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サンディスプリングス市との遠隔講義を実施

画面越しに講義を行うMcDonough氏

春学期の木曜日7限に開講している「Global PPP VII(PPP Theory)」で17日、遠隔システムを利用して海外のゲスト講師にレクチャーを行ってもらう特別講義を実施しました。今回の講師は、新しい市の設立と同時に、市役所業務を民間企業に包括委託をしたことで世界的に注目を集めているアメリカ、ジョージア州のサンディスプリングス市のシティマネジャー、John McDonough氏です。以前から来日された際には本専攻で何度か講義をして頂いていますが、遠隔システムでアメリカから講義をして頂くのは今回が初めてです。

冒頭、担当教員よりサンディスプリングス市の設立や民間委託の背景、委託の効果、契約形態や事業者選定手法の変化の説明に加え、同様手法の拡大可能性や批判等について話題提供をしてあらかじめ理解を深めた上でMcDonough氏と接続しました。当日の講義は履修者以外の院生、修了生にも公開して行われ、現在スイス・ジュネーブの国連PPP推進局に出向している本学職員も飛び入りで参加しました。授業の様子は以下の通りです。


John McDonough氏
PPPモデルで市を運営し始めて8年たちました。設立当時は、ご存じの通り一つの企業(CH2M Hill)と契約を結んでおり、当時の契約金額は約2500万ドルでした。2011年にCH2M Hill社との契約が切れる際に、市は再度入札にかけて民間の競争を促したほうがいいと考えました。この準備には1年ほど費やしました。今は5社がサービスを提供しています。
専門に特化した企業がサービスを提供する事により、サービスの向上と委託費用の削減(年約700万ドル)の削減につながっています。この契約は、2016ないし2017年まで続きます。2017年には再度、入札を行う事になると考えています。

視察を受け入れていると、もっとも聞かれることの一つが、既存の自治体にどうやってこのようなモデルを適用するかということです。新しい市を設立する際にはこのモデルが有効なことは我々の経験から明らかですが、既存の市においてはステークホルダーがいて、この人たちが変化を許容しない事が課題です。多くの市(伝統的な市)であっても、アウトソーシングは一般的に使われているにもかかわらずです。
そこで私が強調するのは、民間委託の成功事例は数多くあり、リスクが低減されているということ。これにはアメリカでも時間がかかりましたが、成功事例が増えたことでいまでは多くの自治体がPPPによる自治体運営を検討しています。
また、既存の自治体運営とアウトソーシングのモデルのどちらがコスト効率が高いかを検証する必要があります。このためには、実際に民間企業を選ぶためのプロセスを組み立てる必要があります。市長や議会の理解の元で質の高いRFP(募集要項)を作成することが何よりも大切です。そこで業務範囲や受託企業に求めている物を明確にし、伝統的なモデルと比べるのです。これによってサンディスプリングス市は(市設立前の試算の半額以下というCH2M Hill社との契約からさらに)毎年700万ドルも経費を削減することができました。
最近は全米の多くの自治体が年金や退職者の福利厚生など長期債務の問題に直面しています。アウトソーシングの最大の利点の一つは長期債務を自治体が抱え込まないことです。もう一つ検討すべき事は、周辺の他都市との連携です。私た講義の様子ちは、緊急通報システムのシステムを立ち上げて民間委託していますが、これは周辺の四つの自治体と協働で実施しています。これによって、自分たちだけでは実施できないようなサービスを安く実施することができています。アウトソーシングをする際に似たような悩みを抱える近隣市と協働することは非常に有効です。

現時点では、民間企業から受けているサービスに非常に満足しています。今後、2017年に再度競争にかける時の事を検討することになりますが、業務範囲の設定や評価の仕方は現時点でかなり完成度が高いと自負しています。今後も、質の高い民間企業が参加意欲を持ってもらえる環境を維持したいと思っています。前回の選定の際には、当初はCH2M Hill社以外にはこの業務はやれないと考えられていましたが、企業と様々な対話の機会をもち、公平でオープンな競争環境を整備しました。

--小さな企業には受注チャンスがありますか。
 小さいというのがどういう定義かにもよりますが、現在契約している5社のうち、2社は年間売上が300~500万ドルの規模です。他の3社は数十億ドル規模の会社です。サンディスプリングス市においては、RFPに書かれた業務を遂行する能力が十分にあり、財務が健全な企業で、銀行からの信用もあれば成功を納めています。

--委託費が抑制できた分の予算は何に使っているのですか。
私が生活の質を上げるための配当(Quality of life dividend)と呼んでいる、コミュニティへの還元を実施しています。抑制した分は地域の開発に使われているのです。毎年2300~2500万ドルを充てている投資的経費の一部は効率的な行政運営から捻出されています。
地域開発の為に優先順位に基づく予算付け(Priority based budgeting)という予算編成システムを2006年以降実施しています。ここ数年でこの予算編成手法は全米に広がっていますが、私たちはその先駆者です。これは、市長や市議会議員が毎年1月に開催する戦略的な開発の為のワークショップを通じて地域開発における優先事項を洗い出し、市の職員がこれらの優先事項に沿った予算編成を行うものです。サンディスプリングス市の優先事項の代表例は、公園・レクレーションと交通部門です。
また、現在取り組んでいる新しいPPPによる開発の完成予想図で、「シティセンター」プロジェクトの一部も委託費の抑制などで積み立てた基金からまかないます。このプロジェクトは市役所、劇場、会議場、公園や民間の商業、業務、住宅開発を合わせた巨大プロジェクトです。市の投資額は2億5000万ドルになると寿試算しており、1億500~1億1500万ドルの借入(市債発行等)を行い、残りは基金などから支払われます。

--フルトン郡で新しく生まれた自治体に対して、富裕層が貧困層を切り捨てているという批判があります。
その批判は的外れです。これまで私は富裕層の住む町から貧困層の住む町まで5つの自治体でシティマネジャーとして仕事をしてきました。どんな自治体であれ、重要なのはその自治体の優先事項に沿ってどれだけ効率的に自治体を経営するかという視点です。問題を抱えている自治体の多くは、市役所機構が、公共サービスを提供するという本来の目的の為ではなく、単に雇用を生むことだけを目的に漫然と存在しています。サンディスプリングス市が目指しているのは市民の税金をできるだけ効率的に使い、質の高いサービスを提供することです。
サンディスプリングス市はいまでもフルトン郡の中に位置していて、たとえば市民が1000ドルの税金を払った場合、サンディスプリングス市には約13%、54%はフルトン郡の学校運営、残りは全てフルトン郡に割り当てられます。フルトン郡の政府が受け取る割合はサンディスプリングス市の設立前後で一切変化がありません。サンディスプリングス市が郡の直轄地域だった頃は、現在市が受け取っている13%は「スペシャルサービスディストリクト(SSD)」に割り当てられ、郡の直轄地域へ警察、消防などを提供する予算になっていました。サンディスプリングスが市を作り、警察や消防を自ら行うようになったので、SSDは歳入の総額は減ったかもしれないですが、やらなければいけない仕事も大幅に減っているのです。
サウスフルトンというあまり裕福でない地域がSSDとして残っていますが、彼らも今後数年の間に市になることを選択すると私は考えています。郡のような大きな組織や郡議会の7人の議員だけでは住民のニーズに細やかに対応することはできません。これを変えたいと思うのは当然です。

--富裕層の多い自治体でなければPPPモデルは成功しないのでしょうか。
富裕層の地区でしか機能しないというような批判も間違っています。アウトソーシングは、自治体がリスクとコストを抑えながら質の高いサービスを提供するためのツール、一つの選択肢に過ぎません。メディアなどはすぐに富裕層対貧困層というような対立の図式を作りたがりますが、アウトソーシングは別に富裕層が多い自治体であろうが、貧困層が多い自治体であろうが差別するものではありません。実際に、これまでの伝統的な自治体のサービス提供の仕方とアウトソーシングのモデルをしっかり比較するプロセスを踏まなければ、どちらが効率的かを語ることもできないのです。

--市民の声を聞く方法は。
様々な機会、ツールを使っています。
まずはウェブサイトです。他には各種の政策やサービスに関するパブリックコメントや5年に1度は市民満足度調査を行います。また、オープンハウスと呼ばれるもので、市内にある100以上の自治会とサービスやプロジェクトについて話合いの場を設けています。さらに年中無休24時間市民の声を受け付けるコールセンターも運営しています。月2回の市議会の冒頭と終わりに市民が自由に意見や陳情を述べることができる機会があります。

大学院生の皆さんに最後に言いたいことがあります。たくさんの質問をして、いろいろな人や事例の経験を吸収し、それを活かしてほしいということです。成功の秘訣は、いろいろな人の経験を聞き、それを集めて実際に自分の仕事に活かすことです。私は新しいアイデアには常に懐疑的ですが、同様に常にオープンで、多くの質問をするようにしています。サンディスプリングス市は、設立当初から適切な準備、デューデリジェンスや研究がなされた上に、進取の気性があったために非常にユニークなモデルを成功させることができました。これが市民の高い満足度につながっています。
もし機会があれば、また講義に参加したいと思います。(接続終了)

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現地との接続終了後も、履修生、修了生らで活発な議論が行われました。

サンディスプリングス市による、自治体業務の包括アウトソーシングは世界に衝撃を与え、メディアや行政関係者の耳目を集めています。
この取り組みが非常に先進的であるがゆえに、「富裕層が独立して貧困層を切り捨てるものである」といった批判や、「自治体の職員をリストラするための取り組みである」といった批判がなされることがあります。
東洋大学PPP研究センターは、この取り組みの初期から、継続的に、かつ、市民側、行政側、民間側双方から公平に取材して事実を正確に把握してまいりました。その結果、取り組みの本質は市民が自分たちが求めるサービスをできるだけ効率的に確保する方法の追求であり、行政側も問題が生じたるたびに契約形態を見直したり、職員の雇用方法を見直したりといった継続的な努力を払っていると評価しています。上記の批判は、事実認識が不正確であり、その不正確な認識に基づいて一方的になされているものと考えています。
東洋大学は、学術機関として今後も客観的な評価を伝えて行きたいと考えています。
また、遠隔講義システムを利用することで、世界の最先端のPPP事例について当事者から学ぶ機会を拡大していきます。


【関連情報】

2012年度PPP研究成果報告会 完全PPP都市「サンディ・スプリングス市」近況報告

サンディ・スプリングス方式導入可能性調査 [PDFファイル/17.17MB]

「自治体を民間が運営する都市 米国サンディ・スプリングスの衝撃」(時事通信社)を刊行しました

「PPEAとサンディ・スプリン グスモデル」最新事情報告

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サンディスプリングス市視察レポート

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