先日、子ども絡みのイベントで、とある親子と仲良くなりました。子どもが遊んでいるとき、教育の話になり、お母さん(Sさんとします)のほうが子どもが勉強をできないことに悩んでいるということでした。
以下は私とそのお母さんとの会話のざっくりとした内容です。
「子どもが勉強しない! 」
S「うちの子は全然勉強しないんですよねー。困ってて」
私「あら、そうなんですか」
S「宿題はやらないし、先生からは家でも子どもの勉強を見るように言われてます。だから塾に行かせてるのに勉強しないんですよ。お金のムダ」
私「Sさんは子どもの勉強は見れてないんですか」
S「夫も私も平日は遅くまで働いているんですよ。しかも、夫も私も勉強ができるほうじゃなかったから教えられないし」
私「働いているとなかなか時間が取れないですよね。子どもはどこで勉強しているんですか」
S「小学校に入ってからはお姉ちゃんと一緒の部屋にしてます。いつも勉強しなさいって言ってるのにゲームばかりして全然勉強しないんです」
私「できるだけ周りに人がいるところで勉強するといいと聞きますね。うちは夜ご飯食べる前とか後にキッチンテーブルで勉強してますよ」
S「えー、人がいると集中できなくないですか!? うちの子、学校でも寝ちゃってるんですよ。集中力なくて」
私「あらー。夜は何時まで起きてるんですか」
S「子どもですか? 子どもは決まってないですね。10時過ぎかな。父親がその頃帰ってくるから、子どもがはしゃいじゃって、なかなか寝ないんですよ」
みたいな、こんな感じの会話です。
その後聞き出した限りでは、幼児期に絵本の読み聞かせはやっておらず、子どもの勉強を親が見ることもこれまでほとんどやってこなかったそうです。
本人が本当に悩んでいるということだったので、私からはいくつか本をお勧めしてみました。Sさんは「私、本はほとんど読まないんですよー」とのこと。
今のこの状況で子どもが勉強をするようになるのは厳しいなと思いつつ、私が何かする立場でもないので、イベントが終わってその親子とは別れました。
「子どもが勉強がわからないに突き当たった」
翻って、先日話題になったしんざきさんの記事。こちらを読むと、この親御さんの子どもが勉強できるようになるのが当たり前に感じます。
長男が、多分初めて「勉強わからない」に突き当たった話: 不倒城
引用してコメントしていきます。
いつも通り、こういう話を可視化するのも意味があるかなーと思ったので書いてみます。
まず、親が子どもにしていることを言語化できている。
自分が中学受験を体験していないこともあって、私は正直、まだ小4の頃から塾なんか行かなくてもいいんじゃないのかなー?とも思っていたんですが、折角本人がやる気を出しているので、体験入塾をさせてあげたんです。ちょっと聞いてみた感じでは、「学校の勉強よりずっと難しい、けど面白い」みたいな、割と前向きな感想が出てきているようで、ああ悪くないのかな、と思ってたんです。
子どもが勉強したいという気持ちを汲んで、期を逃さずに親が環境を整えている。そして、子どものフィードバックを親が聞いている。
昨日の話です。帰りがいつもよりちょっと遅くなりまして、20時半くらいだったでしょうか。いつもならお風呂に入って寝る準備にかかっているところ、
子どもの就寝時間が定まっていることがうかがえる。
しんざき奥様と長男は何やら二人で算数の問題に向かい合っていて、なんか久々に空気が煮詰まっているように見えたんです。奥様の言葉を長男が受け入れない、聞かない、的な拗ねモードです。奥様もちょっと困っているように見えました。
親が子どもの勉強を見ている。そして、その様子を他の親が見ている。
あったあったこういう問題。しんざきは昔、補習塾で数年バイトをしていたことがありましたので、算数を教えるのは割と得意です。奥様には長女次女を寝かしにかかるミッションに入ってもらって、バトンタッチ。
親が子どもに勉強を教えている。
パパと勉強してみる?と言うと、長男こっちを向かないで、何か黙々とレゴブロックを片づけ続けています。ああ、なんか抱えてるなーというか、何か我慢してるなー、と。
子どもの状況を親が理解している。
取りあえずちょっと気を緩めてあげたいと思って、「長男偉いなー、こんな難しい問題、こんな時間まで勉強するの大変だったろ」と言ったら、なんと長男、いきなり泣き出しちゃったんですね。
子どものできないことを否定するのではなく受け入れている。
そういう意味では、長男は凄くいい経験が出来たなあ、と。まだほんのちょっとの期間だけど、塾に行きたいって自分で言い出して、いきなり「分からない」に突き当たって、しかもそれをちゃんと持って帰ってこれたってのはとても偉いなあ、と。更に、やたら忙しい時間なのにそれをちゃんと拾ってくれた奥様もありがたいなあ、と。
泣き出した長男は、しばらく抱っこしていたら落ち着きました。
ここはもう補足説明をするまでもないですね。これができるの凄い。ヤバい。すべてに配慮している。
その算数の問題自体は、なにせ昔何十人も教えていた問題なので、教えることは簡単でした。ただ、折角なので、「いくつもやり方があって、その中から自分に合ってそうなやり方を選ぶ」っていう経験はさせてあげたいなーと思いまして、何パターンか解き方は教えてあげました。多分一回じゃ身につかないんで反復させてあげないとなって思ってるんですけれど。
魚をあげるのではなく、釣りの仕方を教えられる!
それはそれとして、傷ついているであろう長男の自信のフォローはしてあげないとなーと思いまして。最近長男ドラクエにハマってるんで、こんなたとえ話をしてみました。
子どもが分かるように説明ができてる!!
教え方の方針に意見がある人はいると思うんですけど、親が子どものことをよく見ていて、子どもの学びに普段から興味を示しているのがこれだけの文章で垣間見えます。
学歴格差が固定化するのもよく分かる
最初に紹介したお母さん(Sさん)と、このしんざきさん、非常に対照的ですよね。たまたまではありますが、私の観測範囲にこの二つの事例が入ってきて、「そりゃ、学歴格差は固定化するよな」と改めて思いました。
なぜ、お金をかけないで子どもに学力を身に付けさせたいか - 斗比主閲子の姑日記
ちなみに学歴は、Sさんは高卒で、しんざきさんは東大卒です。生活に余裕があるのとないのとのでも子どもの環境に大きな違いは出るもので、しんざきさんの家は両親が子どもの就寝時間前には家にいます。
ただ、客観的な環境だけではなく、日々の子どもとの接し方や親の関心の持ち方で随分差が出るものです。
語彙の差も大きい
私が普段子育てしていて気付くのは、親の語彙力が子どもの語彙力に関係しているということ。親が子どもに読み聞かせをしているかどうかに関係なく、親が子どもとよく話していて、親の語彙が豊富だと、子どもの語彙も豊富になっている。
語彙力は学力の基礎です。
日本語を勉強しているとあまり意識しないかもですが、外国語を勉強するときには発音と語彙力が大事だというのはよく言われますよね。会話では知らない単語が少しでも混じると相手が何を言っているか分かりません。
また、日常会話は単語を1000語ぐらい知っていればできるけど、それでできる仕事には限界があります。高収入の仕事では豊富な語彙が(暗黙に)求められます。
実際、世帯年収が高い人ほど語彙力があり、
※画像は第1回 現代人の語彙に関する調査 結果速報 - 語彙・読解力検定より
そして、世帯年収が高いほど子どもの語彙力は高い傾向にあります。
※画像は教育の効果について~社会経済的効果を中心に~平成26年12月3日(教育再生実行会議第3分科会国立教育政策研究所)より
共有型しつけで語彙は伸びる
ただ、親の学歴や年収だけですべて説明できるかといえば、やはり親による子どもの接し方で、子どもの学力が変わる部分はあります。
上で紹介した世帯年収と子どもの語彙の表の出典は浜野さんと内田さんの論文です。この研究内容で内田さんと聞いたらピンとくる人もいると思いますが、お茶の水女子大学の名誉教授の内田伸子さんです。しまじろうやおかあさんといっしょに様々な形で監修された方。このブログでも3年前に紹介しました。
"オッス!オラ、イクメン!"のちょい燃え解説と、共有型しつけの紹介 - 斗比主閲子の姑日記
内田伸子さんは語彙力についてこんな研究を発表されています。
幼児期における読み書き能力の獲得過程とその環境要因の影響に関する国際比較研究(平成 23 年度年 報 第 4 号 お茶の水女子大学 人間発達教育研究センター)
調査の結果、リテラシーは 5 歳になると経済格差や性差要因の影響がみられなくなるが、語彙力(学力基盤力の指標)は加齢に伴い経済格差要因の影響が顕在化する。また、しつけスタイルと家庭の蔵書数も語彙力と強い正の関連をもっている。
ここだけ読むと「やっぱり、親の年収が大きいんだ」とがっくりきそうだけれど、
しかし、しつけスタイルの要因を統制すると、経済格差要因と語彙力との関連が見られなくなるのである。つまり、経済格差が子どもの語彙に関連するというのは見かけの相関であり、語彙力に関連しているのは親の子どもへの関わり方であることが判明したのである(内田他,2010;2011, Uchida & Ishida, 2011)。
特に注目されるのは、低収入層であっても、共有型しつけスタイルをとれば、語彙能力は低下しないという点である。しつけスタイルは親が子どもへの関わり方を変えることにより、制御可能な要因である。
たとえ低収入であっても親の子育てスタイルで子どもの語彙は増やせるということを確認しています。具体的には、
大人が子どもと対等な関係で触れ合いを重視し、楽しい体験を共有する家庭の子どもの語彙力が豊かになることが示唆された。
という共有型しつけのスタイルです。また、研究から確認できたことを考慮して子育ての10カ条として紹介されています。
「子育ての 10 カ条」
第1に、親子の間に対等な人間関係をつくること
第2に、親は子どもの安全基地になること
第3に、子どもに「勝ち負けのことば」を使わない
第4に、子どものことばや行動を共感的に受け留め、受け入れる
第5に、他児と比べず、その子自身が以前より進歩したときに承認し、誉める
第6に、裁判官のように禁止や命令ではなく、「~したら」と提案の形で対案を述べる
第7に、教師のように完璧な・詳細な・隙のない、説明や定義を述べ立てない
第8に、子ども自身に考える余地を残す働きかけをすること
第9に、親は「待つ」「みきわめる」「急がない」「急がせない」で子どもがつまづいたときに支え、足場をかけ、子ども一歩踏み出せるように、わきから助けてあげる
第 10 に、子どもと共に暮らす幸せを味わおう
まさにしんざきさんがやられていることです。
締め
「子育ての 10 カ条」がすべてできる親はそうそういないとも思っています。
私が考えている阻害要因としては、年収や学歴の要素ではなく、その親自身がどういう教育を親や教師からされたかというもの。
一昔前の親や教師は、自分たちを絶対のものとして服従させる傾向がありましたからね。きょうだい同士や他人の子どもともよく比較をしてましたし、プロセスを褒めるより、結果で評価していました。子どもをサポートするのではなく、命令していた。
親にそうやって教えられて育って、自分が大人になったらまずは親のマネをする人が多いと思います。結婚する前に、相手の両親がどんな関係かを見ておくといいのと同じですよね。ほとんどの人にとってはロールモデルは親だから。
そんなわけで、学歴格差が固定化するのを防ぐには、自分がされた教育の呪縛から親本人を解き放すことが必要だと私は考えています。社会によるものも大きいので、簡単じゃないですけどね。
本の紹介
私が冒頭に紹介したお母さん(Sさん)に紹介した本はこちらです。
500円というお値段とKindleで出ているからスマホで読めてお手軽だと思ってお勧めしました。そんなに内容は難しくありません。
Sさんにはお勧めしませんでしたけど、最近読んで、悪くないなと思った本を2冊、ついでに紹介しておきます。
読んでると著者のコンプレックスがぐいぐいぶつかってきて辛いんですが、子どもの学力等がどうやったら向上するかエビデンスを丁寧にまとめてくれています。
もう一冊はこちら。
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タイトルと表紙のゴテゴテ感で吐き気を催しますが、中身は子育てにおいてエビデンスがあることをシンプルに淡々と紹介してくれています。シンプルすぎて時には1ページに5行ぐらいしかないときもあります。このシンプルさが、私は凄く好きです。しかし、何しろ、タイトルが気持ち悪い。