古本店と新古本店

古本業界は、新刊を扱う出版業界に遅れること二十年で、同じ道を歩んでいると思われます。ですから、ここ十年間の古本業界の動きを知るには、その二十年前、つまり1990年代の出版界の状祝をみていく必要があります。1970年代から90年代にかけてが大量出版の時代でした。そのピークは80年代で、ここでまさに大量出版全盛時代を迎えます。このとき、古書店は大量出版時代への対応を怠たり、一部の「良質な」本を扱う専門店と、自給自足型の店に分離していきました。専門店は神田神保町などの古書店街を中心に大いに発展します。東京の古書店街は、この神田をはじめ本郷や早稲田など学生街を中心に戦後に形成されたもので、おもにそれらで修業した人々が独立して郊外に出店し、これが自給自足型の店舗になりました。

郊外の自給自足型店舗で売れるのは、おもにマンガや文庫本などの読み物とアダルト系などの「日用品」的な本です。しかし、お客様から買い取る本にはさまざまなものが入っているので、特殊なものは古本市場に出すことになります。市場で取り扱われるのは専門書やコレクション向きの本、古典籍などが中心です。

こうして古書店街の専門店と、市場を通じて専門店に品物を供給する自給自足型の店という役割分担が明確になっていきました。けれども、いまやこうした郊外の自給自足型の古本屋も、新古書店とネット書店の台頭によって、商売を続けるのがかなり難しくなっています。そこで多くの業者が、あとで述べるセレクトショップ型や発見型への業態転換で生き残りをかけています。

専門店が扱う本は、その名のとおりのいわゆる専門書とはかぎりません。それが料理本であっても、マンガであってもかまわない。ともかく、狭い分野の本を掘り下げて集めている店が専門店です。

専門店ではまず、特定の分野の本を集めなければなりません。そのため、むやみに安く売ることはできないようになっています。ほかの商売と違って、古本屋の場合は、同じ商品は一つしかないのが原則です。売ってしまえばその品物はなくなってしまうので、簡単に売れてしまうのも困るわけです。ですから、そこそこの価格を付ける必要が生じます。ここがビジネス上、矛盾したところでもあって、仕入れと同じ速度で売れるくらいの値を付けるのが理想です。

特定の本を集めて高めの値段を付けて売る眉は、あとで述べるセレクトショップ型と似ていますが、本を選ぶ基準は異なります。専門店は、店主の主観によって本を選んでいるわけではなく、外部に客観的基準があるのです。