ここでは、これまでの古本屋業界がどのように形成されてきたのか、そのおおまかな流れをみていくことにします。最初に、出版流通の仕組みについて少しふれておきましょう。まず、みなさんにしっかりと認識してほしいのは、新刊書店の棚に並んでいる本は、すべて出版社の在庫だということです。つまり、古本をナマモノに例えれば、新刊書店の本は出版社がいま現在、取り扱っている、いわばグ生きている本という位置付けです。
一方、本の版元である出版社が「この本はもう売れない」と見限った本や、出版社自体が倒産するなどして版元がなくなってしまった本は、さっさと新刊書店の棚から排除されます。出版社で品切れになっている本も同様で、新刊書店で生きている本としての扱いを受けることはありません。新刊書店で絶版や在庫切れの本をいくら注文したところで、古書店で探してくれと言われてしまうのが関の山です。
言い方を変えれば、出版社がいま現在取り扱っていない本をストックしておく役割を担ってきたのが古書盾なのです。のちに詳述する委託販売と再販(再販売価格維持制度)という制度を陰で支えていたのが、古書店だったのです。
このところ、出版社で絶版や在庫切れになっている古本を入手するのがだんだん難しくなっているという声をよく耳にします。探している古本が見つけにくくなっているのは、なぜでしょうか。そもそも、伝統的な古書店というのは、店の売り場自体は新刊書店に比べるとむしろ狭い場合が多いのですが、その実、パックヤードに巨大な倉庫をもっているケースが珍しくありません。古書店のこの倉庫は、新刊書店で売れなくなった本をいったん保管しておいて、その本の市場のニーズが再び出てきたときに、倉庫から持ち出して市場に流す役割を担ってきました。
しかし、大量出版の時代には、そうした古書店の倉庫は本来もっていたグ本のダムとしての役割を果たせなくなってしまいました。なぜなら、世の中に流通する古本が大量出版されるベストセラー古本と、すぐに絶版になってしまう少部数の古本のどちらかに二極化し、大量出版された本が新古書店を中心に、いつまでたっても市場から消えなくなってしまったからです。
出版から十年二十年を経過しても、ベストセラー本が新古書店の市場から消えることはなく、古書としての価値が復活することはまずありえません。しかし、そういう時代だからこそ、逆に、街の書評家、本のキュレーターといった役割を担ってきた古書店が再び見直されるチャンスもあると思うのです。このところ、ごく一部ではありますが、”古本屋プーム” などといわれているのも、こうしたことと無関係ではないでしょう。