「異常の人生観を持つ作家」大藪春彦とは、「日常から脱出した異常の体験」を共
有した。ケープ・バッファローにチャージされたり、ブッシュの中で迷い、日没まで彷徨したり、ツエツエ蠅や風土病の恐怖などだ。アフリカだけではなく、その後続いたモンゴルやカナダでの際も同様だった。
ロッキー山中で羆を追った時のことだ。
雪道に残った足跡がどうもおかしいと彼はいった。途中で足跡がUターンしているの
だ。う回して元の場所に戻ると雪の上が丸く溶けて窪みをつくっていた。実は私たちの気配に気づいた羆が逆に襲い掛かろうと待ち伏せていたのである。幸いにも羆はすでに立ち去っていたが間一髪であった。
野生動物や銃や狩猟行での危機管理に対する彼の知識は驚くほど豊富だ。常日頃、多くの文献を読み、銃弾まで手作りする程なのだ。冒険の旅で持参する総重量
二〇〇キロもの携行品には、サバイバルに必要な総てが詰まっている。中には野グソ用の携帯便器、お尻洗い用の水を河から汲み上げるバケツまである。浄水器やあらゆるタイプの薬品などなど。なにもそこまでしなくても、とあきれるほどであったが、結局は役にたつものばかりであった。
<以後略>