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2017 5/4 [Thu.]
サッカーの「攻撃」を分析するためにチェックすべき2つのデータとは?(1)
サッカーに関する文章を読んでいると、「攻撃的サッカー」という言葉を目にします。ただ、「攻撃的サッカー」という言葉を目にする度に、僕はこんな疑問が浮かびます。そもそも「攻撃的」とは、どのような状態を示すのでしょうか。「攻撃的サッカー」とは、どんなサッカーなのでしょうか。
パスを1試合で800本つなげば「攻撃的」なのか。1試合のボール支配率が60%を超えれば「攻撃的」なのか。シュートを20本打ったら「攻撃的」なのか。きちんと定義されていません。
そもそも、サッカーにおける「攻撃」では、何をするのでしょうか。サッカーは、相手より得点を多く奪ったチームが勝つスポーツです。パスをつないだ本数や、ボール支配率や、シュート数で勝敗は決まりません。ボールを相手ゴール方向に運んで、シュートチャンスを作り出し、作り出したシュートチャンスでいかに得点するか。それが、サッカーの「攻撃」です。
では、「攻撃」が機能しているのか、どこに問題があるのかを知り分析するには、どのデータを参考にすれば良いのでしょうか。実はあまり知られていません。
「攻撃」を分析出来る2つのデータ
Football LABには、「攻撃」を分析する時に真っ先に参考にすべきデータが掲載されています。それは、「チャンス構築率」と「シュート成功率」です。
「チャンス構築率」とは、「シュート数」を「攻撃回数」(ボールを保持してから相手チームに渡る、もしくはファウルやボールアウトで試合が止まるまでの間を1回の攻撃とする)で割った数字です。保持したボールを、相手陣内に効率よく運び、シュートチャンスを作り出しているチームは、チャンス構築率が高くなります。
「シュート成功率」は、ゴール数をシュート数で割った数字です。「シュート成功率」が高いチームは、得点出来るシュートチャンスを作り出すのが上手いチームともいえます。
「チャンス構築率」と「シュート成功率」を分析すれば、「シュートチャンスを作り出せているか」、「シュートをゴールに入れられているか」という2点で、攻撃が機能しているか判断出来るのではないかと考えました。
そこで、Football LABに掲載されている「チャンス構築率」を縦軸、「シュート成功率」を横軸にした分布図を基に、J1各チームの攻撃にどのような特徴があるか、分析してみました。分布図内に引かれている太い線が、チャンス構築率とシュート成功率の平均値です。2本の線によって、分布図は4つのエリアに分かれます。各チームがどのエリアに分布されているかによって、それぞれの攻撃の特徴が表れています。
・分布図
右上:チャンス構築率が高い&シュート成功率が高い
右下:チャンス構築率が低い&シュート成功率が高い
左上:チャンス構築率が高い&シュート成功率が低い
左下:チャンス構築率が低い&シュート成功率が低い
・一覧表
※以下の分析はJ1第8節までのデータを基にした分析です。
「シュートチャンスを作り出すのが上手く、シュートを決めるのが上手い」浦和レッズとガンバ大阪
右上のエリアに分布されているのは、浦和レッズとガンバ大阪の2チームです。1試合のパス交換本数が多く、相手を自陣に押しこみ、確実にシュートチャンスを作り出せるチームが、このエリアに分布されます。
浦和レッズは、チャンス構築率が13.0%で2位、シュート成功率が17.7%で1位と高い数値を記録しています。シュートチャンスを作り出すのが上手いだけでなく、得点が決まりやすいシュートチャンスを作り出しているのが、データからも分かります。
ガンバ大阪は、チャンス構築率は10.2%で7位ですが、シュート成功率は17.3%で2位。浦和レッズに比べるとシュートチャンスを作り出す確率は劣るかもしれませんが、作り出したシュートチャンスを、確実に得点しているのが読み取れます。
セットプレーで効率よく得点するヴァンフォーレ甲府とジュビロ磐田
右下のエリアに分布しているのが、FC東京、サガン鳥栖、ジュビロ磐田、清水エスパルス、横浜F・マリノス、ヴァンフォーレ甲府です。右下のエリアには、カウンターやセットプレーでゴールを挙げるチームが分布されます。シュート成功率の高いFWがいるチームも、このエリアに分布されます。
チャンス構築率とシュート成功率がほぼおなじ数字を記録しているのが、FC東京とサガン鳥栖です。FC東京のチャンス構築率が7.7%、シュート成功率が13.9%、サガン鳥栖のチャンス構築率が7.9%、シュート成功率が13.8%です。この2チームの共通点と言えば、マッシモ・フィッカデンティ監督です。FC東京の監督を2014年シーズンから2015年シーズンまで務め、2016年シーズンからサガン鳥栖を率いていますが、FC東京のチャンス構築率、シュート成功率から、現在もマッシモ・フィッカデンティ監督の影響が残っているのが読み取れます。2チームとも、堅い守備で相手の攻撃を抑え、少ないチャンスを効果的に得点するチームです。
ヴァンフォーレ甲府とジュビロ磐田も興味深い数値を記録しています。ヴァンフォーレ甲府は、チャンス構築率が5.4%で18位ですが、シュート成功率は12.3%の5位。そして、セットプレーからのゴールが全体の57%を占めています。
ジュビロ磐田も、チャンス構築率が9.4%で11位ですが、シュート成功率が12.1位で6位を記録しています。要因は、セットプレーです。セットプレーからのゴールが全体の54.6%を占めています。セットプレーでのゴールが多い理由は、2017年シーズンから加入した、中村俊輔がキッカーを務めているからです。
ヴァンフォーレ甲府とジュビロ磐田の2チームは、シュートチャンスを作り出すのは上手くないかもしれませんが、セットプレーからのシュートの成功率を高めることで、得点を増やしています。
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2017 5/4 [Thu.] サッカーの「攻撃」を分析するためにチェックすべき2つのデータとは?(2) ※本コラムは、サッカーの「攻撃」を分析するためにチェックすべき2つのデータとは?(1)の続きです。サンフレッチェ広島と川崎フロンターレに共通する不調の原因左上のエリアに分布しているのが、サンフレッチェ広島、川崎フロンターレ、ヴィッセル神戸、鹿島アントラーズ、北海道コンサドーレ札幌、柏レイソルです。パスはつながるし、相手陣内にボールは運べるのだけれど、なかなか得点が決まらない。そんな印象を受けるチームは、このエリアに分布されているチームです。注目したいのは、サンフレッチェ広島と川崎フロンターレです。実は2チームとも、2016年シーズンから比較すると、シュート成功率が低くなっているチームなのです。まず、サンフレッチェ広島ですが、チャンス構築率14.9%はリーグ1位です。実は2016年シーズンもチャンス構築率の1位は、サンフレッチェ広島でした。サンフレッチェ広島のサッカーを観た人は、丁寧にパスを交換しながら、確実に相手ゴール方向にボールを運んでいくプレーを思い浮かべるかもしれません。ところが、シュート成功率は4.2%とリーグ17位。シュートチャンスは作れているものの、得点につながるようなシュートチャンスを作れていない。あるいは、作ったシュートチャンスを活かしきれていないのかもしれない、といった仮説がデータから推測出来ます。2016年の得点王だった、ピーター・ウタカのFC東京への移籍も影響しているかもしれません。川崎フロンターレのチャンス構築率は、サンフレッチェ広島、浦和レッズに次いで11.6%を記録しています。しかし、シュート成功率は9.6%(10位)と、チャンス構築率と比べると、順位が下がります。ちなみに、2016年シーズンの川崎フロンターレは、チャンス構築率は3位(13.3%)ですが、シュート成功率は2位(12.3%)を記録しています。2017年シーズンは、大久保嘉人がFC東京に移籍し、怪我人も多く、苦しい戦いを強いられています。シュート成功率から、確実に得点出来るゴールチャンスが作れていない事や、大久保が移籍した影響があるのではないかと推測出来ます。攻撃出来るけどチャンスを作れない大宮アルディージャ左下のエリアに分布しているのが、セレッソ大阪、ベガルタ仙台、アルビレックス新潟、大宮アルディージャです。相手陣内にボールを運べず、ボールを失う回数も多く、得点も決まらない。そんな印象を受けるチームが該当するエリアです。注目したいのは、大宮アルディージャです。大宮アルディージャは、攻撃回数は1試合平均128.3回でリーグ7位ですが、チャンス構築率は7.2%で17位。シュートチャンスを作れていない事が分かります。そして、シュート成功率も2.7%で18位。作り出したシュートチャンスも、DFにマークされ、ゴールから距離が遠いといった、決めるのが難しいシュートチャンスで強引にシュートを打っているのではないかといった仮説が、データから推測出来ます。チームの攻撃の良し悪しを判断できる「チャンス構築率」と「シュート成功率」もし、自分がサポートしているチームや、注目しているチームの攻撃について詳しく知りたかったら、まず「チャンス構築率」と「シュート成功率」の数字を調べ、分布図を見て、他のチームと比較してみてください。そのチームが攻撃にどんな特徴をもっているチームか、より深く理解出来ます。そして、「チャンス構築率」や「シュート成功率」の数値が、どんな要因によって成り立っているかを調べるために使用するデータが、パス、ドリブル、ボール支配率、ペナルティエリアへの進入回数といった、各プレーの詳細データです。チャンスを作り出している要因は何か。上手く言っていない要因は何かを知り、より具体的に問題点を把握し、解決策を考える手がかりを得る事が出来ます。「シュート成功率」についても同様です。どのエリアからの、どのような、誰のシュート成功率が高いのか、逆にどのようなシュートの成功率が低いのか。具体的に調べ、「決定力不足」という言葉で片付けられがちな、得点が増えない問題点を把握し、解決策を考える手がかりを得る事が出来ます。サッカーの攻撃について分析しようと考えたら、まず「チャンス構築率」と「シュート成功率」を調べてみてください。より深く「攻撃」を理解する手助けになるはずです。【コラム執筆者プロフィール】西原 雄一2013年10月にブログ「nishi19 breaking news」を開設し、川崎フロンターレ、名古屋グランパス、サッカー日本代表の試合分析記事を執筆。2016年からは、日本スポーツアナリスト協会の広報活動をサポートしている。
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2017 5/4 [Thu.] サッカーの「攻撃」を分析するためにチェックすべき2つのデータとは?(1)
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- 順位表
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勝点 試合 得点 得失 1 鹿島 21 10 13 4 2 浦和 19 10 24 13 3 G大阪 18 9 20 12 4 FC東京 16 9 14 5 5 C大阪 16 9 11 4 6 柏 15 9 12 2 7 神戸 15 9 10 2 8 磐田 14 9 13 4 9 川崎F 13 9 11 0 10 横浜FM 13 9 10 0 11 仙台 13 9 10 -8 12 甲府 12 9 8 -2 13 鳥栖 11 9 12 0 14 清水 11 9 11 -2 15 札幌 9 9 10 -5 16 広島 5 9 6 -6 17 新潟 5 9 7 -9 18 大宮 4 9 3 -14
- 順位表
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勝点 試合 得点 得失 1 横浜FC 23 11 19 13 2 湘南 23 11 16 6 3 名古屋 21 11 21 8 4 東京V 21 11 16 8 5 徳島 20 11 13 3 6 長崎 19 11 17 7 7 松本 18 11 15 8 8 岐阜 18 11 16 4 9 福岡 18 11 12 1 10 大分 17 11 11 1 11 千葉 16 11 12 -2 12 町田 15 11 14 1 13 水戸 15 11 13 0 14 愛媛 15 11 10 -2 15 山形 14 11 9 -2 16 京都 12 11 14 -2 17 岡山 12 11 9 -6 18 熊本 11 11 12 -6 19 山口 9 11 8 -7 20 讃岐 8 11 12 -6 21 金沢 8 11 7 -8 22 群馬 1 11 5 -19
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