただければ、すぐにでも実現する話ではないのだろうか?と申し上げておく。